上 下
282 / 311

あったかもしれない最期①

しおりを挟む
 逃がしたことがバレないように念入りにエドワードの死を偽装して、ランドルーク家の地下室でエドワードを飼った。飼ったというよりも、寧ろ俺が飼い慣らされたというべきか。エドワードと一緒に、どこまでもどこまでも堕ちて行く自分に気づいていたが、抗う気にはならなかった。抗いたく、なかった。
 項を噛んで、アストルディアがつけた歯型を上書きし、匿ってやる代償としてその体を何度も貪った。エドワードは人形のように、ただただされるがままだったが、そんな一方的な行為でも驚くほどに満たされた。

 ……ああ、こいつは俺の番だ。
 俺のエレナ、じゃない。エレナじゃ、もう俺は満たされない。
 俺の、エドワードだ。
 俺の、だ。

 一方で、エドワードを失ったアストルディアは、大荒れに大荒れた末、母である女王を殺して、王として君臨した。
 エドワードの祖国であるリシス王国はほぼ壊滅し、壊れた闇魔法使いが、住民も含めて侵入したもの全てを闇魔法で精神操作して、歪な平和を維持している王都の一部の地域だけが残っているらしいが、故郷が滅びた時点で壊れてしまったエドワードにとっては、最早どうでもいいことのようだ。
 そいつが以前セネーバに留学してきた生徒の一人で、かつてのエドワードの友だったことも。その傍らには、もう一人の友である王子の死体があることも、薄々勘付いているだろうに。


 地下室暮らしに慣れた頃合いで、エドワードが自分が都合の良いように闇魔法で俺を操りはじめたが、俺は一切抵抗せずに受け入れた。
 そんなことをしなくても、お前が頼めば何でもしてやるのに。
 そう思いはしたが、魔法を使わなければ安心できないエドワードの気持ちもわかるから、好きにさせてやった。
 闇魔法を使えば使うほど、術者も対象者も精神を蝕まれると知っていたが、今更だった。エドワードはとっくに壊れているし、俺はエドワードに狂っていたから。

 しばらくして、エドワードはガキを産んだ。
 俺と同じ黒毛で黒い瞳の狼獣人のガキだが、俺はエドワードを孕ませないようにしていたので、アストルディアのガキであることは明白だった。
 正直生まれた瞬間噛み殺してやろうかと思ったが、エドワードがそのガキを復讐の道具にするつもりだと知って溜飲を下げた。
 最高に悪趣味なことに、エドワードは息子を暗殺者として育てたうえで、アストルディアの後宮に送り込むつもりらしい。
 狼獣人の業を思えば納得の案だが、何も知らないアストルディアに近親相姦の罪を犯させようとしている辺り、鬼畜過ぎてゾクゾクした。やっぱり俺のエドワードは、最高だ。
 ガキのことを、かわいそうだとは微塵も思わなかった。
 こいつを孕まされなければ、エドワードはここまで狂わなかったし、重い後遺症を負うこともなかったから自分自身で復讐を成しただろう。全ては、アストルディアの咎だ。恨むなら、自分の本当の父親を恨むといい。

 誤算だったのは、成長して人化できるようになったそいつが、エドワードが密かに愛していたらしい弟にそっくりだったこと。
 蓄積された闇に飲まれるたび、エドワードは錯乱のままガキを犯すようになった。エドワードに抱かれたいわけじゃねぇが、処女はアストルディアに奪われ、童貞はその息子に奪われたという事実は素直に不愉快ではある。
 だが、その結果正気に戻る度、自身の犯した罪に苦しむエドワードが俺に縋り、依存するようになったから、ある意味では結果オーライだった。

『……俺は……実の息子に……なんてことを……』

 散々虐待紛いの厳しい暗殺者教育を施して来たんだから、今更じゃねぇかとは思ったが、エドワードにとってはその一線は重いらしい。
 そういや、エドワードも同じように親父から厳しく育てられて来たらしいから、愛されて育てられた俺とは虐待の基準が違うのかもしれない。

『……お前は悪くねぇよ。エドワード。悪いのは、全部アストルディアだ。そうだろう? あいつが、お前にガキを孕ませて、壊したりしなきゃ、こんなことにはならなかったんだからよお』
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...