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隠された事情①
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冤罪で捕縛された時、当然俺はその後然るべきタイミングで拷問され、やってもない罪を自白させられるのだとばかり思っていた。
リシス王国同様にセネーバにもちゃんと司法制度は存在しているが、絶対的権力者である女王が俺を殺人犯と定めた時点で、きちんと法に則って裁判が行われることは期待できない。
けれどそれでも俺が本気でニルカグルを殺したと思ってるなら、拷問でも何でもして犯行の詳細を引き出す必要はあるはずだ。現在逃走中らしいアストルディアが本当に共犯かどうかの、裏付けもしなきゃいけないわけだし。
しかし覚悟していたようなえげつない拷問は、捕縛から2日経ってなお、行われる気配すらない。それどころか、今まで簡単な尋問すら行われていないのだから、明らかに異常だ。仮にセネーバ上層部で俺の処分について意見が割れてるにしても、まずは俺の証言をきちんと聞き出して、詳細を把握するのが普通だとは思うんだが。
一応捕縛間際に多少は弁明させてもらったが、まさかあんな極短時間の冤罪主張だけで十分な情報を引き出せたと思っているわけじゃあるまい。
しかも罪人として囚われているのにも関わらず、現在の俺は毎日三食きちんと栄養価の高い食事が提供されているうえに、希望したものまであっさり差し入れてくれるくらいの高待遇。一応囚人らしくベッドも枕もない硬い石の床で寝させられてはいるが、それでものんびり昼寝してても誰と咎めて来ないくらいには自由にさせてもらってるのだけど、良いんだろうか。女王にとって俺は、狂うほどに愛した番の仇なはずなんだが。
俺が臨月だからこそ、出産までは恩赦が与えられている可能性もあるけれど、それでも王配殺しの犯人に対する扱いにしてはかなり破格な待遇だ。拷問と、輪姦で精神を殺される日々が待っているとばかり思ってただけに、正直拍子抜けしている。
「……そもそも【隷属の首輪】をつけられている時点で、命令されれば嘘の証言はできなくなるはずだよな? 何故女王は、その効力を知っていて使わないんだ? きちんと嘘がつけない状態で尋問してくれれば、必ず俺の冤罪は晴らせるのに」
敢えて聞こえるように独り言を口にすると、ぴくりとほんの僅かに見張りの兵士が反応を見せた。……なるほど。彼も彼で同様の疑問を抱いていたっぽいな。
ちなみにこの言葉は、若干ブラフ。【隷属の首輪】の効果については伝承でしか聞いたことがないから、命令すれば嘘を言えなくすることもできるかまでは、ちょっとわからない。
闇魔法って、効果がかなりピンキリなうえ種類も多いから、付与された魔法の特定難しいんだよ。少なくともこの首輪は装備者の思考までは極端にいじらないことは確定してるし、それと既に実体験した効果を鑑みたら使われた魔法の候補は絞れるけど、同じ魔法でも術者の闇属性の適正や蓄積された闇の量によっても効果が違ってくるから、付与した本人でもない限り確定は難しい。
闇魔法に対して含蓄深いはずの俺ですらこれなんだから、きっと見張りの兵士も詳細は知らないはずと思ってはったりをかましてみたのだが、案の定だったみたいだな。
「……エルディア女王は聡明な人だ。番を亡くし、狼獣人の性故におかしくなっているのだとしても、目的なくこんな愚かな行為をするとは思えない。女王は、一体何を企んでいるんだ……?」
独り言の体で、密かに見張りの王宮兵に女王への不信感を植え付ける。
これがきっかけで俺の味方になってくれればありがたいが、さすがにそこまでは無理だろうな。これで多少なりとも揺さぶられてくれて、少しでも外の情報を漏らしてくれれば、それだけで御の字だ。
石牢の見張りの兵士は、扉のすぐ前に一人と、少し離れた所にもう一人いるのがデフォ。だいたい半日ごとに人が入れ替わっているから、担当部隊の中で持ち回りって感じだろうか。
取り敢えず今後も独り言の体で、担当が変わるたびに同じ台詞を言って反応を見てみよう。城内の状況がわかるかもしれない。
上半身を拭き終えたタオルを洗いながら、俺は改めて作戦を練り直した。
リシス王国同様にセネーバにもちゃんと司法制度は存在しているが、絶対的権力者である女王が俺を殺人犯と定めた時点で、きちんと法に則って裁判が行われることは期待できない。
けれどそれでも俺が本気でニルカグルを殺したと思ってるなら、拷問でも何でもして犯行の詳細を引き出す必要はあるはずだ。現在逃走中らしいアストルディアが本当に共犯かどうかの、裏付けもしなきゃいけないわけだし。
しかし覚悟していたようなえげつない拷問は、捕縛から2日経ってなお、行われる気配すらない。それどころか、今まで簡単な尋問すら行われていないのだから、明らかに異常だ。仮にセネーバ上層部で俺の処分について意見が割れてるにしても、まずは俺の証言をきちんと聞き出して、詳細を把握するのが普通だとは思うんだが。
一応捕縛間際に多少は弁明させてもらったが、まさかあんな極短時間の冤罪主張だけで十分な情報を引き出せたと思っているわけじゃあるまい。
しかも罪人として囚われているのにも関わらず、現在の俺は毎日三食きちんと栄養価の高い食事が提供されているうえに、希望したものまであっさり差し入れてくれるくらいの高待遇。一応囚人らしくベッドも枕もない硬い石の床で寝させられてはいるが、それでものんびり昼寝してても誰と咎めて来ないくらいには自由にさせてもらってるのだけど、良いんだろうか。女王にとって俺は、狂うほどに愛した番の仇なはずなんだが。
俺が臨月だからこそ、出産までは恩赦が与えられている可能性もあるけれど、それでも王配殺しの犯人に対する扱いにしてはかなり破格な待遇だ。拷問と、輪姦で精神を殺される日々が待っているとばかり思ってただけに、正直拍子抜けしている。
「……そもそも【隷属の首輪】をつけられている時点で、命令されれば嘘の証言はできなくなるはずだよな? 何故女王は、その効力を知っていて使わないんだ? きちんと嘘がつけない状態で尋問してくれれば、必ず俺の冤罪は晴らせるのに」
敢えて聞こえるように独り言を口にすると、ぴくりとほんの僅かに見張りの兵士が反応を見せた。……なるほど。彼も彼で同様の疑問を抱いていたっぽいな。
ちなみにこの言葉は、若干ブラフ。【隷属の首輪】の効果については伝承でしか聞いたことがないから、命令すれば嘘を言えなくすることもできるかまでは、ちょっとわからない。
闇魔法って、効果がかなりピンキリなうえ種類も多いから、付与された魔法の特定難しいんだよ。少なくともこの首輪は装備者の思考までは極端にいじらないことは確定してるし、それと既に実体験した効果を鑑みたら使われた魔法の候補は絞れるけど、同じ魔法でも術者の闇属性の適正や蓄積された闇の量によっても効果が違ってくるから、付与した本人でもない限り確定は難しい。
闇魔法に対して含蓄深いはずの俺ですらこれなんだから、きっと見張りの兵士も詳細は知らないはずと思ってはったりをかましてみたのだが、案の定だったみたいだな。
「……エルディア女王は聡明な人だ。番を亡くし、狼獣人の性故におかしくなっているのだとしても、目的なくこんな愚かな行為をするとは思えない。女王は、一体何を企んでいるんだ……?」
独り言の体で、密かに見張りの王宮兵に女王への不信感を植え付ける。
これがきっかけで俺の味方になってくれればありがたいが、さすがにそこまでは無理だろうな。これで多少なりとも揺さぶられてくれて、少しでも外の情報を漏らしてくれれば、それだけで御の字だ。
石牢の見張りの兵士は、扉のすぐ前に一人と、少し離れた所にもう一人いるのがデフォ。だいたい半日ごとに人が入れ替わっているから、担当部隊の中で持ち回りって感じだろうか。
取り敢えず今後も独り言の体で、担当が変わるたびに同じ台詞を言って反応を見てみよう。城内の状況がわかるかもしれない。
上半身を拭き終えたタオルを洗いながら、俺は改めて作戦を練り直した。
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