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父と弟③

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 俺の言葉に険しい表情で黙り込んだレオは、少しの沈黙の後、縋るような瞳でこちらを見据えた。  

「……なら、兄上も約束してくれますか」

「俺も?」

「ええ……どれほど辛いことがあっても生きのびて、僕を助けに来てくれると、改めて兄上が約束してれるのなら、僕もその約束を信じて何があっても生きのびることを約束します。兄上が結婚前に、僕に言ってくださった言葉を、もう一度ください」

 そう言ってレオは、震える手で俺の服の裾を掴んだ。

「兄上は、【国境の守護者】で、ネルドゥース辺境伯領に生きる全てのものの希望です。たとえ辺境伯領が滅びたとしても、兄上さえ生きていれば、再興の道があることを皆信じられる。どうか、どうか、この先どんなことがあろうとも自分の命を第一に考えると、約束してください。どれほど絶望しても、闇に飲まれることなく、必ず僕のもとに戻ってくると、そう言ってください。その約束さえあれば、僕はどんな悲惨な未来にだって耐えられます」

 血を吐くようなレオの叫びに、思わず言葉に詰まった。

『……だから、お願いだよ。レオ。俺と共に死ぬだなんて、言わないでくれ。俺に、お前を嫌わせないでくれ。俺は大事な弟であるお前には、生きて欲しいんだ。お前が生きようとさえしてくれれば、必ず俺がお前を守ってやるから』

 以前レオに言ったその言葉を、今の今まですっかり忘れていたから。

 ……色々あり過ぎて、自分がそんなこと言ったこと自体忘れてたわ。兄貴失格過ぎる。

 勿論自ら進んで死ぬつもりなんか、さらさらなかったけど。それでも前回の生を知ってる俺にとっては、いざとなれば俺自身の命の価値はそれほど高くなくて。
 アストルディアが俺の死をきっかけに壊れたり、俺が死ぬせいで辺境伯領が滅ぶ可能性がなければ、(どうしても腹の子を巻き込んでしまうことだけは心苦しいけど)自己犠牲はそれほど難しいことではなかったから。
 こんな風に、ストレートに生きて欲しいと懇願されると、なんて言うんだろ……すっごく申し訳ない気分になる。

「ああ、勿論だ。……自分ができないことを、弟に押し付けるわけないだろう」

「本当に本当に本当ですね?」

「本当に本当に本当だ」

 内心の焦りをひた隠しにして、変わらない真っ直ぐな瞳で言い放つ。何がなんでも、生きのびなければならない理由が、また一つ増えた。
 ええい、ヴィダルスの性奴隷がなんぼのもんじゃい! いずれ俺の闇魔法があいつを打ち破ることが確定してんだから、俺はどんなことがあっても生き延びて自由になってやるぞ。
 運命の強制力め……どれだけ原作に引き戻そうとしても無駄だ。俺は死ぬその瞬間まで、逆転のチャンスを信じて抗い続けてやるからな。

「……なら、約束します」

 ぎゅっと俺の腰の辺りに抱きついて涙目で頷くレオが、あまりにいじらしくて。まだか細い成長途中のその体を、思わず抱きしめ返す。
 平和な前世のような世界に生まれていたなら、こんなことは約束させる必要もなかったのに。まだ小学生の年齢のレオに、こんなことを言わせてしまっている現実が悲しい。

 しかし、そう思ったのは俺だけではなかったようで。

「……俺は、父親失格だな」

 思いがけな過ぎる親父の言葉に、目を剥いた。

「息子二人共に、互いにこんな約束をしなければ生き延びる選択すらできないのだと、思わせてしまったんだから」

「……今更じゃないですか」

「……今更でしょう。父上」

 思わずレオと同時に突っ込んでしまって、場違いながらもホンワカした気分になってしまった。
 ……いつの間にかレオも親父に対して、こんな強気な突っ込みができるようになったんだな。その成長が、兄として嬉しいぞ。

「わかっている。今更だ。今更なのに……何故だろうな。こんなにも、お前達を失いたくないと思ってしまうのは」
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