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カーディンクルの野望①
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待ち受けていたのは、カーディンクルと、複数名いるカーディンクルの妻の中でも特別強い魔力を持っていた二人。
ご丁寧に魔力感知疎外のアイテムをそれぞれ身につけて佇む三人の姿に、俺は再び絶望の淵に落とされた。
カーディンクルは腐っても王族だし、女王いわく「中途半端」なカーディンクルの妻達でも、間違いなくタンク以上の実力者だ。とても、勝てる相手ではない。
「さすがです! 殿下! ボンドロネリの奴めが取り逃がすことを予期して、待ち伏せしたかいがありましたな!」
「ボンドロネリのジャガー野郎……ヴィダルス様だけで満足してれば良いものの、殿下まで駒にしようとして来たからムカついてたんだ。鼻を明かしてやれて、スッキリしたぜ!」
「ありがとう。ニースミス、アフセクミア。二人が村からの動線を意識して待ち伏せる場所を決めて、魔力の気配を探ってくれたおかげだよ。美しく、優秀な番を持てて、私はとても誇らしい」
「「カーディンクル殿下……」」
屈強な体を乙女のようにくねらせて、ハートが浮かんだ目でカーディンクルを見つめる虎と熊の獣人の姿に口元を引きつらせながら、俺を抱えたまま逃げる隙を伺っているタンクに向かって首を振ってみせる。
タンクの先輩と対峙した時とは、訳が違う。どうやっても、この場から逃げるのは不可能だ。
「もういい、タンク……抵抗した所で、お前が無駄に傷つけられるだけだ」
「……でも」
「本当にありがとう。タンク……お前と友達になれて、本当に良かったよ」
「随分諦めが早いことだなぁ。エドワード殿。もっと抵抗してくれても、私は全然構わないぞ?」
「……こんな首輪をつけられて、どうやって抵抗しろって言うんだ」
知恵で何とかできるもんなら、とっくに何とかしてる。どれだけ俺が今まで、打開策を考えて来たと思うんだ。
もし、俺が物語の主人公なら、ここでとっておきの策を思いついて、このピンチを乗り切れたかもしれない。それか思いがけない味方が現れて、救い出してくれるとか、な。
けれど俺は、所詮はただの悪役で。女神が与えてくれたチート能力を封じられて、首輪に自由を奪われてしまった今、どうしようもなく無力だ。
助けに駆けつけてくれた友人も、巻き込むだけ巻き込んで、俺と同じ破滅の道を進ませてしまった。
「それもそうだな。ふむ。エドワード殿。こちらに来てみろ」
「…………」
胡散臭い笑みを浮かべて手招きするカーディンクルはこの上なく怪しかったが、もはや従う以外の選択肢はない。
タンクに降ろしてもらい、一人カーディンクルのもとへ向かう。
「っ」
目の前に立った途端に、【隷属の首輪】を引っ張られ、思わず体勢を崩しそうになったが、足を踏ん張って耐える。
「……ふむふむ。なるほどな。これなら、まあ、難しくはないか」
「…………」
「喜べ。我が弟の番殿。どうやら私でも、君を解放してやれそうだぞ。無能と言えども、私も無属性だからな」
「……え?」
ーー次の瞬間。
パキリと音を立てて、カーディンクルの手の中で首輪が割れた。
「嘘……だろ」
風化して崩れ落ちていく【隷属の首輪】も、それをドヤ顔で見ているカーディンクルと二人の妻達の姿も、とても信じられなかった。
体の中の魔力が、ありとあらゆる感覚が、首輪をつけられる以前に戻っていく。
「何故……」
「愚問だな。エドワード殿。全く、香を常に纏っているくらいで、誰も彼も簡単に疑心暗鬼になってくれるから困る。私はいつだって正直に自分の望みを語っていたというのに」
「殿下が、そう思われるように仕向けたのでしょう? アストルディア殿下に叛意があるように思われた方が、色々都合が良いからと。全く、悪い御方だ」
「だからこそ、最高なんじゃねえか! 腹に一物も二物もあるように見せかけて、弟に王位を押し付けるべく虎視眈々と敵対しそうな奴らの情報収集をしてるカーディンクル殿下……最高に格好良くて、しびれるぜ! しかもその理由が、王になんかなったら、俺達と過ごす時間が益々無くなるからとか……もう、本当、好き過ぎる!」
ご丁寧に魔力感知疎外のアイテムをそれぞれ身につけて佇む三人の姿に、俺は再び絶望の淵に落とされた。
カーディンクルは腐っても王族だし、女王いわく「中途半端」なカーディンクルの妻達でも、間違いなくタンク以上の実力者だ。とても、勝てる相手ではない。
「さすがです! 殿下! ボンドロネリの奴めが取り逃がすことを予期して、待ち伏せしたかいがありましたな!」
「ボンドロネリのジャガー野郎……ヴィダルス様だけで満足してれば良いものの、殿下まで駒にしようとして来たからムカついてたんだ。鼻を明かしてやれて、スッキリしたぜ!」
「ありがとう。ニースミス、アフセクミア。二人が村からの動線を意識して待ち伏せる場所を決めて、魔力の気配を探ってくれたおかげだよ。美しく、優秀な番を持てて、私はとても誇らしい」
「「カーディンクル殿下……」」
屈強な体を乙女のようにくねらせて、ハートが浮かんだ目でカーディンクルを見つめる虎と熊の獣人の姿に口元を引きつらせながら、俺を抱えたまま逃げる隙を伺っているタンクに向かって首を振ってみせる。
タンクの先輩と対峙した時とは、訳が違う。どうやっても、この場から逃げるのは不可能だ。
「もういい、タンク……抵抗した所で、お前が無駄に傷つけられるだけだ」
「……でも」
「本当にありがとう。タンク……お前と友達になれて、本当に良かったよ」
「随分諦めが早いことだなぁ。エドワード殿。もっと抵抗してくれても、私は全然構わないぞ?」
「……こんな首輪をつけられて、どうやって抵抗しろって言うんだ」
知恵で何とかできるもんなら、とっくに何とかしてる。どれだけ俺が今まで、打開策を考えて来たと思うんだ。
もし、俺が物語の主人公なら、ここでとっておきの策を思いついて、このピンチを乗り切れたかもしれない。それか思いがけない味方が現れて、救い出してくれるとか、な。
けれど俺は、所詮はただの悪役で。女神が与えてくれたチート能力を封じられて、首輪に自由を奪われてしまった今、どうしようもなく無力だ。
助けに駆けつけてくれた友人も、巻き込むだけ巻き込んで、俺と同じ破滅の道を進ませてしまった。
「それもそうだな。ふむ。エドワード殿。こちらに来てみろ」
「…………」
胡散臭い笑みを浮かべて手招きするカーディンクルはこの上なく怪しかったが、もはや従う以外の選択肢はない。
タンクに降ろしてもらい、一人カーディンクルのもとへ向かう。
「っ」
目の前に立った途端に、【隷属の首輪】を引っ張られ、思わず体勢を崩しそうになったが、足を踏ん張って耐える。
「……ふむふむ。なるほどな。これなら、まあ、難しくはないか」
「…………」
「喜べ。我が弟の番殿。どうやら私でも、君を解放してやれそうだぞ。無能と言えども、私も無属性だからな」
「……え?」
ーー次の瞬間。
パキリと音を立てて、カーディンクルの手の中で首輪が割れた。
「嘘……だろ」
風化して崩れ落ちていく【隷属の首輪】も、それをドヤ顔で見ているカーディンクルと二人の妻達の姿も、とても信じられなかった。
体の中の魔力が、ありとあらゆる感覚が、首輪をつけられる以前に戻っていく。
「何故……」
「愚問だな。エドワード殿。全く、香を常に纏っているくらいで、誰も彼も簡単に疑心暗鬼になってくれるから困る。私はいつだって正直に自分の望みを語っていたというのに」
「殿下が、そう思われるように仕向けたのでしょう? アストルディア殿下に叛意があるように思われた方が、色々都合が良いからと。全く、悪い御方だ」
「だからこそ、最高なんじゃねえか! 腹に一物も二物もあるように見せかけて、弟に王位を押し付けるべく虎視眈々と敵対しそうな奴らの情報収集をしてるカーディンクル殿下……最高に格好良くて、しびれるぜ! しかもその理由が、王になんかなったら、俺達と過ごす時間が益々無くなるからとか……もう、本当、好き過ぎる!」
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