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新たな関係
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「コンピューターの隙をついて神託を送るにしても、できて1、2回。しかも、私が神託を送れるのは、どうもエドワードを除く自分が生み出したキャラクターだけみたいで。悩んだ末に、私は幼少期のアストルディアに賭けることにしたの。お兄は、一度決めた優先順位は崩さない質だから、弟レオナルドに依存する前に、他の誰かに依存させる必要があった。原作アストルディアはわりと駄目男だけど、一応エドワードとの親友時代はそこそこまともだった設定だから、幼少期にお兄と出会うことができれば化けるかもと期待したんだ。……さすがにあそこまでスパダリになるなんて、予想外過ぎたけどさ」
「……その相手が、ヴィダルスという選択肢はなかったのか?」
「ヴィダルスは倫理観0なキャラだから。年齢的にもネーバ山越えできるか微妙だったし、出会ってお兄を気に入ったら、幼少期でも普通に拉致監禁してメリバエンドにしそうだなと思って」
「いや、さすがにそんなこと……」
……するな。ヴィダルスなら。そんで共依存関係が芽生える過程の陰で、密かに辺境伯領滅びてそうだ。
「……でもね。そんなヴィダルスでも、私が生み出したキャラクターなのは間違いないから。できれば、ちゃんと幸せになってほしかったんだよ。だから、2回目の時はヴィダルスとアストルディア、両方に私が前日譚として書いた物語を夢見させたんだ。アストルディアもちろん、きっと壊れたお兄を見る前のヴィダルスも、そんな悲惨な未来を拒絶してくれると思って」
だが、そうはならなかった。
ヴィダルスは、まなが見せた夢を望み、自ら破滅の道を突き進んでいった。
彼を産み出したはずの、まなの想定を超えて。
「……本当に、あの子にはかわいそうなことをしたと思ってる。でもね、その咎はあくまであの子を創り出した私のもので、お兄のせいではないんだよ。だから、お兄は何も気に病まなくていいんだ」
「……気に病んでなんか」
「ヴィダルスだけじゃなく、お兄の今までの不幸は全部私のせい。恨んでくれても、いいよ。結局私は、お兄を不幸にすることしかできなかった」
「っそんなことはない!」
それまではピクリとも動かなかったはずの体が、その時初めて動いた。
ぶちぶちと目に見えない拘束を引きちぎるように立ち上がり、実体のないまなの体を強く強く抱き締める。
「……遠藤斗和の人生は、妹であるお前がいてくれたからこそ、幸せだった! お前が傍で笑ってくれる、それだけで俺は全てが報われた気がしたんだ! エドワードの運命が変わったのも、全てお前の助力があったからだ!」
「……お兄」
「恨むはず、ないだろ……世界で一番大切だった、可愛い妹を。死後もずっと俺の幸福を祈り続けてくれるお前を、恨めるわけがない」
エドワード・ネルドゥースにとって、優先順位の第一位はいつだって辺境伯領だったけど。遠藤斗和にとって、それは妹の遠藤まなだった。
誰よりも大切で、誰よりも愛おしかった、最愛の妹。
「……ありがとう。まな。俺の幸福を祈り続けてくれて」
抱き締めた腕は、空虚を抱いているように、何の感触もしない。何の熱も伝わってこない。
まなと自分が、完全に別の生き物になってしまったのだと、否が応でも突きつけられた。
「……お兄が。お兄ちゃんがそう言ってくれたなら。女神になったかいがあったかな」
ホログラムのような実体のない手を俺の背中に回して、まなが笑う。
「おかげで心置きなく、私は女神を辞めることができるよ」
「……女神を、辞める?」
「うん。最初から、約束だったの。運命を改変できようができまいが、時が来れば、その結果が人生に大きく反映される人物に転生することが、初めから決められてたの。原始の女神は記憶がないまま本来の物語通りに私を生きさせたうえで、幸福の絶頂の時に全部思い出させて絶望させるつもりだったみたいだけど……ザマァ。見事運命改変が成功して、私は誰より幸福な子どもになることが決定しましたー。ギリギリまで魂を根付かせなかったせいで、うっかり体が先に死んじゃうとこだったけど、お兄の友達とお母さんのおかげで間に合ったみたいだし」
「……それって、どういう」
「これからはずっと、お兄の傍にいれるってことだよ。記憶も忘れちゃうし、性別も関係も変わるけど……それでも私はまた、お兄の家族になれる」
「……その相手が、ヴィダルスという選択肢はなかったのか?」
「ヴィダルスは倫理観0なキャラだから。年齢的にもネーバ山越えできるか微妙だったし、出会ってお兄を気に入ったら、幼少期でも普通に拉致監禁してメリバエンドにしそうだなと思って」
「いや、さすがにそんなこと……」
……するな。ヴィダルスなら。そんで共依存関係が芽生える過程の陰で、密かに辺境伯領滅びてそうだ。
「……でもね。そんなヴィダルスでも、私が生み出したキャラクターなのは間違いないから。できれば、ちゃんと幸せになってほしかったんだよ。だから、2回目の時はヴィダルスとアストルディア、両方に私が前日譚として書いた物語を夢見させたんだ。アストルディアもちろん、きっと壊れたお兄を見る前のヴィダルスも、そんな悲惨な未来を拒絶してくれると思って」
だが、そうはならなかった。
ヴィダルスは、まなが見せた夢を望み、自ら破滅の道を突き進んでいった。
彼を産み出したはずの、まなの想定を超えて。
「……本当に、あの子にはかわいそうなことをしたと思ってる。でもね、その咎はあくまであの子を創り出した私のもので、お兄のせいではないんだよ。だから、お兄は何も気に病まなくていいんだ」
「……気に病んでなんか」
「ヴィダルスだけじゃなく、お兄の今までの不幸は全部私のせい。恨んでくれても、いいよ。結局私は、お兄を不幸にすることしかできなかった」
「っそんなことはない!」
それまではピクリとも動かなかったはずの体が、その時初めて動いた。
ぶちぶちと目に見えない拘束を引きちぎるように立ち上がり、実体のないまなの体を強く強く抱き締める。
「……遠藤斗和の人生は、妹であるお前がいてくれたからこそ、幸せだった! お前が傍で笑ってくれる、それだけで俺は全てが報われた気がしたんだ! エドワードの運命が変わったのも、全てお前の助力があったからだ!」
「……お兄」
「恨むはず、ないだろ……世界で一番大切だった、可愛い妹を。死後もずっと俺の幸福を祈り続けてくれるお前を、恨めるわけがない」
エドワード・ネルドゥースにとって、優先順位の第一位はいつだって辺境伯領だったけど。遠藤斗和にとって、それは妹の遠藤まなだった。
誰よりも大切で、誰よりも愛おしかった、最愛の妹。
「……ありがとう。まな。俺の幸福を祈り続けてくれて」
抱き締めた腕は、空虚を抱いているように、何の感触もしない。何の熱も伝わってこない。
まなと自分が、完全に別の生き物になってしまったのだと、否が応でも突きつけられた。
「……お兄が。お兄ちゃんがそう言ってくれたなら。女神になったかいがあったかな」
ホログラムのような実体のない手を俺の背中に回して、まなが笑う。
「おかげで心置きなく、私は女神を辞めることができるよ」
「……女神を、辞める?」
「うん。最初から、約束だったの。運命を改変できようができまいが、時が来れば、その結果が人生に大きく反映される人物に転生することが、初めから決められてたの。原始の女神は記憶がないまま本来の物語通りに私を生きさせたうえで、幸福の絶頂の時に全部思い出させて絶望させるつもりだったみたいだけど……ザマァ。見事運命改変が成功して、私は誰より幸福な子どもになることが決定しましたー。ギリギリまで魂を根付かせなかったせいで、うっかり体が先に死んじゃうとこだったけど、お兄の友達とお母さんのおかげで間に合ったみたいだし」
「……それって、どういう」
「これからはずっと、お兄の傍にいれるってことだよ。記憶も忘れちゃうし、性別も関係も変わるけど……それでも私はまた、お兄の家族になれる」
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