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渇望の墓標③

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 けれど女王が刺客を差し向けることがないまま、月日は流れ。やがて老いて寝たきりになったニルカグルは、ベッドから離れることができなくなり、ここを訪れることもできなくなった。
 そして、ニルカグルは誰にもこの場所を打ち明けることがないまま亡くなって、アルデフィアの墓の場所を知るものはいなくなった。ニルカグルの、アルデフィアの死を永遠に自分だけのものにするという願いは、もう少しで叶う所だったんだ。……俺達がここに訪れさえしなければ。

 ニルカグルが亡くなって狂った女王のことを考えれば、ひどい話だと思う一方で、狼獣人でもないのに死ぬ瞬間までアルデフィアに囚われ続けたニルカグルの気持ちを思うと、切ない気持ちにもなる。
 家族も国も全てを捨てて、裏切り者と謗られながらも、アルデフィアを救いあげたのは、エレナ姫だ。けれど同じ奴隷だったニルカグルしか知らない、アルデフィアと助けあって過酷な境遇を乗り越えた過去も、確かにあったのだろう。
 どちらの境遇が、アルデフィアに相応しいかなんて、俺にはわからない。ただアルデフィアが愛して番に選んだのが、エレナ姫だったというだけだ。

「……行こう。タンク。ここはあまり、俺達が長居してはいけない気がする」

「でも、どこへ行くの? 出口はある?」

「大丈夫……薄っすらだけど魔道具に込められた、魔力の気配を感じる。恐らくこれは、認識阻害の魔道具だ」

 魔力の気配を辿って行くと、存在に気づくまでは肉眼では捉えられなかった、階段を発見した。
 360°取り囲む円柱状の垂直な崖に沿うように作られた螺旋階段の根元には、古い使い切りタイプの認識阻害効果がある魔道具が埋め込まれおり、魔石に込められた魔力残量がかなり少なくなっていた。だからこそ、俺は魔力の気配で、階段に気づくことができたのだろう。
 タンクと俺の体重で軋むそれを、こわごわ登って空を目指す。これもニルカグルが一人で設置したのなら、耐久性は期待できない為、非常に怖い。身が軽いアンゼなら、この絶壁も軽々と登れたかもだが、タンクはきつそうだ。……でも自殺が禁じられてることを考えれば、極限状態なら俺も動けるようになるのか? 可能性はあるけど、そんな悠長な検証ができる状況じゃないので、階段くんには頑張って欲しい。
 ビル五階ほどの高さまで上り、ようやく一番上に到着した。穴の外はなだらかな坂になっていて、俺とタンクは、高い岩山の上の、円柱上にくり抜かれた穴の中にいたことが判明した。
 入口にも認識阻害の魔道具が埋められていたが、これまた魔力残量が少なくなっていたので、いくらニルカグルが永遠を願ったところで、そのうちアルデフィアの墓は誰かしらに発見されていたかもしれない。

「ようし、到着ー! おっととととっ」

 タンクが階段を降りた瞬間、一際嫌な音を立てた階段の一部が壊れ、そのまま下に崩れ落ちて行った。ちょうど、先程までタンクが立っていた所だ。まさに、間一髪。
 結構な高さなので、正確な下の状況はわからないが、落ちた階段はまっすぐに墓の上に落ちたようで、石が割れて崩れるような嫌な音がした。
 それを見下ろして、タンクと顔を見合わせる。

「……やっぱり、呪いってあるのかな」

 ニルカグルの執念が、所在がバレた墓を道連れにしたようにも思えなくもないな。そう考えたら、間一髪で俺達が助かったのも、「アルデフィアの傍で、お前らが眠ることは許さん」ということかもしれん。

「……それより、ここはどこだ」

 深く考えたら駄目な気がしたので、手だけ合わせて、話を切り変える。
 回りには同じような岩山と……向こうに川が見えるけど、情報はそれくらいか? あ、岩山に隠れてわかりにくいけど、あれは湖か? 見たことあるような気もするけど、こんな場所いくらでもありそうだし、そもそも俺、セネーバの地理についてあまり詳しくないんだよなー……。

「……うん? あの川。それに、あの湖。嘘でしょ。そんなことって、あんの?」

 一方でタンクは、驚いたように目を見開いた。

「エド様。俺達もしかしたら、すごくラッキーかも」

「ここがどこか、わかるのか?」

「エド様も、一度ここの麓来てるよ」

 ……と、言うことは。

「ここ、ポンダーの村の近くにある岩山だ」

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