上 下
292 / 311

新たな関係

しおりを挟む
「コンピューターの隙をついて神託を送るにしても、できて1、2回。しかも、私が神託を送れるのは、どうもエドワードを除く自分が生み出したキャラクターだけみたいで。悩んだ末に、私は幼少期のアストルディアに賭けることにしたの。お兄は、一度決めた優先順位は崩さない質だから、弟レオナルドに依存する前に、他の誰かに依存させる必要があった。原作アストルディアはわりと駄目男だけど、一応エドワードとの親友時代はそこそこまともだった設定だから、幼少期にお兄と出会うことができれば化けるかもと期待したんだ。……さすがにあそこまでスパダリになるなんて、予想外過ぎたけどさ」

「……その相手が、ヴィダルスという選択肢はなかったのか?」

「ヴィダルスは倫理観0なキャラだから。年齢的にもネーバ山越えできるか微妙だったし、出会ってお兄を気に入ったら、幼少期でも普通に拉致監禁してメリバエンドにしそうだなと思って」

「いや、さすがにそんなこと……」

 ……するな。ヴィダルスなら。そんで共依存関係が芽生える過程の陰で、密かに辺境伯領滅びてそうだ。

「……でもね。そんなヴィダルスでも、私が生み出したキャラクターなのは間違いないから。できれば、ちゃんと幸せになってほしかったんだよ。だから、2回目の時はヴィダルスとアストルディア、両方に私が前日譚として書いた物語を夢見させたんだ。アストルディアもちろん、きっと壊れたお兄を見る前のヴィダルスも、そんな悲惨な未来を拒絶してくれると思って」

 だが、そうはならなかった。
 ヴィダルスは、まなが見せた夢を望み、自ら破滅の道を突き進んでいった。
 彼を産み出したはずの、まなの想定を超えて。

「……本当に、あの子にはかわいそうなことをしたと思ってる。でもね、その咎はあくまであの子を創り出した私のもので、お兄のせいではないんだよ。だから、お兄は何も気に病まなくていいんだ」

「……気に病んでなんか」

「ヴィダルスだけじゃなく、お兄の今までの不幸は全部私のせい。恨んでくれても、いいよ。結局私は、お兄を不幸にすることしかできなかった」

「っそんなことはない!」

 それまではピクリとも動かなかったはずの体が、その時初めて動いた。
 ぶちぶちと目に見えない拘束を引きちぎるように立ち上がり、実体のないまなの体を強く強く抱き締める。

「……遠藤斗和の人生は、妹であるお前がいてくれたからこそ、幸せだった! お前が傍で笑ってくれる、それだけで俺は全てが報われた気がしたんだ! エドワードの運命が変わったのも、全てお前の助力があったからだ!」

「……お兄」

「恨むはず、ないだろ……世界で一番大切だった、可愛い妹を。死後もずっと俺の幸福を祈り続けてくれるお前を、恨めるわけがない」

 エドワード・ネルドゥースにとって、優先順位の第一位はいつだって辺境伯領だったけど。遠藤斗和にとって、それは妹の遠藤まなだった。
 誰よりも大切で、誰よりも愛おしかった、最愛の妹。

「……ありがとう。まな。俺の幸福を祈り続けてくれて」

 抱き締めた腕は、空虚を抱いているように、何の感触もしない。何の熱も伝わってこない。
 まなと自分が、完全に別の生き物になってしまったのだと、否が応でも突きつけられた。

「……お兄が。お兄ちゃんがそう言ってくれたなら。女神になったかいがあったかな」

 ホログラムのような実体のない手を俺の背中に回して、まなが笑う。

「おかげで心置きなく、私は女神を辞めることができるよ」

「……女神を、辞める?」

「うん。最初から、約束だったの。運命を改変できようができまいが、時が来れば、その結果が人生に大きく反映される人物に転生することが、初めから決められてたの。原始の女神は記憶がないまま本来の物語通りに私を生きさせたうえで、幸福の絶頂の時に全部思い出させて絶望させるつもりだったみたいだけど……ザマァ。見事運命改変が成功して、私は誰より幸福な子どもになることが決定しましたー。ギリギリまで魂を根付かせなかったせいで、うっかり体が先に死んじゃうとこだったけど、お兄の友達とお母さんのおかげで間に合ったみたいだし」

「……それって、どういう」

「これからはずっと、お兄の傍にいれるってことだよ。記憶も忘れちゃうし、性別も関係も変わるけど……それでも私はまた、お兄の家族になれる」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

処理中です...