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黒狼の純情④
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ヴィダルスの言葉は、どこまでもまっすぐで迷いがない。それがよけいに腹立たしかった。
「……お前は、運命がどんなものか知らないから、そんなことが言えるんだ」
俺のような原作知識持ちの転生者じゃないから、ヴィダルスはわからないんだ。運命に流されて辿り着く未来が、どれだけ悲惨なものか。
卒業式の忠告も、きっとこの男は可能性の一部でしかないと楽観的に考えていて、本気で俺の傀儡にされるだなんて思ってはいないんだろう。
……ヴィダルス。運命に逆らわなければ、お前は俺に闇魔法で操られた末に、王になったアストルディアを暗殺しようとした首謀者と言う冤罪を着せられて、自殺させられるんだよ。
前世妹が書いた原作小説では名前すら出てこない、惨めな脇役なんだ。
今からでも遅くないから、一緒に運命に逆らってくれ。
喉もとまで出かけた言葉を、どうせ言った所で信じちゃもらえねぇかと、自嘲と共に飲み込んだ。
俺だって、何も知らずにヴィダルス程度の薄い関係の相手からこんなことを言われたら、「頭がおかしいんじゃないか」とドン引きするだけだしな。
一人そんなことを鬱々と考えてると、頭上のヴィダルスが笑った気配がした。
「……知ってるよ。エドワード。もしかしたら、お前以上に詳しくな」
「……え?」
「建国祭の少し後、くらいだったか? 一度、未来を夢で見たんだ。闇魔法で十年以上お前の傀儡にされた俺が、お前の罪を被って自殺させられる、やたらリアルな夢だった。そんで自分の首を自分で掻っ切った瞬間、女の声がするんだ。こんな悲惨な目に遭いたくなければ、未来を変えろってな」
「っ」
ガンと、頭を殴られたかのような衝撃的な言葉だった。
卒業式の時も、ヴィダルスは夢がどうのこうのと言ってたが、ただ願望が夢に現れただけだろうと、今までさして気にしていなかった。だが、それが俺が知っている原作小説と同じ内容で、しかもそこに未来を変えるよう忠告してくる女の声まで含まれているのなら、話は全く代わってくる。
『お兄ぃ!』
無邪気に俺を呼ぶ、前世の妹の声が脳裏に蘇る。
『ーー大好きだよ。お兄ちゃん』
……そういえば、いつかアストルディアも悪夢がどうとか言っていたな。
もしかして、全て、お前の仕業だったのか。
夢で二人に悲惨な未来を見せることで、俺の運命を変えようとしてくれていたのか。
もし前世の妹がこの世界の女神なのだとしたら、前世の兄である俺が悲惨な目に遭う姿を観察して、悲惨萌だとか言って喜んでいるのかもしれないと、胸を痛めたことがあった。
詳細は思い出せなくても、大好きで大切だった前世の妹が、兄だった俺を自分の楽しみの為の駒にしか思っていないんじゃないかと、絶望したりもした。
でも、そうじゃなかったんだな。……お前はお前のできる範囲で、運命を変えようとしてくれたんだな。
それはきっとこの世界でエドワードとして生まれ変わってしまった俺の為だと思うのは、自惚れが過ぎるだろうか。
思いがけない形で知った前世妹の愛情に、自然と目に涙がにじんだ。胸の奥から、じわりと全身が温かくなってくる。
けれどそんな温かな気持ちは、続くヴィダルスの一言によって、またたく間に凍りついた。
「本当……よけいなお世話にも程があるよなァ」
「…………え?」
「女神だか何だか知らねぇが、勝手に人の幸福を決めつけんなっつーんだ。あの夢の未来こそが、俺が求めているもんなのによお」
口の中が乾き、冷たい汗がこめかみを伝う。
まるで縫いぐるみを抱く子どものように、座ったまま俺を後ろから全身で抱き締めてくるこの男が、自分とは全く異なる生物のように思えて仕方なかった。
「……求めて、いたって」
「言っただろう。番と共に生きられないぐらいなら、共に破滅した方が、ずっと幸福だって。お前が俺以外の奴のもんになるくらいなら、俺はあの夢の中に堕ちたい。お前の傀儡として生きて、お前の為に死んでやりてぇんだ」
「……お前は、運命がどんなものか知らないから、そんなことが言えるんだ」
俺のような原作知識持ちの転生者じゃないから、ヴィダルスはわからないんだ。運命に流されて辿り着く未来が、どれだけ悲惨なものか。
卒業式の忠告も、きっとこの男は可能性の一部でしかないと楽観的に考えていて、本気で俺の傀儡にされるだなんて思ってはいないんだろう。
……ヴィダルス。運命に逆らわなければ、お前は俺に闇魔法で操られた末に、王になったアストルディアを暗殺しようとした首謀者と言う冤罪を着せられて、自殺させられるんだよ。
前世妹が書いた原作小説では名前すら出てこない、惨めな脇役なんだ。
今からでも遅くないから、一緒に運命に逆らってくれ。
喉もとまで出かけた言葉を、どうせ言った所で信じちゃもらえねぇかと、自嘲と共に飲み込んだ。
俺だって、何も知らずにヴィダルス程度の薄い関係の相手からこんなことを言われたら、「頭がおかしいんじゃないか」とドン引きするだけだしな。
一人そんなことを鬱々と考えてると、頭上のヴィダルスが笑った気配がした。
「……知ってるよ。エドワード。もしかしたら、お前以上に詳しくな」
「……え?」
「建国祭の少し後、くらいだったか? 一度、未来を夢で見たんだ。闇魔法で十年以上お前の傀儡にされた俺が、お前の罪を被って自殺させられる、やたらリアルな夢だった。そんで自分の首を自分で掻っ切った瞬間、女の声がするんだ。こんな悲惨な目に遭いたくなければ、未来を変えろってな」
「っ」
ガンと、頭を殴られたかのような衝撃的な言葉だった。
卒業式の時も、ヴィダルスは夢がどうのこうのと言ってたが、ただ願望が夢に現れただけだろうと、今までさして気にしていなかった。だが、それが俺が知っている原作小説と同じ内容で、しかもそこに未来を変えるよう忠告してくる女の声まで含まれているのなら、話は全く代わってくる。
『お兄ぃ!』
無邪気に俺を呼ぶ、前世の妹の声が脳裏に蘇る。
『ーー大好きだよ。お兄ちゃん』
……そういえば、いつかアストルディアも悪夢がどうとか言っていたな。
もしかして、全て、お前の仕業だったのか。
夢で二人に悲惨な未来を見せることで、俺の運命を変えようとしてくれていたのか。
もし前世の妹がこの世界の女神なのだとしたら、前世の兄である俺が悲惨な目に遭う姿を観察して、悲惨萌だとか言って喜んでいるのかもしれないと、胸を痛めたことがあった。
詳細は思い出せなくても、大好きで大切だった前世の妹が、兄だった俺を自分の楽しみの為の駒にしか思っていないんじゃないかと、絶望したりもした。
でも、そうじゃなかったんだな。……お前はお前のできる範囲で、運命を変えようとしてくれたんだな。
それはきっとこの世界でエドワードとして生まれ変わってしまった俺の為だと思うのは、自惚れが過ぎるだろうか。
思いがけない形で知った前世妹の愛情に、自然と目に涙がにじんだ。胸の奥から、じわりと全身が温かくなってくる。
けれどそんな温かな気持ちは、続くヴィダルスの一言によって、またたく間に凍りついた。
「本当……よけいなお世話にも程があるよなァ」
「…………え?」
「女神だか何だか知らねぇが、勝手に人の幸福を決めつけんなっつーんだ。あの夢の未来こそが、俺が求めているもんなのによお」
口の中が乾き、冷たい汗がこめかみを伝う。
まるで縫いぐるみを抱く子どものように、座ったまま俺を後ろから全身で抱き締めてくるこの男が、自分とは全く異なる生物のように思えて仕方なかった。
「……求めて、いたって」
「言っただろう。番と共に生きられないぐらいなら、共に破滅した方が、ずっと幸福だって。お前が俺以外の奴のもんになるくらいなら、俺はあの夢の中に堕ちたい。お前の傀儡として生きて、お前の為に死んでやりてぇんだ」
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