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渇望の墓標②
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「……墓? あれが?」
ぐるりと高い崖に囲われ、空しか見えない花畑の中に、それはポツンと設置されていた。
植物の蔓が巻いた、石を乱雑に積み重ねたオブジェは、今世の俺が知る墓に比べても随分粗雑で。
一目見て、タンクがそれを墓だと判断したのが不思議だった。
「王家はもちろん、王都周辺でもお墓は専用の職人に造らせるけどね。田舎のお墓なんて、こんなものだよ。自分達で、ある材料使って建てるしかないんだもん。俺のじいちゃんの墓も、家族みんなで石積み重ねて造ったし」
そう言ってタンクは、俺を背負ったまま墓に近づいて行った。
「あー、でも墓標の部分が蔓が巻き付いてて、刻まれてる文字が読めないね。かわいそうだから、外してあげようか」
「……呪われたりしないか?」
「エド様、呪いなんか信じてるの? そんなのあるわけないのに」
……いや、闇魔法自体が呪いみたいなもんだから、闇属性が強い奴が不幸な死を迎えたら、死ぬ時の強烈な念が魔法として残って土地や物が曰くつきになったりするんだが……魔法と縁が薄い獣人には、ピンと来ないか。闇属性持ちも、いなそうだし。
躊躇なく蔓を引きちぎるタンクを、呆れ半分で眺めているうちに、蔓が外れ、土台に比べてかなり立派な石材から作られた墓標が露わになった。
きちんと直角に切り出され、表面も丁寧に磨き整えられたそこには、子どものような拙い字で文字が彫り込まれている。
「……【我が渇望、我に亡骸だけ与え、ここに眠る。魂は彼の人のもとに旅立てど、せめて亡骸だけは永遠に我が物に。】……思いの外、重い言葉が刻まれてたな」
墓標の主の名前は刻まれてないのに、これだけ書き記す辺り、墓を造った人物の執念を感じてゾッとする。墓標にグルグル巻き付いてた、蔓も相まって。
……テイカカズラだっけ? 成就しなかった恋の執念で蔓草になって、恋人だった人の墓に巻き付いたって伝説がある前世の植物は。まさに、そんな感じ。墓を作った人が闇属性でなくても、何らかの呪い的なものが残ってそうだから、さっさと離れた方が良さそうだ。
ドン引きしてる俺を他所に、タンクは興奮したように頬を紅潮させた。
「ーーこれ、アルデフィア様のお墓だあ!」
「は?」
「すごい、すごい、こんなとこにあったんだ! てことは、これ全部ニルカグル様が作ったんだね。そりゃあ、職人みたいにはできないよ。奴隷生活長かったから、字も得意じゃなかったみたいだし」
「ちょ、待て。タンク。これが建国の英雄の墓だって? 粗末過ぎねぇか。それに、普通そういうのは、王家専用の霊園に作るもんじゃないのか」
「普通はそうだよ。エレナ姫だって、王家に霊園に埋葬されたしね。でも、アルデフィア様は死ぬ時に遺言で、『自分を誰も知らない場所に、一人だけで埋葬するように』ってニルカグル様に言いつけたらしくてね。ニルカグル様以外は、誰もお墓の場所知らなかったんだ。アルデフィア様のお墓探し、俺くらいの年代ならみんな一度はやったことあるんじゃないかなあ。有名な話だから」
「……それ、本当にアルデフィアの意志だったのか」
「さあ? 少なくともエルディア女王は納得して許可を出したっては聞いてるけど」
……墓の造り手がわかったことで、よけいホラー感増したな。この石全部、一つ一つニルカグルが積み上げたのか……賽の河原を思い出すのは何故だろう。俺にとってニルカグルが、やせ細った姿なのに恐ろしい力で首を締めてきた妖怪じじいだから、仕方ないっちゃ仕方ないか。
こうなってくると、エルディア女王の指示による暗殺を恐れて、ここ直通の脱出経路を設けていた意味も随分変わってくる。
ニルカグルは、逃げて生き延びる為にここを転移先に指定したわけじゃない。そうなった時は、ここで死ぬ為にここに繋げたんだ。
愛した男の亡骸と、共に眠る為に。
ぐるりと高い崖に囲われ、空しか見えない花畑の中に、それはポツンと設置されていた。
植物の蔓が巻いた、石を乱雑に積み重ねたオブジェは、今世の俺が知る墓に比べても随分粗雑で。
一目見て、タンクがそれを墓だと判断したのが不思議だった。
「王家はもちろん、王都周辺でもお墓は専用の職人に造らせるけどね。田舎のお墓なんて、こんなものだよ。自分達で、ある材料使って建てるしかないんだもん。俺のじいちゃんの墓も、家族みんなで石積み重ねて造ったし」
そう言ってタンクは、俺を背負ったまま墓に近づいて行った。
「あー、でも墓標の部分が蔓が巻き付いてて、刻まれてる文字が読めないね。かわいそうだから、外してあげようか」
「……呪われたりしないか?」
「エド様、呪いなんか信じてるの? そんなのあるわけないのに」
……いや、闇魔法自体が呪いみたいなもんだから、闇属性が強い奴が不幸な死を迎えたら、死ぬ時の強烈な念が魔法として残って土地や物が曰くつきになったりするんだが……魔法と縁が薄い獣人には、ピンと来ないか。闇属性持ちも、いなそうだし。
躊躇なく蔓を引きちぎるタンクを、呆れ半分で眺めているうちに、蔓が外れ、土台に比べてかなり立派な石材から作られた墓標が露わになった。
きちんと直角に切り出され、表面も丁寧に磨き整えられたそこには、子どものような拙い字で文字が彫り込まれている。
「……【我が渇望、我に亡骸だけ与え、ここに眠る。魂は彼の人のもとに旅立てど、せめて亡骸だけは永遠に我が物に。】……思いの外、重い言葉が刻まれてたな」
墓標の主の名前は刻まれてないのに、これだけ書き記す辺り、墓を造った人物の執念を感じてゾッとする。墓標にグルグル巻き付いてた、蔓も相まって。
……テイカカズラだっけ? 成就しなかった恋の執念で蔓草になって、恋人だった人の墓に巻き付いたって伝説がある前世の植物は。まさに、そんな感じ。墓を作った人が闇属性でなくても、何らかの呪い的なものが残ってそうだから、さっさと離れた方が良さそうだ。
ドン引きしてる俺を他所に、タンクは興奮したように頬を紅潮させた。
「ーーこれ、アルデフィア様のお墓だあ!」
「は?」
「すごい、すごい、こんなとこにあったんだ! てことは、これ全部ニルカグル様が作ったんだね。そりゃあ、職人みたいにはできないよ。奴隷生活長かったから、字も得意じゃなかったみたいだし」
「ちょ、待て。タンク。これが建国の英雄の墓だって? 粗末過ぎねぇか。それに、普通そういうのは、王家専用の霊園に作るもんじゃないのか」
「普通はそうだよ。エレナ姫だって、王家に霊園に埋葬されたしね。でも、アルデフィア様は死ぬ時に遺言で、『自分を誰も知らない場所に、一人だけで埋葬するように』ってニルカグル様に言いつけたらしくてね。ニルカグル様以外は、誰もお墓の場所知らなかったんだ。アルデフィア様のお墓探し、俺くらいの年代ならみんな一度はやったことあるんじゃないかなあ。有名な話だから」
「……それ、本当にアルデフィアの意志だったのか」
「さあ? 少なくともエルディア女王は納得して許可を出したっては聞いてるけど」
……墓の造り手がわかったことで、よけいホラー感増したな。この石全部、一つ一つニルカグルが積み上げたのか……賽の河原を思い出すのは何故だろう。俺にとってニルカグルが、やせ細った姿なのに恐ろしい力で首を締めてきた妖怪じじいだから、仕方ないっちゃ仕方ないか。
こうなってくると、エルディア女王の指示による暗殺を恐れて、ここ直通の脱出経路を設けていた意味も随分変わってくる。
ニルカグルは、逃げて生き延びる為にここを転移先に指定したわけじゃない。そうなった時は、ここで死ぬ為にここに繋げたんだ。
愛した男の亡骸と、共に眠る為に。
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