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決戦②

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 子どものように俺にしがみついて泣きじゃくる、小さな獣の体を優しく抱きしめる。

「ごべん、ごめん、エド様……俺、何にもできなかった。俺、アホだから、どうすればいいかわからなくて。タンクに、このことを伝えるが精一杯だったんだ……」

「……大丈夫だよ。アンゼ。お前の事情も、ちゃんとわかってるから。俺の為に悩んでくれて、ありがとう」

 お前がタンクに伝えてくれたから、今俺はここにいるんだよ。……と、言う言葉は伝えられなかった。

 こちらを見据えるヴィダルスの目が、あまりにも冷たかったから。

「……おい。アンゼベルグ。てめえ、部隊の極秘情報を、外部の奴に漏らしやがったのか」

「……タンクは王宮兵だ。丸っきり部外者と言うわけじゃないだろう」

「エドワード、今は口を挟むな。これは兵団の問題だ。俺の部隊以外の奴に情報漏洩した時点で、許されねぇ規律違反なんだよ。おい、アンゼベルグ。てめえ、何考えてやがる。俺の部隊に居続けたいのなら、俺の命令を第一に考えろって言ったよな。俺に忠実であることが、今回の遠征にお前を連れて行く条件だったろうが」

 泣くのをやめて、俺から離れたアンゼが、ヴィダルスに向かって牙を剥く。

「……俺が今回同行を希望したのは、全部エド様の為だ。お前と同行することで、何とかお前の凶行を止められないかと。それができないのならせめて、エド様の家族だけでも救えないかと思って着いてきただけで、お前に従うつもりなんか最初からねーよ!」

「上官命令に逆らうことが、何を意味するかわかってて言ってんだな?」

「わかってるよ! それでも俺は、友達の大切なものが目の前で踏みにじられるなんて、耐えられねーんだ!」

「そうか。……残念だ。アンゼベルグ。俺はお前にはそれなりに期待してたのによ」

「っアンゼ!」

 二体の獣が互いに飛びかかったのと同時に、アンゼの周囲に結界を張ったが、ヴィダルスは一瞬にしてそれを無効化した。
 瞬時に間に入って、ヴィダルスに向かって剣を繰り出すも、体をひねってそれを避けたヴィダルスの爪が、噛みつこうとしていたアンゼの腹を指ごと貫く方が早かった。

「っアンゼー!!!」

 噴水のように血しぶきがあがる様が、まるでスローモーションのように見えた。慌てて聖魔法を行使したが、アンゼの小さな体はそのまま地面に強かに叩きつけられ、動かなくなった。

「ったく、弱ぇ癖にイキがりやがって……本気で、俺に勝てると思ってたなら、本当に救えねぇアホだな」

 血塗れの手を振るヴィダルスの悪態を無視し、そっと抱き上げたアンゼの体は、まだ温かいのに、ぴくりとも動かなくて。
 俺の聖魔法は、即死でない限り有効だ。……つまり、これは、そういうことなんだろう。
 アンゼの体をこれ以上傷つけられないように、隅に運んでヴィダルスに向きなおった時には、ヴィダルスの部下全員が地上に降りたっていた。その中には、見覚えのある毛皮のジャガーが二体、混ざっている。

「……こんなかに、上官命令だからと望まずここにやって来た奴はいるか。いるなら今のうち名乗り出ておけ」

 知能が高い肉食獣十数体に獲物としてターゲットロックされている絶対絶命の状況ながらも、微塵と焦りは湧いて来なかった。
 湧き上がるのは、ただ怒りのみ。 

「じゃなきゃ、全員殺しちまうかもしれねぇからな。さすがの俺も、この人数相手じゃ手加減できない。殺される覚悟がある奴だけ、かかって来い」

「ハハッ、それでこそ俺の番だ。この人数相手に怯みもしねぇ。安心しろよ。エドワード。今回連れて来た奴らは、アンゼベルグを除けば、全員が人間を繁殖用の家畜としか思わねぇ開戦派だ。いざ蹂躙となった際に、尻込みされたら困るからなァ。ガキだろうが、躊躇なく殺せる奴らを選んだから、気兼ねなく戦え」

「そんな中に、何故敢えてアンゼを選んだ」

「お前の情報が入るかと思ってな。匂いでノリ気じゃねぇのはわかっていたが、元々王宮に大した伝手もねぇようだから、たとえ造反されても危険はないと思ってたんだが……失敗した。まさか、こいつの情報漏洩が、お前の脱獄を手助けすることになるとはなァ」

 ……くそっ、敢えて明言は避けていたのに、アンゼがタンクに事情を話した結果、俺が王宮脱出できたと勘付かれたな。こいつは変に察しがいいから、油断できない。
 さすがにタンクがたった一人で大した策もないまま俺を救出に来たうえに、周りをたらしまくってた結果、運良く脱出に成功したことまでは気づいていないようだが。改めて考えると、タンクすげぇな。
 
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