258 / 311
ワニの村 再③
しおりを挟む
「俺、ら?」
「おうともよ!」
「もちろん協力させてもらうぜ!」
村長の後ろから、ぞろぞろ現れた見覚えのあるワニ顔の男衆の姿に、思わず顔が引きつる。
……この人数が接近してて気がつかないとか、さすがに今の俺ダメダメ過ぎんだろ。首輪をつけられている今の自分の能力値の想定を、かなり下方修正する必要がありそうだな。
「……お気持ちはとてもありがたいのですが、皆さんにご迷惑はかけるわけには」
「なあに、心配すんな! 迷惑かけられそうになりゃ、そん時はあっさり見捨てるからよ」
……いや、カラッと朗らかな笑顔で言うセリフじゃねぇだろ。 ポンダーの血縁だなあ。本当。
「爬虫類系の獣人は、哺乳類系の奴らと違って汗をかかねぇからな。臭いで、嘘がバレねぇんだわ。つまりギリギリまでエド様を庇ったとしても、『そんな大変なことをしでかしてるとは知らなかった』『恩人だから守らなければと思った』っつー言い訳が通じるってわけだ」
「追っ手が村に来た時は、話通じねぇふりして、この家まで聞こえるよう大声で喧嘩してやっから。エド様とポンダーの嫁さんは、その間に逃げりゃいい。俺ら声の大きさには自信あっからよ」
「治水工事の礼に、自分達に害が及ばない範囲であんたらを守ってやんよ。まあ、一番優先すんのは家族や村の奴らの安全で、二番目は自分の命になっけどな。どうしても」
……嘘ついてもバレないとか言うわりに、本当にこの村の人達も裏表なくて素直だよな。「命に代えてでも守る」と言われるより、信用できる分とてもありがたい。
「……皆さんはその……戦争を起こして、人間を奴隷にしたいとは思わないんですか」
ワニの男衆は、揃ってキョトンとした表情を浮かべた後、これまた同時に嫌そうな顔をした。
「……どうせ番にするなら、やっぱり両思いがいいからなぁ。いくら強い子産んでもらえたとしても、妻から嫌われてたんじゃ意味ねぇし」
「哺乳類系の獣人なら人化したらイケメンらしいから、優しくして惚れさすこともできるかもしれねぇけど、俺らはそうじゃないんだろ? 哺乳類系の奴らばかりズルいから、俺は戦争反対だわー」
「ポンダーと、未来の嫁さんの関係が一番理想だよなあ……。やっぱり番は対等じゃねぇと」
……ワニ獣人の人化状態が好き嫌い分かれるのは、あくまで人間が選ぶ側の場合で、奴隷みたいに立場が弱い状況で優しくされたら、普通にコロッといきそうなイケメンではあるんだけど。これを話して開戦派に寝返られても困るから、黙っておこう。
「それに話を聞いてる限り、近い将来アストルディア殿下が王位簒奪に動くのは間違いないと思う。寧ろ女王自身も、本当は狂った自分に引導を渡して欲しいと思ってんじゃねぇかともな。それを考えたら、俺達が恐れるべきなのは女王の怒りよりも、アストルディア殿下の怒りだ。アストルディア殿下のご機嫌取りの為にも、女王から処罰されない範囲なら、全力でエド様に協力したいと思ってる」
「あ、でも俺はたとえ女王に処罰されても、エド様に協力するつもりだよ。タンクばかり罪を負わせるくらいなら、一緒に処刑された方がましだし」
「ポンダー……お前、漢になったなあ。もちろん、お前はお前の好きなようにすればいい。俺はお前を誇りに思うよ」
「へっへー」
……つくづく、古代中国みたいに罪人は一族郎党まとめて処刑みたいな国じゃなくて良かったなあ。もしそうだったら、完全に積んでる状況だし。
前世でその話を聞いた時は「罪もない子どもにまでひどい!」と思ったものだけど、裏切りを抑制すると同時に後に遺恨を残さないようにするという意味ではとても理にかなっていたんだな。
そんなことを内心思いながら、エルディア女王について思いを巡らす。
セネーバでそのような残虐な制度が確立しなかったのは、裏を返せばそんな制度が必要がないくらい、今まで女王に反逆するものが現れなかったということだ。
誰もが彼女を、慈悲深く有能な為政者だと讃える。あのヴィダルスさえも、エルディア女王のことを認めていたというのに。
「おうともよ!」
「もちろん協力させてもらうぜ!」
村長の後ろから、ぞろぞろ現れた見覚えのあるワニ顔の男衆の姿に、思わず顔が引きつる。
……この人数が接近してて気がつかないとか、さすがに今の俺ダメダメ過ぎんだろ。首輪をつけられている今の自分の能力値の想定を、かなり下方修正する必要がありそうだな。
「……お気持ちはとてもありがたいのですが、皆さんにご迷惑はかけるわけには」
「なあに、心配すんな! 迷惑かけられそうになりゃ、そん時はあっさり見捨てるからよ」
……いや、カラッと朗らかな笑顔で言うセリフじゃねぇだろ。 ポンダーの血縁だなあ。本当。
「爬虫類系の獣人は、哺乳類系の奴らと違って汗をかかねぇからな。臭いで、嘘がバレねぇんだわ。つまりギリギリまでエド様を庇ったとしても、『そんな大変なことをしでかしてるとは知らなかった』『恩人だから守らなければと思った』っつー言い訳が通じるってわけだ」
「追っ手が村に来た時は、話通じねぇふりして、この家まで聞こえるよう大声で喧嘩してやっから。エド様とポンダーの嫁さんは、その間に逃げりゃいい。俺ら声の大きさには自信あっからよ」
「治水工事の礼に、自分達に害が及ばない範囲であんたらを守ってやんよ。まあ、一番優先すんのは家族や村の奴らの安全で、二番目は自分の命になっけどな。どうしても」
……嘘ついてもバレないとか言うわりに、本当にこの村の人達も裏表なくて素直だよな。「命に代えてでも守る」と言われるより、信用できる分とてもありがたい。
「……皆さんはその……戦争を起こして、人間を奴隷にしたいとは思わないんですか」
ワニの男衆は、揃ってキョトンとした表情を浮かべた後、これまた同時に嫌そうな顔をした。
「……どうせ番にするなら、やっぱり両思いがいいからなぁ。いくら強い子産んでもらえたとしても、妻から嫌われてたんじゃ意味ねぇし」
「哺乳類系の獣人なら人化したらイケメンらしいから、優しくして惚れさすこともできるかもしれねぇけど、俺らはそうじゃないんだろ? 哺乳類系の奴らばかりズルいから、俺は戦争反対だわー」
「ポンダーと、未来の嫁さんの関係が一番理想だよなあ……。やっぱり番は対等じゃねぇと」
……ワニ獣人の人化状態が好き嫌い分かれるのは、あくまで人間が選ぶ側の場合で、奴隷みたいに立場が弱い状況で優しくされたら、普通にコロッといきそうなイケメンではあるんだけど。これを話して開戦派に寝返られても困るから、黙っておこう。
「それに話を聞いてる限り、近い将来アストルディア殿下が王位簒奪に動くのは間違いないと思う。寧ろ女王自身も、本当は狂った自分に引導を渡して欲しいと思ってんじゃねぇかともな。それを考えたら、俺達が恐れるべきなのは女王の怒りよりも、アストルディア殿下の怒りだ。アストルディア殿下のご機嫌取りの為にも、女王から処罰されない範囲なら、全力でエド様に協力したいと思ってる」
「あ、でも俺はたとえ女王に処罰されても、エド様に協力するつもりだよ。タンクばかり罪を負わせるくらいなら、一緒に処刑された方がましだし」
「ポンダー……お前、漢になったなあ。もちろん、お前はお前の好きなようにすればいい。俺はお前を誇りに思うよ」
「へっへー」
……つくづく、古代中国みたいに罪人は一族郎党まとめて処刑みたいな国じゃなくて良かったなあ。もしそうだったら、完全に積んでる状況だし。
前世でその話を聞いた時は「罪もない子どもにまでひどい!」と思ったものだけど、裏切りを抑制すると同時に後に遺恨を残さないようにするという意味ではとても理にかなっていたんだな。
そんなことを内心思いながら、エルディア女王について思いを巡らす。
セネーバでそのような残虐な制度が確立しなかったのは、裏を返せばそんな制度が必要がないくらい、今まで女王に反逆するものが現れなかったということだ。
誰もが彼女を、慈悲深く有能な為政者だと讃える。あのヴィダルスさえも、エルディア女王のことを認めていたというのに。
327
お気に入りに追加
2,072
あなたにおすすめの小説
異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった
藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。
毎週水曜に更新予定です。
宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる