俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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ボンドロネリ当主の実力①

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 ……やっぱり胡散臭いわ。転移先に、罠とか仕掛けられてないだろうな。

 疑いは消せないけど、今はそれよりも村を何とかする方が先決だ。村に座標を指定し、自身とタンクを対象に転移魔法を発動させる。

「……っ」

 跳んだ先は、村の上空。眼下では、たくさんのワニと肉食獣が、もつれ合いながら戦闘を行っていた。

「わあああ、落ちるー!!!」

 少し離れた所でパニックを起こしながら落ちていくタンクに、魔法陣で上昇気流を発生させて落ちる速度を緩やかにする風魔法をかけつつ、詠唱をはじめる。

「……気が雲になり、雲は湖となり、滝になって我が敵に降り注ぐ。雨に溺れろ。【大滝雨】!」

 普段は気恥ずかしくて、小さくゴニョゴニョしてますが、今はそんなことを気にしてる状況でもないので、久々に大声で叫ばしてもらいます。

 詠唱と同時に俺の足下に現れた巨大な水球が、ゲリラ豪雨以上の激しさで地上に降り注ぐ。
 普段から水に慣れているワニ獣人は驚いたように空を見上げるだけだったが、敵の王宮兵達は突然の激しい雨に動けなくなっている。その一人の背中向かって落下し、そのまま踏み潰して失神させる。

「っエド様! 首輪が取れたんですかい!?」

「おかげ様で。……皆さん、村の安全を最優先みたいな話してませんでしたっけ。何で乱闘になってるんですか?」

「ポンダーが噛みつかれたからなぁ。村人がそんな目に遭ったから、戦っただけで、別にエド様の為じゃねぇから気にすんな」

「……遠因は俺じゃねぇか……」

 俺の為にタンクが尽力してくれて、タンクの為にポンダーが体を張って、ポンダーの為に村の人達まで戦うなら、結局は俺のせいだ。ポンダーがタンクの為なら共に罪人になることを宣言した時点で、村の人達もそうなることはわかってたはずなのに。あくまで自分が守りたいものの為だと言い張るワニのおっちゃん達、本当さあ……。本当に、ポンダーの血縁というか……。なんか、泣きそう。

 取り敢えず、重症そうな人だけ聖魔法で回復させつつ、びしょ濡れで弱った王宮兵を一撃で伸しながら、乱闘の中心を目指す。村人は皆同じワニの姿だし、王宮兵も猫科の獣人が多いせいで、すぐには見分けがつかない。

「っポンダー!」

 タンクの悲痛な叫び声がした方に振り向くと、ずぶ濡れのジャガーが、傷だらけのワニの喉笛を今にも噛み切ろうとしてた。

「旋風よ! 水の矢にて、敵を貫け! 【大砲水】!」

 咄嗟に唱えた風魔法と水魔法の複合魔法で、ジャガーを弾き飛ばす。けれど宙を舞ったジャガーは、それほど大きなダメージを受けた様子もなくくるりと空中で一回転して、華麗に着地した。

「……ああ、やっぱりここにいらっしゃいましたか。エドワード様。ご無事で何よりです。このヒュールデリド・ボンドロネリがお迎えに参りました故、安心なさってください。すぐに頭の足りない粗暴なワニ共も、その間抜けなカバも殲滅致しますので」

「……ふざけるな。人を冤罪で幽閉しておいて、何が迎えだ」

「幽閉していたのは、番を亡くして狂った女王陛下でしょう? 私共は皆、エドワード様の処遇に心を痛めていたのです。しかし、狂ったと言えども女王陛下は、偉大な御方。忠誠を誓った私共としては、その命令に逆らうわけにもいかず……どうか良心と忠誠心の間で引き裂かれんばかりの、この苦しい胸の内をご理解ください」

「ならば、俺を見過ごせばいいだろ。俺を匿ってくれた村の人達をこんな目に遭わせて、俺を連れて逃げてくれたタンクにも手を出すつもりの癖に、取り繕ってんじゃねぇよ。素直に、俺と女王の狂気を利用して戦争はしたいけど、アストルディアが怖いから俺を保護する体にしときたいと言え」

「ああ、エドワード様。そんな風にカバとワニ共に洗脳されてしまったのですね。お労しい。すぐに目を覚ましてさしあげます」

 ヒュールデリドはそう言って、戦闘態勢を取った。
 ……【隷属の首輪】が外れていることにも気づいているだろうに、動揺一つ見せない辺り、こいつ俺のこと完全に舐めているな。かしこぶっている癖に馬鹿だと言うヴィダルスの言葉は、双子だけじゃなく、その親も同じようだ。
 
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