俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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それぞれの正義

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 涙ながらに語られるのは、俺の知らない歴史の一幕。
 獣人が人に虐げられていた時代にも、対等の立場で共に生きようとした人間が、確かに存在したのだ。

「ご主人だけでねぇ! 奴隷である獣人と許されざる恋に落ちた人間もいたし、種族関係なく友として対等に接してくれる人間もいた。けれど、奴隷という立場から解放された獣人達は、そんな事情は関係なく、セネーバの土地から逃げそびれた人間を、人間というだけで殺し尽くした! 当時はまだ人間と交わらなければ子孫が弱体化することなぞ、誰も知らなかったから、生かして奴隷にするという選択肢すらなかったからなぁ! 幼い人間の子どもや、それを庇った獣人が、なぶり殺しにされたこともあったし、腹に子を宿した人間と獣人の夫婦が、凌辱の末に殺されたこともあった。けど、それはけしてエレナ姫の耳にだけは入らないように、情報統制が徹底されたんだ。『アルデフィア様を救い出してくれたエレナ姫だけは特別だ』『ただ一人、この国で生きるべき人間だ』と、そう言ってな。……ハハッ、残酷で醜いのは、どっちだって話だ。当時の私には、人間よりも獣人の方が、よほど悪魔に見えたよ」

「……だから、傷や病を癒せる【奇跡の手】を持ちながら、王家や我が両親の繰り返しの要請を断り、田舎の村に隠遁したのか? リチュチュ・フルハルデ。実に愚かだな。貴様は」

 ヒュールデリドが、吐き捨てるように言い放った。

「たまたま貴様が恵まれていたというだけで、大半の獣人が人間によって虐げられていたことは事実だ。その結果、人間という種全体が虐殺されたとしても、それは自業自得の結果だ。貴様は我が両親がさも恵まれていたかのように言ったが、誇り高きジャガー獣人の父母が人間なんぞに媚を売らねば生きられぬ状況を、甘受していたと本気で思っているのなら、お前は治癒の力をお前自身の脳に使うべきだな。他の獣人奴隷を虐げていたという話も事実か疑わしいが、もし事実だとしたら、そうせねば自分を保ってられぬくらい、屈辱的な状況だったということだ。全ては獣人を奴隷にした、人間のせいだ!」

 牙を剥き出しにして吠えるジャガーを、リチュチュさんは冷たい眼差しで睨めつける。

「個人的に気に食わないというだけで、あんたの両親の憎しみまで否定する気はねぇ。私はただ、あんたの両親の意見が、過去の獣人の総意のように語られてるのが許せないだけだ。一時はアルデフィア様とエレナ姫すら憎んだが、多くの獣人があの戦争で救われたのも事実だしなぁ。私は、今さら過去のことを否定するつもりはねぇ。だが、あんたが過去を持ち出して、それを理由にまた戦争をおっぱじめる気なら話は別だ」

「…………」

「いいか? 戦争で真っ先に死ぬのは、いつだって優しい奴か、弱いもんだ。戦時中も、力なき草食獣人を盾に戦って、武功を立てた肉食獣人が山程いたんだ。戦争が始まれば、きっとあんたも同じことをするだろうよ。弱い獣人はセネーバに不要だと言うのが、ボンドロネリ家の総意なんだろう? 国民を種族や強さで差別しといて、よくもまあ、民の為だとほざけたもんだ」

 ヒュールデリドは不愉快そうに顔を歪めるだけで、それ以上は何も言わなかった。
 草食獣人や、哺乳類系以外の獣人を、対等な国民とみなしていない自覚はあるのだろう。

「誰がどう正当化しようが、私は戦争は嫌いだ。たとえ勝ち戦だとしても、あんな地獄を味わわずに済むなら、それにこしたことはねぇ。子孫の弱体化が心配だっつーなら、先天的な能力に依存しないで済む戦い方を見い出せばいいだけだ。弱者は不要だと、生まれてすぐの魔力量だけで切り捨てたりせずになぁ」 

「……先天的に魔力量に恵まれてないものが努力した所で、限度がある。どれほど伸びるかわからない子よりも、最初から成功が約束された先天的に恵まれた子を望むのは、当然だろう」

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