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黒狼の純情②
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そう言ってヴィダルスは愛おしげに、尖ったマズルの先をうなじの噛み跡に埋めた。
「お前を番にする為に命より大切だったプライドを投げ捨てたのに、ようやく番にできたお前の前だけで、意地を張っても意味がねぇだろぉ? 既に俺は学生時代に、散々やり方を間違えてんのによお」
「……やり方を、間違えた?」
「おう。力で支配すれば、お前を手に入れられると勘違いした。追いかけても追いかけても、お前は逃げるばかりで、このままじゃあお前を手に入れられないと、敢えて引いてみても、ますますお前は遠ざかって行った。立場を固めて、次に会う時こそはと思ってたら、その間にお前はアストルディアのもんになってた。全てが俺の一人相撲で、やり方全てが間違っていた。もう二度と、間違えない」
ヴィダルスの鋭い爪が生えた手が、驚くほど優しく俺の髪を撫でる。
「エドワード。お前は、自分が思っている以上に情が厚い。自分の中の優先順位をきっちりつけてるようで、一度懐に入れちまった相手は、そうそう簡単には切り捨てれねぇんだ」
「……俺は、辺境伯領の為なら、どれほど大事に思ってる相手だろうが切り捨てるぞ」
「そうやって、自分に必死に言い聞かせてるんだろぉ? 必要と迫られた時、躊躇わないように」
「知ったような口を聞くな。お前に俺の何がわかる」
「わかるに決まってるだろ。お前は俺の【運命】だからなァ」
……意味が、わからない。
ずっと共に過ごして来たアストルディアならともかく、俺がヴィダルスと接触した時間は短い。
それなのに何故この男は、これほどまでに自信満々に俺の本質を語るのだろう。
「学生時代のお前は俺のことを心底嫌がっていたが、一度だけわかりやすく違った表情を見せたことがあっただろ」
そう言ってヴィダルスは俺の右手を手に取り、噛み跡が残る薬指に、そっと口づけた。
「『……待っていると、言ってくれ。誰の物にもならず、一年半待っていてくれると、そう言ってくれ。お前が俺の番に、いや妻になってくれるなら、大切にする。お前だけを愛し、命を賭けて守り抜くと誓う。だから……お願いだ。エドワード』」
「っ」
「覚えるかァ。エドワード。卒業式の時に、俺がお前言った言葉だ。結局お前は俺をつれなく拒絶したけどーーあん時のお前の顔には、わかりやすい【罪悪感】が滲んでいた」
くつくつと笑いながら、ヴィダルスが俺の右手を頬に当てる。
アストルディアのお犬様状態の時より短く硬い毛が、ちくちくと手の側面に刺さった。
「あん時は、拒絶されたことがショックでその意味を深く考える余裕はなかったが……落ち着いて、いつかの夢と照らし合わしてみりゃ、お前の懐に入る為に必要なもんは見えてきた」
「…………」
「……好きだよ。エドワード。世界中の誰よりも、お前のことを愛してる」
突然の告白に、思わず顔を上げてヴィダルスを見て、後悔した。
俺を見下ろすヴィダルスの目が……俺が恋したあの日のアストルディアの目と、あまりに似ていたから。
「お前を不快にさせるようなよけいなことを言わず、もっと早く、ただそう言やぁ良かった。それだけを言い
続けりゃ良かった。そうしていたら、お前と結婚式を挙げていたのは、アストルディアではなく俺だったかもしんねぇのに」
「……ヴィダルス」
「けど、運命は俺を見捨てなかった。あの夢の通りに……正しい未来へと俺達の関係を修正するチャンスを、俺にくれた。だからこそ、俺はもう二度と間違わない。たとえ最期には破滅が待ち受けてたとしてもーーそれでも俺は、お前の全てが欲しい。心も身体も、全部。その為に、俺は今日からただひたすらお前に愛を伝えて、愛を乞い続けようと思っている。お前がいつか、俺に絆されてくれる日まで、ずっと」
「お前を番にする為に命より大切だったプライドを投げ捨てたのに、ようやく番にできたお前の前だけで、意地を張っても意味がねぇだろぉ? 既に俺は学生時代に、散々やり方を間違えてんのによお」
「……やり方を、間違えた?」
「おう。力で支配すれば、お前を手に入れられると勘違いした。追いかけても追いかけても、お前は逃げるばかりで、このままじゃあお前を手に入れられないと、敢えて引いてみても、ますますお前は遠ざかって行った。立場を固めて、次に会う時こそはと思ってたら、その間にお前はアストルディアのもんになってた。全てが俺の一人相撲で、やり方全てが間違っていた。もう二度と、間違えない」
ヴィダルスの鋭い爪が生えた手が、驚くほど優しく俺の髪を撫でる。
「エドワード。お前は、自分が思っている以上に情が厚い。自分の中の優先順位をきっちりつけてるようで、一度懐に入れちまった相手は、そうそう簡単には切り捨てれねぇんだ」
「……俺は、辺境伯領の為なら、どれほど大事に思ってる相手だろうが切り捨てるぞ」
「そうやって、自分に必死に言い聞かせてるんだろぉ? 必要と迫られた時、躊躇わないように」
「知ったような口を聞くな。お前に俺の何がわかる」
「わかるに決まってるだろ。お前は俺の【運命】だからなァ」
……意味が、わからない。
ずっと共に過ごして来たアストルディアならともかく、俺がヴィダルスと接触した時間は短い。
それなのに何故この男は、これほどまでに自信満々に俺の本質を語るのだろう。
「学生時代のお前は俺のことを心底嫌がっていたが、一度だけわかりやすく違った表情を見せたことがあっただろ」
そう言ってヴィダルスは俺の右手を手に取り、噛み跡が残る薬指に、そっと口づけた。
「『……待っていると、言ってくれ。誰の物にもならず、一年半待っていてくれると、そう言ってくれ。お前が俺の番に、いや妻になってくれるなら、大切にする。お前だけを愛し、命を賭けて守り抜くと誓う。だから……お願いだ。エドワード』」
「っ」
「覚えるかァ。エドワード。卒業式の時に、俺がお前言った言葉だ。結局お前は俺をつれなく拒絶したけどーーあん時のお前の顔には、わかりやすい【罪悪感】が滲んでいた」
くつくつと笑いながら、ヴィダルスが俺の右手を頬に当てる。
アストルディアのお犬様状態の時より短く硬い毛が、ちくちくと手の側面に刺さった。
「あん時は、拒絶されたことがショックでその意味を深く考える余裕はなかったが……落ち着いて、いつかの夢と照らし合わしてみりゃ、お前の懐に入る為に必要なもんは見えてきた」
「…………」
「……好きだよ。エドワード。世界中の誰よりも、お前のことを愛してる」
突然の告白に、思わず顔を上げてヴィダルスを見て、後悔した。
俺を見下ろすヴィダルスの目が……俺が恋したあの日のアストルディアの目と、あまりに似ていたから。
「お前を不快にさせるようなよけいなことを言わず、もっと早く、ただそう言やぁ良かった。それだけを言い
続けりゃ良かった。そうしていたら、お前と結婚式を挙げていたのは、アストルディアではなく俺だったかもしんねぇのに」
「……ヴィダルス」
「けど、運命は俺を見捨てなかった。あの夢の通りに……正しい未来へと俺達の関係を修正するチャンスを、俺にくれた。だからこそ、俺はもう二度と間違わない。たとえ最期には破滅が待ち受けてたとしてもーーそれでも俺は、お前の全てが欲しい。心も身体も、全部。その為に、俺は今日からただひたすらお前に愛を伝えて、愛を乞い続けようと思っている。お前がいつか、俺に絆されてくれる日まで、ずっと」
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