俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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隠された事情⑤

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「アホか。どこまでが話していいだとか、判断していいのはお前らじゃねぇんだよ。女王が直々に『エドワードとは一切会話をするな』と命令してんのに、何故それが守れねぇ。女王の近衛も随分質が落ちたもんだな」

「……申し訳、ございません」

「取り敢えずそのメリヌドとか言うディンゴ野郎は、王族権限で俺の隊に異動な。最高権力者である女王の命令にも従えねぇ駄犬には、調教が必要だろう。舐めた性根、俺が直々に叩き直してやる」

「は。直ちにそのように」

 牢の外に冷たく命令し終えたヴィダルスは、不愉快そうに舌打ちをした後、再び笑みを浮かべて俺に向き直った。

「……で、エドワード。お前はそんな情報が、本気で交渉材料になると思ってたのか。だとしたら、可愛いなァ。おい。頭の回転が早くて、察しも悪くねぇのに、変なとこが抜けてんだな。悪い奴に騙されて攫われねぇか、心配になるぜ」

「……どういう意味だ」

「まんま言ったままだよ。忘れたのか、エドワード。俺は他人の感情が匂いで判別できるくらい、鼻が利くんだぜ。お前、あの馬鹿双子と建国祭で一度会ってんだろ? あいつらの匂いはどうだった?」

「匂いと言われても、俺は獣人じゃないからよほど特徴的な匂いでない限り……っ!?」

 エルディア女王は檜の香りがして、カーディンクルはエスニック雑貨屋のような匂いがした。
 けれど、あの日の双子の記憶に、匂いに関わるものはない。それは、つまり……。

「いくら俺が今まで鼻の良さを公言してなかったとしてもな、抜け目がない奴なら普通はその可能性を事前に想定して匂い対策をしておくもんなんだよ。表向きは無能ぶってるカーディンクルは常に香の匂いをプンプンさせてるが、あの双子は真逆だ。自分達を誰よりも賢いと勘違いしてる癖に、馬鹿なんだよ。だからあいつらが俺のことを見下して、良いように操ろうとしてることなんか、最初から知ってるっつーの」

「っな、なら何で傍に置いたんだよ。お前、見下されるのが死ぬほど嫌いなんだろっ」

「ああいう自分自身を、他人を意のままに操れる優れた存在だと思ってる馬鹿は、自分が操られる側になることをハナから考えてねぇから扱いやすいんだよ。自負するだけあって、それなりに優秀な面があるのは確かだしな。使い捨てにするには、ちょうどいい。まあ、腹は立ったから、嫌がってるのを承知で愛人扱いしてやったけどナァ」

 くつくつと笑いながら衝撃の事実を述べるヴィダルスに、思わず呆然とする。
 ……つまりこいつは、内心自分を見下して嘲笑いながらも忠実な臣下を装う双子達を、全て知ってて堂々と見下して嘲笑ってたのか。
 感情と行動がきちんと一致してるから、わざわざ匂いを誤魔化す必要もない所も含めて、ヴィダルスの方が双子達より何枚も上手で、性格が悪い。

「ランドルークの懐刀なんて呼ばれてるが、元々ボンドロネリとランドルークは利害関係でつながった家だ。当主である双子の父親も含めて、忠誠なんぞ最初から期待してねぇし、望んでもいねぇ。ボンドロネリにはボンドロネリの思惑があるように、俺には俺の目的がある。それを叶えてくれるなら、俺は悪魔とだって契約するさ」

「……その思惑って」

「お前が欲しい。エドワード」

 ……やっぱり、そうなるのか。

「……お前は、アストルディアと戦う気なのか」

「お前を取り戻しに来たのなら、な。残念ながら、一対一で戦えば、俺だけの力じゃ勝てる見込みは薄い。けれどボンドロネリや女王の助力があれば、結果はまた違ってくるだろう?」

「負けたら……殺される可能性が高いんだぞ」

「同じ番を争って殺し合うなんて、獣人には普通のことだ。子を残せるくらい魔力相性が良い相手なんか、そうそういねぇからな。獣人は、弱肉強食。強さこそ正義だ。番を争った結果殺されんなら、その罪は死んだ弱い方のもんだ。手を尽くしてそれでもなお勝てなかったなら、そん時は自身の弱さの責任を取って潔く死ぬさ」

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