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隠された事情④

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「……王宮の備品から、手配したのか?」

 リシス王国同様セネーバ王宮でもベッドが主流なことを考えれば、敷布団も持って来ている時点で違うことはわかっていたが、念の為聞いておく。

「もちろん、俺個人で手配したに決まってるだろぉ? さすがに牢屋にベッドを持ち込むわけにはいかねぇから、大陸で使われてる寝具を取り寄せてみたんだ。気に入ったか?」

 前世では初めましてながらも、懐かしの敷布団よ。今思い出したけど、前世の俺はベッドより敷布団派だったわ。畳んで押入れに仕舞えば、狭いスペースを活用できるから、友人が遊びに来た時とか便利だったんだよな。
 高級旅館並みにフッカフカで高そうな布団を前に、遠い昔の記憶に思いを馳せつつ、ヴィダルスの様子を横目で伺う。
 こちらをじーっと見つめながら、尻尾をブンブンしている姿は、まさに飼い主に「褒めて褒めて」とねだるワンコ。思わず後天的犬好きの血が騒ぎそうになるが、騙されてはいけない。こいつは匂いで、俺の感情がわかるのだ。
 つまりこの行動は、絶対わざと。自分が可愛く見えてることがわかってて、敢えてそれを見せつけているあざとワンコなのだ。……ワンコなら、あざとくても可愛いから許される気がするな。いかん、絆されるな。俺。

「……ありがとう。ヴィダルス。おかげで腹の子に負担をかけずに済む」

  敢えて腹を撫でながら感謝を口にすると、一瞬ヴィダルスの表情が冷たいものになったが、すぐに口端を上げて愉しげに笑った。

「……そうだな。腹の子に何かありゃ、お前の体にも障りがあるかもしれねぇからな」

 ……やっぱり、これくらいでは動じないか。
 それじゃあ、せっかくなのでここで取っておきの爆弾を、と。

「……布団の礼に、忠告してやるよ。ヴィダルス。お前、ボンドロネリ家に良いように使われているぞ」

 再びヴィダルスの顔から、笑みが消えた。

 ボンドロネリ家は、ヴィダルスの生家であるランドルーク家の懐刀と呼ばれる家で、取り巻きだったまだら髪の双子のジャガー獣人の家だ。
 以前アストルディアや、チルシアさんからセネーバの貴族情勢について教えてもらったが、ボンドロネリ家は戦争賛成派の筆頭貴族であり、かなり過激な選民思想を持っていると聞いた。
 かつて取り巻きだった双子は、今はヴィダルスと同じ部隊に所属して、側近のようにかいがいしく働いているらしい。……となれば、今回の件でヴィダルスを唆したのがあの双子であることは、ほぼ間違いない。
 元々あの双子はヴィダルスを馬鹿にしきっていて、自分の楽しみの為にいいように扱っていた。ボンドロネリ家当主である親から、いざとなったらヴィダルスを対アストルディア時の捨て駒にするよう命じられたとしても、喜んで従ったことだろう。

「ボンドロネリ家をはじめとする戦争賛成派は、お前に俺を奪わせることによって、アストルディアが女王に反旗を翻した時の捨て駒にするつもりだ。アストルディアと戦わせて、お前が負けた時はその首で溜飲を下げさせようとしてるんだよ。明らかに、お前を馬鹿にしている。悔しくはないのか? ヴィダルス」

 ヴィダルスの眉間の辺りに皺が寄る。……これは、少し効いているか?

「なあ、ヴィダルス。俺とチルシアさんを解放してくれたら、俺はお前に協力するよ。お前を馬鹿にしてる奴らを、一緒に全員ボコボコにして、二度とそんなことを思えないようにしてやる。だから、今すぐこの忌々しい首輪を外してくれよ。お前だけが頼りなんだ」

「……【確信に近い、はったり】、か。ーーおいっ、そこの見張り!」

「は、はいっ!」

「明らかに、エドワードがよけいな情報仕入れてるじゃねぇか。誰が漏らした」

「す、すみません! メリヌドが、抑えがきかなかったようで。で、ですが、あくまで自分の考えを述べただけで、詳しいことは話してないと聞いていたのですが……」
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