285 / 311
あったかもしれない最期④
しおりを挟む
この狂った執着を、愛だなんてお綺麗な言葉で表して良いのか、正直迷う所だが。
多分そういう耳障りの良い言葉の方が、エドワードには効くだろうから、敢えてそう言ってやった。
案の定、エドワードから漂う罪悪感の匂いが濃くなる。
『……馬鹿じゃねぇの。俺に利用されてるとわかってて、よくそんなことを言えるな』
エドワードの難儀な所は、壊れてなお、以前の倫理観や良識は変わらず持ち続けている所だ。
一番に定めた優先順位は絶対で、その一番の為ならどれほど非道なことだってやってのける覚悟はできているし、実際実行するのに、完全に割り切ることはできずに罪悪感で苦しむ。
最後はその罪悪感すら復讐の燃料にするにしても、損な性格だと思う。俺がエドワードなら、何も気にしねぇでガキのことも俺のことも利用して、骨の髄までしゃぶり尽くすのに。
でも、だからこそ、俺はそこにつけ込むことができる。
『だから、利用されてやってるんだって。お前の為なら何だってしてやるって言ってんだから信じろよ』
『……なら、俺の為に死ねるのかよ』
『っ』
あまりにも予想外過ぎる返しに、思わず言葉に詰まった。
『できねぇだろ。だったら何だってしてやるなんて……』
『何、当たり前のこと言ってんだよ。死ねるに決まってんだろ』
何故できないと思ったのか。その方が不思議だ。
狼獣人が、番の為に命を投げ出すことなんて、珍しい話でもないのに。
そもそもエドワードが先に死んだら、当然後を追うつもりだった。エドワードがいない、以前のつまらねぇ日々に戻ることなんて、耐えられない。
しばしば番を亡くした狼獣人が、番の魔力を求めて自分のガキを襲ったりもするが、どんだけ狂ったとしても、俺があのガキをエドワードの息子ってだけで代替にできるとも思えねぇしな。
だから順番こそ前後しても、エドワードの為に死ぬだなんて、俺にとってはただの予定調和に過ぎないのに。
『それがお前の望みなら、いつか、お前の為に死んでやるよ。エドワード。だから、俺を信じてくれ』
『な……』
『お前は俺の番で……俺はお前の共犯者だ。お前が望むなら、世界だって滅ぼしてやるよ』
エドワードの罪悪感の匂いが、ますます強くなった。
そして、それに混ざる憐れみと……ほんの微かな愛にも似た依存の匂い。
『……馬鹿じゃねぇの……』
それきりエドワードは黙り込んでしまったが、抱きついた背中から伝わる気配で、声に出さずに泣いているのがわかった。
ーーアストルディアはもちろん、アストルディアとのガキよりも憎まれることができないのなら、俺はエドワードに愛されたい。
二人がどれだけ望んでも手に入らない、特別が欲しい。
その為なら、俺は命だって捧げてみせる。
それからは少しずつではあるが、確実にエドワードは俺に依存していくのがわかった。
閨で無理やり言わせていた「ヴィー」と言う愛称を日常的に使うようになったし、時たまわずかに笑顔を見せる日すら出てきた。
エドワードの依存が大きくなればなるほど、ますます愛おしさは増していく。
どれほど俺に向ける好意が育っても、エドワードが復讐を諦めることはないのはわかっていた。諦められる奴なら、ここまで夢中になっていない。
それでもその、いつ終わってもおかしくない日々が、たまらなく幸せだった。これ以上の幸せはないんじゃないかと、思うくらいに幸せだった。
『……暗殺に、失敗したようだ。全ての罪をかぶって、俺の為に死んでくれるか。ヴィー』
けれどもその言葉をエドワードが口にした瞬間は、もっと幸福だった。
そう言ったエドワードは、闇魔法を行使していなかったから。
『いいぜ、エド。その代わり、最後に一発ヤらせろよ。できれば正面から』
体の負担は心配であるが、最後くらいはエドワードの顔を見ながらヤリたい。もう十年以上、後ろからしかシてねぇしな。
そう答えた瞬間、エドワードの蒼玉の目から涙が溢れた。
『……なんで、あっさり承諾するんだよ……』
多分そういう耳障りの良い言葉の方が、エドワードには効くだろうから、敢えてそう言ってやった。
案の定、エドワードから漂う罪悪感の匂いが濃くなる。
『……馬鹿じゃねぇの。俺に利用されてるとわかってて、よくそんなことを言えるな』
エドワードの難儀な所は、壊れてなお、以前の倫理観や良識は変わらず持ち続けている所だ。
一番に定めた優先順位は絶対で、その一番の為ならどれほど非道なことだってやってのける覚悟はできているし、実際実行するのに、完全に割り切ることはできずに罪悪感で苦しむ。
最後はその罪悪感すら復讐の燃料にするにしても、損な性格だと思う。俺がエドワードなら、何も気にしねぇでガキのことも俺のことも利用して、骨の髄までしゃぶり尽くすのに。
でも、だからこそ、俺はそこにつけ込むことができる。
『だから、利用されてやってるんだって。お前の為なら何だってしてやるって言ってんだから信じろよ』
『……なら、俺の為に死ねるのかよ』
『っ』
あまりにも予想外過ぎる返しに、思わず言葉に詰まった。
『できねぇだろ。だったら何だってしてやるなんて……』
『何、当たり前のこと言ってんだよ。死ねるに決まってんだろ』
何故できないと思ったのか。その方が不思議だ。
狼獣人が、番の為に命を投げ出すことなんて、珍しい話でもないのに。
そもそもエドワードが先に死んだら、当然後を追うつもりだった。エドワードがいない、以前のつまらねぇ日々に戻ることなんて、耐えられない。
しばしば番を亡くした狼獣人が、番の魔力を求めて自分のガキを襲ったりもするが、どんだけ狂ったとしても、俺があのガキをエドワードの息子ってだけで代替にできるとも思えねぇしな。
だから順番こそ前後しても、エドワードの為に死ぬだなんて、俺にとってはただの予定調和に過ぎないのに。
『それがお前の望みなら、いつか、お前の為に死んでやるよ。エドワード。だから、俺を信じてくれ』
『な……』
『お前は俺の番で……俺はお前の共犯者だ。お前が望むなら、世界だって滅ぼしてやるよ』
エドワードの罪悪感の匂いが、ますます強くなった。
そして、それに混ざる憐れみと……ほんの微かな愛にも似た依存の匂い。
『……馬鹿じゃねぇの……』
それきりエドワードは黙り込んでしまったが、抱きついた背中から伝わる気配で、声に出さずに泣いているのがわかった。
ーーアストルディアはもちろん、アストルディアとのガキよりも憎まれることができないのなら、俺はエドワードに愛されたい。
二人がどれだけ望んでも手に入らない、特別が欲しい。
その為なら、俺は命だって捧げてみせる。
それからは少しずつではあるが、確実にエドワードは俺に依存していくのがわかった。
閨で無理やり言わせていた「ヴィー」と言う愛称を日常的に使うようになったし、時たまわずかに笑顔を見せる日すら出てきた。
エドワードの依存が大きくなればなるほど、ますます愛おしさは増していく。
どれほど俺に向ける好意が育っても、エドワードが復讐を諦めることはないのはわかっていた。諦められる奴なら、ここまで夢中になっていない。
それでもその、いつ終わってもおかしくない日々が、たまらなく幸せだった。これ以上の幸せはないんじゃないかと、思うくらいに幸せだった。
『……暗殺に、失敗したようだ。全ての罪をかぶって、俺の為に死んでくれるか。ヴィー』
けれどもその言葉をエドワードが口にした瞬間は、もっと幸福だった。
そう言ったエドワードは、闇魔法を行使していなかったから。
『いいぜ、エド。その代わり、最後に一発ヤらせろよ。できれば正面から』
体の負担は心配であるが、最後くらいはエドワードの顔を見ながらヤリたい。もう十年以上、後ろからしかシてねぇしな。
そう答えた瞬間、エドワードの蒼玉の目から涙が溢れた。
『……なんで、あっさり承諾するんだよ……』
403
お気に入りに追加
2,079
あなたにおすすめの小説
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる