262 / 311
カーディンクルの野望②
しおりを挟む
思いがけない言葉に唖然とする俺に、カーディンクルは目を細めた。
「獅子獣人は本能的に自身のプライドを第一に考えるものだが、残念ながら私は自分を愛してくれる相手しかプライドのメンバーと認識できなくてね。セネーバと言う国そのものを、自分のプライドとみなすことはできなかったんだ。アルデフィアのプライドの一員になることを望みながらも叶わなかった父は、本来プライドにかけるべき情熱を国の運営に注ぐことができたようだが、私はそんな情熱があるなら、私を愛してくれる妻達や領民に全て捧げたい。だからこそ、私は王候補として無能なんだ。アストルディアならば、狼獣人の性で何より番を第一に考えたとしても、片手間で問題なく国を運営できるだろうがね。それだけの力と才が、あれにはある」
「ですが、今アストルディアは……」
「残念ながら、誰も行方を知らない状況ではあるが。あれは殺しても死なない男だから、必ず戻ってくるさ。その時に、番である君が健やかな状態じゃなければ困るんだ。番を失って狂った母を廃し、王になるべき男が、同じように狂ってたんじゃ、今度こそ私にお鉢が回ってくるじゃないか! 他の王候補にしても、君に何かあればヴィダルスも同様に狂うだろうし、あれの兄弟は私以上に無能だ。ヴィダルスの両親は互いのことが第一で、とても国を運営できる器じゃない。私と妻達の気楽で明るい未来の為にも、君には無事にいてもらわないと」
あっけらかんと語られる、自分都合の考えに口元を引きつらせながらも、この言葉が真実か見極めるべくカーディンクルと二人の妻達の様子を観察する。
首輪を外してくれたことは素直にありがたいが、全てが罠の可能性は捨てきれない。カーディンクルならば、追い詰められた俺を騙すことなんて簡単のはずだ。
「……カーディンクル殿下は、戦争を起こして人間を繁殖用の奴隷にしたいとは思わないのですか?」
「全く思わないな! 私は自分を愛してくれる相手にしか、興味がない。それなのに戦争に勝って人間を繁殖用の奴隷にするような社会になれば、王族として優秀な子を残せと、無理やり人間の奴隷を充てがわれるのは目に見えている。私は私を愛してくれる妻達には平等に与えられた以上の愛を注いでいるが、不本意に繁殖用奴隷になった者に同じ愛を注げるとは思えないし、はっきり言ってそんな相手に勃つとも思えない。妻達もまた、そんな人間が私のプライドに入り子を孕むことを認めないだろう」
「当たり前です! 本当はカーディンクル殿下を独占したいくらいですが、他の妻達も私と同じくらい殿下を愛しているのを知っているからこそ譲歩してるのです! たとえ魔力相性が良くても、殿下を愛してもない相手が殿下の御子を孕むなぞ、許せるはずがありません!」
「悪ぃが殿下、俺はそんな奴がプライドに入って来たら噛み殺すぜ。新しく誰かをプライドに入れる時は、妻達全員の了承を得てからだと約束したしなぁ。他のメンバーの子なら、誰が産んでも全員の子として扱うと皆で取り決めてるが、さすがにそんな奴の子は愛せねぇよ」
……うーん。言っていることは一貫しているし、嘘をついているようにも見えないけど……本当に信じていいのだろうか。
小さく唸る俺に、カーディンクルが肩を竦めた。
「疑い深いのは結構だが、今はそれより村に戻った方がいいんじゃないか? 随分と騒がしいようだが」
「っ」
以前建国祭でヴィダルス達の会話を盗み聞きした時の要領で、村の方の音を探ると、村人達と王宮兵による乱闘の様子が耳に入ってきた。しかも、どうやら村人達が劣勢のようだ。
「っタンク! 転移魔法を使うから、こっちに来てくれ! 今すぐポンダーの所戻るぞ」
「っでも」
「大丈夫。……首輪さえ外してもらえれば、俺は無敵だ」
もっとも、アストルディアには絶対勝てない呪いがかけられてるし、あくまで人類最強のポテンシャルがあるだけで、対獣人戦でも無敵だなんて保証はないのだけど。
それでも、この状況で戻らない選択肢はあり得ない。ポンダーや村の人達を巻き込んだのは、俺なのだから。
「今、私達がボンドロネリと顔を合わせるのは色々不都合だから、私達は歩いて後から向かうよ。こちらのことは気にせず、二人で転移するといい」
「獅子獣人は本能的に自身のプライドを第一に考えるものだが、残念ながら私は自分を愛してくれる相手しかプライドのメンバーと認識できなくてね。セネーバと言う国そのものを、自分のプライドとみなすことはできなかったんだ。アルデフィアのプライドの一員になることを望みながらも叶わなかった父は、本来プライドにかけるべき情熱を国の運営に注ぐことができたようだが、私はそんな情熱があるなら、私を愛してくれる妻達や領民に全て捧げたい。だからこそ、私は王候補として無能なんだ。アストルディアならば、狼獣人の性で何より番を第一に考えたとしても、片手間で問題なく国を運営できるだろうがね。それだけの力と才が、あれにはある」
「ですが、今アストルディアは……」
「残念ながら、誰も行方を知らない状況ではあるが。あれは殺しても死なない男だから、必ず戻ってくるさ。その時に、番である君が健やかな状態じゃなければ困るんだ。番を失って狂った母を廃し、王になるべき男が、同じように狂ってたんじゃ、今度こそ私にお鉢が回ってくるじゃないか! 他の王候補にしても、君に何かあればヴィダルスも同様に狂うだろうし、あれの兄弟は私以上に無能だ。ヴィダルスの両親は互いのことが第一で、とても国を運営できる器じゃない。私と妻達の気楽で明るい未来の為にも、君には無事にいてもらわないと」
あっけらかんと語られる、自分都合の考えに口元を引きつらせながらも、この言葉が真実か見極めるべくカーディンクルと二人の妻達の様子を観察する。
首輪を外してくれたことは素直にありがたいが、全てが罠の可能性は捨てきれない。カーディンクルならば、追い詰められた俺を騙すことなんて簡単のはずだ。
「……カーディンクル殿下は、戦争を起こして人間を繁殖用の奴隷にしたいとは思わないのですか?」
「全く思わないな! 私は自分を愛してくれる相手にしか、興味がない。それなのに戦争に勝って人間を繁殖用の奴隷にするような社会になれば、王族として優秀な子を残せと、無理やり人間の奴隷を充てがわれるのは目に見えている。私は私を愛してくれる妻達には平等に与えられた以上の愛を注いでいるが、不本意に繁殖用奴隷になった者に同じ愛を注げるとは思えないし、はっきり言ってそんな相手に勃つとも思えない。妻達もまた、そんな人間が私のプライドに入り子を孕むことを認めないだろう」
「当たり前です! 本当はカーディンクル殿下を独占したいくらいですが、他の妻達も私と同じくらい殿下を愛しているのを知っているからこそ譲歩してるのです! たとえ魔力相性が良くても、殿下を愛してもない相手が殿下の御子を孕むなぞ、許せるはずがありません!」
「悪ぃが殿下、俺はそんな奴がプライドに入って来たら噛み殺すぜ。新しく誰かをプライドに入れる時は、妻達全員の了承を得てからだと約束したしなぁ。他のメンバーの子なら、誰が産んでも全員の子として扱うと皆で取り決めてるが、さすがにそんな奴の子は愛せねぇよ」
……うーん。言っていることは一貫しているし、嘘をついているようにも見えないけど……本当に信じていいのだろうか。
小さく唸る俺に、カーディンクルが肩を竦めた。
「疑い深いのは結構だが、今はそれより村に戻った方がいいんじゃないか? 随分と騒がしいようだが」
「っ」
以前建国祭でヴィダルス達の会話を盗み聞きした時の要領で、村の方の音を探ると、村人達と王宮兵による乱闘の様子が耳に入ってきた。しかも、どうやら村人達が劣勢のようだ。
「っタンク! 転移魔法を使うから、こっちに来てくれ! 今すぐポンダーの所戻るぞ」
「っでも」
「大丈夫。……首輪さえ外してもらえれば、俺は無敵だ」
もっとも、アストルディアには絶対勝てない呪いがかけられてるし、あくまで人類最強のポテンシャルがあるだけで、対獣人戦でも無敵だなんて保証はないのだけど。
それでも、この状況で戻らない選択肢はあり得ない。ポンダーや村の人達を巻き込んだのは、俺なのだから。
「今、私達がボンドロネリと顔を合わせるのは色々不都合だから、私達は歩いて後から向かうよ。こちらのことは気にせず、二人で転移するといい」
358
お気に入りに追加
2,172
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる