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父と弟①
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「……詳しく状況を説明しろ。エドワード。一体、何があったんだ」
「詳細は、語りたくありません。可能ならば私が全て撃退し、目論見自体をなかったことにしたいので。たった十数人の独断行動で、今まで築き上げたものを台無しにしたくはありませんから。今日父上のもとに来たのは、あくまで私が解決しそびれた場合の保険です。ネーバ山の麓と、森の出口、どちらの結界が破れても父上に伝わるようにしておきますので、万が一の時はどうかよろしくお願いします。可能であれば、ネーバ山から魔物が降りてくる恐れがあるという体で、今から麓の森周辺に住む領民には避難指示を出していただければ、ありがたいです」
「待て、エドワード。襲撃犯は皆、セネーバの精鋭なのだろう? それをお前はたった一人で、撃退するつもりなのか!?」
「ええ、もちろんです。私は【国境の守護者】ですから」
まっすぐに父を見据え、胸に手を当てる。
「辺境伯領の為に捧げろと言われたこの命を、賭ける時がやって来ました。ネルドゥース辺境伯領の者は、誰一人傷つけさせません。けして戦争も起こさせません。それこそが、私の生まれた意味ですから」
それは、まさに父が望んだ俺の姿だったはずだ。
それなのに、何故か父はひどくショックを受けたような表情を浮かべた。
「……だが、お前の腹には子がいるのだろう」
「え?」
「身重のお前に、一人で戦わせるなぞ……」
……え、ちょっと待って。反応が意外過ぎて、一瞬頭が真っ白になったんだが。
「あの……父上。ご存知ではないのかもしれませんが、俺の腹の子は獣人です。人間に生まれることはありえません」
「それがどうした! 獣人であろうが、お前の子なら俺の孫だし、お前は俺の息子だ! 心配して、何が悪い!」
「心配って……」
……この人に、これほど似合わない言葉もないよなあ。辛い過去には素直に同情するけど、暴力DV親父だったことは間違いないんだぞ。
散々辺境伯領の為に死ねって言い聞かせてきた癖に、いざとなったらこうとか……全くもう。キャラが、ぶれ過ぎだっつーの。
「それじゃあ……必ず無事に戻って、健やかな子を産むことを約束しますので、子が生まれたら父上も抱いてやってください」
心底呆れているはずなのに、口元は自然に緩んだ。
いやはや。たとえクソ親父からだとしても、こんな風に心配されるのは、やっぱりくすぐったいもんだなぁ。
「……父上が平気なら、ですけど」
獣人に対してトラウマ持ちの父が、人化もできない狼の子を抱くことは普通に考えたら難しいとは思うが……不思議と壊れものを抱くように、小さな小さな狼の子をおっかなびっくり抱き上げる父の姿が脳裏に浮かび、ますます口元が緩む。
そんな未来が、来ればいい。
運命さえ変えられば、家族としてやり直す時間はいくらでもあるはずだから。
「ーー兄上!」
不意に扉が開き、弟のレオナルドが部屋に駆け込んできた。
「兄上の魔力の気配がしたので、駆けつけたのですが……体の方はもう大丈夫なのですか? 体調を崩して流産の危険性が高まった為、セネーバで療養中だと聞いていましたが」
……なるほど。ほぼ毎日通っていた辺境伯領に俺が突然来なくなったのは、そういう理由があったことにしたわけか。
どうりで、親父が俺の腹の子の心配をするわけだよ。
「ああ、もう大丈夫だ。実はネーバ山に生息している危険な魔物が、ネルドゥース辺境伯領に向かって行ったと言う報告があってな。そのことを緊急で父上に知らせると共に、結界を強化する為に急いで戻ってきたんだ」
「っそんなことが!? で、でも兄上は臨月なのですよね。万が一のことを考えれば他の人に任せた方が……」
「そのせいで、辺境伯領に被害がでたら、俺は安心して子どもを産めなくなるだろう? 心配しなくていい。レオ。俺がするのは、あくまで結界を強化するだけだ。体に障るようなことは、何もないさ」
「詳細は、語りたくありません。可能ならば私が全て撃退し、目論見自体をなかったことにしたいので。たった十数人の独断行動で、今まで築き上げたものを台無しにしたくはありませんから。今日父上のもとに来たのは、あくまで私が解決しそびれた場合の保険です。ネーバ山の麓と、森の出口、どちらの結界が破れても父上に伝わるようにしておきますので、万が一の時はどうかよろしくお願いします。可能であれば、ネーバ山から魔物が降りてくる恐れがあるという体で、今から麓の森周辺に住む領民には避難指示を出していただければ、ありがたいです」
「待て、エドワード。襲撃犯は皆、セネーバの精鋭なのだろう? それをお前はたった一人で、撃退するつもりなのか!?」
「ええ、もちろんです。私は【国境の守護者】ですから」
まっすぐに父を見据え、胸に手を当てる。
「辺境伯領の為に捧げろと言われたこの命を、賭ける時がやって来ました。ネルドゥース辺境伯領の者は、誰一人傷つけさせません。けして戦争も起こさせません。それこそが、私の生まれた意味ですから」
それは、まさに父が望んだ俺の姿だったはずだ。
それなのに、何故か父はひどくショックを受けたような表情を浮かべた。
「……だが、お前の腹には子がいるのだろう」
「え?」
「身重のお前に、一人で戦わせるなぞ……」
……え、ちょっと待って。反応が意外過ぎて、一瞬頭が真っ白になったんだが。
「あの……父上。ご存知ではないのかもしれませんが、俺の腹の子は獣人です。人間に生まれることはありえません」
「それがどうした! 獣人であろうが、お前の子なら俺の孫だし、お前は俺の息子だ! 心配して、何が悪い!」
「心配って……」
……この人に、これほど似合わない言葉もないよなあ。辛い過去には素直に同情するけど、暴力DV親父だったことは間違いないんだぞ。
散々辺境伯領の為に死ねって言い聞かせてきた癖に、いざとなったらこうとか……全くもう。キャラが、ぶれ過ぎだっつーの。
「それじゃあ……必ず無事に戻って、健やかな子を産むことを約束しますので、子が生まれたら父上も抱いてやってください」
心底呆れているはずなのに、口元は自然に緩んだ。
いやはや。たとえクソ親父からだとしても、こんな風に心配されるのは、やっぱりくすぐったいもんだなぁ。
「……父上が平気なら、ですけど」
獣人に対してトラウマ持ちの父が、人化もできない狼の子を抱くことは普通に考えたら難しいとは思うが……不思議と壊れものを抱くように、小さな小さな狼の子をおっかなびっくり抱き上げる父の姿が脳裏に浮かび、ますます口元が緩む。
そんな未来が、来ればいい。
運命さえ変えられば、家族としてやり直す時間はいくらでもあるはずだから。
「ーー兄上!」
不意に扉が開き、弟のレオナルドが部屋に駆け込んできた。
「兄上の魔力の気配がしたので、駆けつけたのですが……体の方はもう大丈夫なのですか? 体調を崩して流産の危険性が高まった為、セネーバで療養中だと聞いていましたが」
……なるほど。ほぼ毎日通っていた辺境伯領に俺が突然来なくなったのは、そういう理由があったことにしたわけか。
どうりで、親父が俺の腹の子の心配をするわけだよ。
「ああ、もう大丈夫だ。実はネーバ山に生息している危険な魔物が、ネルドゥース辺境伯領に向かって行ったと言う報告があってな。そのことを緊急で父上に知らせると共に、結界を強化する為に急いで戻ってきたんだ」
「っそんなことが!? で、でも兄上は臨月なのですよね。万が一のことを考えれば他の人に任せた方が……」
「そのせいで、辺境伯領に被害がでたら、俺は安心して子どもを産めなくなるだろう? 心配しなくていい。レオ。俺がするのは、あくまで結界を強化するだけだ。体に障るようなことは、何もないさ」
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