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黒狼の純情①

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「……離して、くれ。その、腹が……」

「っああ、悪ぃ! 腹のガキに何かあって、お前まで影響あったら大変だもんな」  

 ……あ、そこはやっぱり腹の子<俺ではあるのな。 

 慌てて俺を解放したヴィダルスは、どかりとその場にあぐらをかくと、俺の体を引き寄せて膝の上に座らせ、後ろから優しく抱きしめてきた。……背面座位を思い出すので、とてもやめてもらいたい。

「これなら、いいだろお? 腹に負担がなくて」

「……抱き締めないという選択はないのか」

「自分のもんになった運命の番を前に、我慢できる狼獣人なんかいねぇよ。……ああ、この体勢だと首輪してても、噛み跡が見えていいなァ。エドワードが、俺のもんになった証がよお」

「っ」

 首輪の隙間から、ぺちゃりと舌を差し込まれ、思わず体が跳ねた。 
 後ろから噛み跡を舌でなぞられるたび、アストルディアとの行為で同じことをされた記憶が脳裏に蘇り、ずくりと体の奥が疼いた。
 ヴィダルスは、アストルディアと魔力の質も体格もよく似てるから、別人だとわかっているのに体が引きずられそうになってしまう。

「……匂いが強くなった。発情してんのかァ? エドワード」

「…………」

「あぁ、くそ……ぶち犯してぇなァ」

 顎を取られて上を向かされ、そのまま噛みつくようにキスをされた。と言っても、ヴィダルスは獣面状態なので、キスと言うよりも、舌で口内や口まわりを舐られたと言う方が正しいのかもしれない。
 出会い頭で顔中舐め回されてた時点で、既に唇辺りも舐められてたから、思っていた以上にショックは受けなかった。
 というか、寧ろそのおかげで、ああやっぱりこいつアストルディアじゃねぇやと実感できて、すんと萎えたわ。
 アストルディアなら獣面でもって思ってはいたけど、結局獣面エッチはしてないどころか、獣面姿も見てないからな。おかげでヴィダルスの顔が見える状態では、錯覚しようがないから、結果的に良かった。
 匂いで俺の変化を察したのか、舌を口の中から抜いたヴィダルスが、ちょっと拗ねたような表情で俺を見下ろした。

「……口づけは、嫌いか?」

「好きだよ。好きな相手とするならな」

 短気で傲慢なヴィダルスのことだから、こんな風に馬鹿にするように言われたら、怒って俺を放り投げて帰るだろうと思った。
 ヴィダルスの様子があまりにシミュレーションと違って調子が狂うから、今はできるだけ早くヴィダルスから解放されて、作戦を練り直したかった。
 それなのに。  

「……そうかよ」   

 へにょんと伏せられた黒い三角耳に、獣面でなおはっきりわかる、悲しげな表情。……角度的には見えないけど、恐らく尻尾もペタンと力なく地面に伏せられているのだろう。

 ……ちょっと待て。ヴィダルス。その顔は、お犬様をきっかけに、犬好きになった俺に効く。  
 罪悪感で胸が痛くなるから、やめてくれ。

「……何か、お前、今までとキャラ違くね」

「エドワードだって、違うだろう。学校では、ずっと敬語使ってたのによお」

「う……それはそう。それはそうだけど」

 確かにキャラ変という意味では、敬語王子キャラがデフォだった俺の方が、ギャップがひどいかもだけど。
 なんてか……ヴィダルスのそれは、俺と違って演技でも何でもなさそうな分、よけいに調子が狂う。

「もし俺が今までと違って見えるなら、それはお前が正式に俺の番になったからだ」

 戸惑う俺の姿に小さく笑って、ヴィダルスが再び俺を抱き締めてきた。

「俺は他人に頭を下げるのが、嫌いだ。馬鹿にしてくる奴はみんなぶっ殺してやりてぇと思うし、実際それができる能力も、権力も持っている。俺は王の器でこそねぇが、選ばれた特別な獣人だ。アストルディアはもちろん、たとえ相手が女王だとしても、死んでも傅くつもりなんかなかった」

「……あ、ああ。うん」

「けどな、エドワード。……俺はお前を手に入れる為なら、その死んでもやりたくなかったことですら、平気でできんだよ」

 
 
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