俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
上 下
254 / 311

渇望の墓標②

しおりを挟む
「……墓? あれが?」

 ぐるりと高い崖に囲われ、空しか見えない花畑の中に、それはポツンと設置されていた。
 植物の蔓が巻いた、石を乱雑に積み重ねたオブジェは、今世の俺が知る墓に比べても随分粗雑で。
 一目見て、タンクがそれを墓だと判断したのが不思議だった。

「王家はもちろん、王都周辺でもお墓は専用の職人に造らせるけどね。田舎のお墓なんて、こんなものだよ。自分達で、ある材料使って建てるしかないんだもん。俺のじいちゃんの墓も、家族みんなで石積み重ねて造ったし」

 そう言ってタンクは、俺を背負ったまま墓に近づいて行った。

「あー、でも墓標の部分が蔓が巻き付いてて、刻まれてる文字が読めないね。かわいそうだから、外してあげようか」

「……呪われたりしないか?」

「エド様、呪いなんか信じてるの? そんなのあるわけないのに」

 ……いや、闇魔法自体が呪いみたいなもんだから、闇属性が強い奴が不幸な死を迎えたら、死ぬ時の強烈な念が魔法として残って土地や物が曰くつきになったりするんだが……魔法と縁が薄い獣人には、ピンと来ないか。闇属性持ちも、いなそうだし。

 躊躇なく蔓を引きちぎるタンクを、呆れ半分で眺めているうちに、蔓が外れ、土台に比べてかなり立派な石材から作られた墓標が露わになった。
 きちんと直角に切り出され、表面も丁寧に磨き整えられたそこには、子どものような拙い字で文字が彫り込まれている。

「……【我が渇望、我に亡骸だけ与え、ここに眠る。魂は彼の人のもとに旅立てど、せめて亡骸だけは永遠に我が物に。】……思いの外、重い言葉が刻まれてたな」

 墓標の主の名前は刻まれてないのに、これだけ書き記す辺り、墓を造った人物の執念を感じてゾッとする。墓標にグルグル巻き付いてた、蔓も相まって。
 ……テイカカズラだっけ? 成就しなかった恋の執念で蔓草になって、恋人だった人の墓に巻き付いたって伝説がある前世の植物は。まさに、そんな感じ。墓を作った人が闇属性でなくても、何らかの呪い的なものが残ってそうだから、さっさと離れた方が良さそうだ。

 ドン引きしてる俺を他所に、タンクは興奮したように頬を紅潮させた。

「ーーこれ、アルデフィア様のお墓だあ!」

「は?」

「すごい、すごい、こんなとこにあったんだ! てことは、これ全部ニルカグル様が作ったんだね。そりゃあ、職人みたいにはできないよ。奴隷生活長かったから、字も得意じゃなかったみたいだし」

「ちょ、待て。タンク。これが建国の英雄の墓だって? 粗末過ぎねぇか。それに、普通そういうのは、王家専用の霊園に作るもんじゃないのか」

「普通はそうだよ。エレナ姫だって、王家に霊園に埋葬されたしね。でも、アルデフィア様は死ぬ時に遺言で、『自分を誰も知らない場所に、一人だけで埋葬するように』ってニルカグル様に言いつけたらしくてね。ニルカグル様以外は、誰もお墓の場所知らなかったんだ。アルデフィア様のお墓探し、俺くらいの年代ならみんな一度はやったことあるんじゃないかなあ。有名な話だから」

「……それ、本当にアルデフィアの意志だったのか」

「さあ? 少なくともエルディア女王は納得して許可を出したっては聞いてるけど」

 ……墓の造り手がわかったことで、よけいホラー感増したな。この石全部、一つ一つニルカグルが積み上げたのか……賽の河原を思い出すのは何故だろう。俺にとってニルカグルが、やせ細った姿なのに恐ろしい力で首を締めてきた妖怪じじいだから、仕方ないっちゃ仕方ないか。

 こうなってくると、エルディア女王の指示による暗殺を恐れて、ここ直通の脱出経路を設けていた意味も随分変わってくる。

 ニルカグルは、逃げて生き延びる為にここを転移先に指定したわけじゃない。そうなった時は、ここで死ぬ為にここに繋げたんだ。

 愛した男の亡骸と、共に眠る為に。

 
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

処理中です...