272 / 311
いざ、決戦の地へ②
しおりを挟む
本来なら、こういう危機的状況にアストルディアが駆けつけてくれることは、大喜びで歓迎すべき所だ。
自分で言うのもなんだが、俺はアストルディアに非常に大切にされてきた。実際そのおかげで、獣人達はアストルディアの報復を恐れて、俺に監禁以上のことはしなかったしな。
戦うなら一人の方がいいと言ったが、アストルディアなら話は別だ。アストルディアは俺と違ってきちんと駒の育成はできていたし、王族の嗜み?として、大勢を率いて戦う訓練も重ねてきたと聞いている。共闘に慣れない俺にも、きっと合わせて戦ってくれるはず。一人最強でありさえすればいいと、ネグレクト気味に英雄にされた俺とは根本的に違うのだ。……なんてか、これもWじじいの策略の一つだよな。改めて考えると。ジジイ達が求めたのは自分達が動かせる兵器の作成であって、戦闘の指導者じゃねぇもんな。当然と言えば当然の結果か。
アストルディアが助けに来てさえくれば、もはやその時点で勝ち確。約束された大団円。俺達二人が協力すれば、ヴィダルスはもちろん、他の誰にも負ける気はしない。……のではあるのだけど。
『誰も、お前の言葉なんか信じねぇよ。エドワード。もし仮に、アストルディアがニルカグル殺しの犯人でないのなら……あいつはきっと、お前を犯人だと思っているさ。お前にハメられた、まんまと罪をかぶせられた、ってなァ』
『知ってるか、エドワード。狼獣人は番に対して愛情深い分、裏切られた時の反動は凄まじいんだ。きっと今頃アストルディアは、お前のことを殺したいくらい憎んでるはずだ』
……ヴィダルスのこの言葉が、ボディブローのようにじわじわ効いてきてるんだよなあ。もはや呪い。
アストルディアなら大丈夫。仮に誤解していたとしても話せばわかると自分に言い聞かせてきたけど……やっぱり運命の強制力が怖い。
他の獣人達はアストルディアが狼獣人というだけで、番の俺に無条件に味方すると思ってるようだけど。同族であり、アストルディアと付き合いが長いヴィダルスの方が、アストルディアの解像度は高いのではと思ってしまう。もちろん、この言葉自体が、俺の心を折る為のデタラメの可能性も考慮はしているけれど。
その気になれば俺の救出なんて簡単あろうアストルディアが、今の今までやって来てないことが、ヴィダルスの言葉の正しさを、証明している気がして。
「……今はまだ、来ないでくれる方が嬉しいかな」
「兄上?」
「何でもない。……レオ。お前は戦闘能力では劣るかもしれないが、次期領主としての能力は俺より勝っている。これから父上が、ネーバ山麓付近の領民に避難指示を出すはずだから、お前はそれを手伝ってくれ。父上は親としては問題がある人だが、領主としては尊敬に値する人だ。きっとその経験は、お前の糧になる」
考えても仕方ないことに、思い悩んでいる時間はない。
心配そうなレオの肩を叩き、どこか苦しげな顔の親父を真っ直ぐ見据える。
「……それでは、父上。後のことはよろしくお願いします。レオのことも」
「ああ。……また、明日会おう」
「ええ、必ず」
それだけ言い残すと、俺はネーバ山へ転移した。
「……うう。魔力枯渇状態ってこんな感じか。くそだるい」
元々転移魔道具に魔力を半分取られてたせいで、二つの結界を念入りに強化して、破られた際の親父への警報機能もつけたら完全に魔力がなくなった。
最上級のマジックポーションを、何本もお腹タプタプになるまで飲んだら大分回復したが、残念ながら俺にはMPゲージが見えないので、実際完璧に回復したかはわからない。わからないけど、体力回復のポーションも飲んだから、いい加減腹が限界だ。油断したら吐きそう。
「ポーション使ったせいで、体調悪くしたら本末転倒じゃねぇか……体力回復の方は聖魔法使えば良かった」
でも、決戦の前にできるだけ魔力温存しておきたかったんだよな。……頼むから、今はまだ来てくれるなよ。ヴィダルス。まだ夜だから、大丈夫だとは思うが。
近くの木にもたれかかって休んでると、大分体が楽になってきた。
代わりに腹の子が、ポーションの海に溺れることを抗議するように、思いきり腹の中から蹴り上げてくる。
「……ごめん、ごめん。もう飲まないから、もうしばらく我慢してくれ」
自分で言うのもなんだが、俺はアストルディアに非常に大切にされてきた。実際そのおかげで、獣人達はアストルディアの報復を恐れて、俺に監禁以上のことはしなかったしな。
戦うなら一人の方がいいと言ったが、アストルディアなら話は別だ。アストルディアは俺と違ってきちんと駒の育成はできていたし、王族の嗜み?として、大勢を率いて戦う訓練も重ねてきたと聞いている。共闘に慣れない俺にも、きっと合わせて戦ってくれるはず。一人最強でありさえすればいいと、ネグレクト気味に英雄にされた俺とは根本的に違うのだ。……なんてか、これもWじじいの策略の一つだよな。改めて考えると。ジジイ達が求めたのは自分達が動かせる兵器の作成であって、戦闘の指導者じゃねぇもんな。当然と言えば当然の結果か。
アストルディアが助けに来てさえくれば、もはやその時点で勝ち確。約束された大団円。俺達二人が協力すれば、ヴィダルスはもちろん、他の誰にも負ける気はしない。……のではあるのだけど。
『誰も、お前の言葉なんか信じねぇよ。エドワード。もし仮に、アストルディアがニルカグル殺しの犯人でないのなら……あいつはきっと、お前を犯人だと思っているさ。お前にハメられた、まんまと罪をかぶせられた、ってなァ』
『知ってるか、エドワード。狼獣人は番に対して愛情深い分、裏切られた時の反動は凄まじいんだ。きっと今頃アストルディアは、お前のことを殺したいくらい憎んでるはずだ』
……ヴィダルスのこの言葉が、ボディブローのようにじわじわ効いてきてるんだよなあ。もはや呪い。
アストルディアなら大丈夫。仮に誤解していたとしても話せばわかると自分に言い聞かせてきたけど……やっぱり運命の強制力が怖い。
他の獣人達はアストルディアが狼獣人というだけで、番の俺に無条件に味方すると思ってるようだけど。同族であり、アストルディアと付き合いが長いヴィダルスの方が、アストルディアの解像度は高いのではと思ってしまう。もちろん、この言葉自体が、俺の心を折る為のデタラメの可能性も考慮はしているけれど。
その気になれば俺の救出なんて簡単あろうアストルディアが、今の今までやって来てないことが、ヴィダルスの言葉の正しさを、証明している気がして。
「……今はまだ、来ないでくれる方が嬉しいかな」
「兄上?」
「何でもない。……レオ。お前は戦闘能力では劣るかもしれないが、次期領主としての能力は俺より勝っている。これから父上が、ネーバ山麓付近の領民に避難指示を出すはずだから、お前はそれを手伝ってくれ。父上は親としては問題がある人だが、領主としては尊敬に値する人だ。きっとその経験は、お前の糧になる」
考えても仕方ないことに、思い悩んでいる時間はない。
心配そうなレオの肩を叩き、どこか苦しげな顔の親父を真っ直ぐ見据える。
「……それでは、父上。後のことはよろしくお願いします。レオのことも」
「ああ。……また、明日会おう」
「ええ、必ず」
それだけ言い残すと、俺はネーバ山へ転移した。
「……うう。魔力枯渇状態ってこんな感じか。くそだるい」
元々転移魔道具に魔力を半分取られてたせいで、二つの結界を念入りに強化して、破られた際の親父への警報機能もつけたら完全に魔力がなくなった。
最上級のマジックポーションを、何本もお腹タプタプになるまで飲んだら大分回復したが、残念ながら俺にはMPゲージが見えないので、実際完璧に回復したかはわからない。わからないけど、体力回復のポーションも飲んだから、いい加減腹が限界だ。油断したら吐きそう。
「ポーション使ったせいで、体調悪くしたら本末転倒じゃねぇか……体力回復の方は聖魔法使えば良かった」
でも、決戦の前にできるだけ魔力温存しておきたかったんだよな。……頼むから、今はまだ来てくれるなよ。ヴィダルス。まだ夜だから、大丈夫だとは思うが。
近くの木にもたれかかって休んでると、大分体が楽になってきた。
代わりに腹の子が、ポーションの海に溺れることを抗議するように、思いきり腹の中から蹴り上げてくる。
「……ごめん、ごめん。もう飲まないから、もうしばらく我慢してくれ」
381
お気に入りに追加
2,151
あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。


番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる