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知られざる裏設定
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もし、これが少年漫画かなんかだったら。「……仲間を」なんて、軽蔑の眼差しで糾弾する場面だろうが、俺はただ何も言わず冷めた目でヴィダルスを見据えた。
もしアストルディアが来るタイミングが遅ければ、俺が殺していただろう4人だ。ヴィダルスが殺したとしても、俺に非難する権利はない。
ただ、改めてヴィダルスのことをクソ野郎だと思っただけだ。
「……俺が不在の間に、随分と好き勝手やってくれたようだな。ヴィダルス」
俺を背中で庇うように前に進み出たアストルディアに、ヴィダルスは憎悪の眼差しを向けた。
「ハッ……好き勝手やったのは、お前だろう。アストルディア。よくも本来あるべき運命に逆らって、未来を変えやがったな。本当なら、エドワードは俺のもんだったのによお」
「……お前も、あの夢を見たのか」
「何が『運命を変えてください』、だ。あのクソ女神のせいで、全てがおかしくなっちまった。俺は、あの未来が良かったのに。エドワードがお前のもんになるくらいなら、一緒に地獄に落ちたかったのに」
「そのせいで、エディが不幸にもなってもか」
「善人面してんじゃねぇよっ、アストルディア! エドワードを救いに来た正義のヒーローぶってるけどよお、お前だって本質的には俺と変わらねぇだろぉが! ……いや、お前の方が俺より、よっぽどゲスだな。少なくとも俺は、まだエドワードを抱いてねぇからなァ」
……ちょっと待て。何の話をしてるんだ。
「本当ならば、エドワードの故郷を滅ぼすのは、お前のはずだった! 戦争を止められなかったお前が、エドワードを打ち倒して故郷を滅ぼして。死を願うエドワードに【隷属の首輪】をつけて、戦場で犯して孕ませるはずだったんだ! 愛してるから死なせたくないだなんて、ふざけたことを口にしながらなァ。そして、死を偽装して、エドワードを救い出すのが、本来は俺の役割だったはずだ。それなのに、人に悪役押し付けて、エドワードを奪ってんじゃねぇよっ!」
「っ」
ヴィダルスの口から語られる、知られざる原作の裏設定。
俺からすると完全に寝耳に水な衝撃の事実だったが、まるでパズルのピースがぴたっと嵌まったように、納得する自分もいた。
ずっと疑問だったんだ。故郷を滅ぼされ、愛する弟を間接的に死に追いやられたにしても……不本意な戦争に巻き込まれただけの、かつての親友を、あれほど憎めるものかと。
その背景には、俺の知らなかった、別の裏切りがあったのだ。
「……俺が、お前を悪役にしたわけじゃない。お前が自分で望んでそうなったんだ。あの夢の俺はあくまであり得た可能性の俺であって、今の俺ではない」
「お前が俺からエドワードを取らなきゃ、俺はこんなことしてねぇんだよっ!」
「……そうだな。その可能性は否定しない。もし俺がお前と同じ立場ならば、俺はお前以上に愚かな男に成り下がっていただろう。俺達は狼獣人で、認めたくはないが、本質はよく似ている」
まっすぐに金色の眼差しでヴィダルスを睨めつけながら、アストルディアが淡々と語る。
「結局の所、今の俺があるのは、幼少期に女神の夢に従ってネーバ山に赴き、幼いエディと出会えたからだ。その当時は運命のことなど知るよしもなかったが、あの出会いをきっかけに俺は変われた。ただ無気力に両親に従うのではなく、いつかエディを支え守れる男になろうと。その一心で努力してきたからこそ、俺は愚か者にならずに済んだ」
「だったら、俺でも良かっただろうが! 俺が先にエドワードに出会う未来だってあったはずなのに!」
「……お前は当時、まだネーバ山に登頂していなかった。俺には女神の考えはわからないが、恐らくはあの時あの場所で出会うことこそが、運命を変えるには重要だったんだろう」
「っふざけんな! そんな、理由で……そんなどうしようもない理由で、俺からエドワードを奪ってんじゃねぇよ! クソ女神がっ」
もしアストルディアが来るタイミングが遅ければ、俺が殺していただろう4人だ。ヴィダルスが殺したとしても、俺に非難する権利はない。
ただ、改めてヴィダルスのことをクソ野郎だと思っただけだ。
「……俺が不在の間に、随分と好き勝手やってくれたようだな。ヴィダルス」
俺を背中で庇うように前に進み出たアストルディアに、ヴィダルスは憎悪の眼差しを向けた。
「ハッ……好き勝手やったのは、お前だろう。アストルディア。よくも本来あるべき運命に逆らって、未来を変えやがったな。本当なら、エドワードは俺のもんだったのによお」
「……お前も、あの夢を見たのか」
「何が『運命を変えてください』、だ。あのクソ女神のせいで、全てがおかしくなっちまった。俺は、あの未来が良かったのに。エドワードがお前のもんになるくらいなら、一緒に地獄に落ちたかったのに」
「そのせいで、エディが不幸にもなってもか」
「善人面してんじゃねぇよっ、アストルディア! エドワードを救いに来た正義のヒーローぶってるけどよお、お前だって本質的には俺と変わらねぇだろぉが! ……いや、お前の方が俺より、よっぽどゲスだな。少なくとも俺は、まだエドワードを抱いてねぇからなァ」
……ちょっと待て。何の話をしてるんだ。
「本当ならば、エドワードの故郷を滅ぼすのは、お前のはずだった! 戦争を止められなかったお前が、エドワードを打ち倒して故郷を滅ぼして。死を願うエドワードに【隷属の首輪】をつけて、戦場で犯して孕ませるはずだったんだ! 愛してるから死なせたくないだなんて、ふざけたことを口にしながらなァ。そして、死を偽装して、エドワードを救い出すのが、本来は俺の役割だったはずだ。それなのに、人に悪役押し付けて、エドワードを奪ってんじゃねぇよっ!」
「っ」
ヴィダルスの口から語られる、知られざる原作の裏設定。
俺からすると完全に寝耳に水な衝撃の事実だったが、まるでパズルのピースがぴたっと嵌まったように、納得する自分もいた。
ずっと疑問だったんだ。故郷を滅ぼされ、愛する弟を間接的に死に追いやられたにしても……不本意な戦争に巻き込まれただけの、かつての親友を、あれほど憎めるものかと。
その背景には、俺の知らなかった、別の裏切りがあったのだ。
「……俺が、お前を悪役にしたわけじゃない。お前が自分で望んでそうなったんだ。あの夢の俺はあくまであり得た可能性の俺であって、今の俺ではない」
「お前が俺からエドワードを取らなきゃ、俺はこんなことしてねぇんだよっ!」
「……そうだな。その可能性は否定しない。もし俺がお前と同じ立場ならば、俺はお前以上に愚かな男に成り下がっていただろう。俺達は狼獣人で、認めたくはないが、本質はよく似ている」
まっすぐに金色の眼差しでヴィダルスを睨めつけながら、アストルディアが淡々と語る。
「結局の所、今の俺があるのは、幼少期に女神の夢に従ってネーバ山に赴き、幼いエディと出会えたからだ。その当時は運命のことなど知るよしもなかったが、あの出会いをきっかけに俺は変われた。ただ無気力に両親に従うのではなく、いつかエディを支え守れる男になろうと。その一心で努力してきたからこそ、俺は愚か者にならずに済んだ」
「だったら、俺でも良かっただろうが! 俺が先にエドワードに出会う未来だってあったはずなのに!」
「……お前は当時、まだネーバ山に登頂していなかった。俺には女神の考えはわからないが、恐らくはあの時あの場所で出会うことこそが、運命を変えるには重要だったんだろう」
「っふざけんな! そんな、理由で……そんなどうしようもない理由で、俺からエドワードを奪ってんじゃねぇよ! クソ女神がっ」
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