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運命の罠①

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 まるで堰を切ったように、はらはらと目から涙が溢れ落ちた。
 次々と零れ落ちる涙を、ヴィダルスが嬉しそうに舌で舐め取る。

「ああ。エドワード。ーーそんな風に泣く姿すら、お前はどうしようもなく美しいなァ」

 美しいとヴィダルスが讃えるエレナ姫そっくりのこの容姿がなければ、こんなことにはならなかっただろうか。
 ならばいっそ、ずたずたに切り刻んでしまえば良かった。
 きっと顔中傷だらけの俺だって、アストルディアなら受け入れてくれたはずだから。

「……ヴィダルス様。そろそろ約束のお時間です」

「なんだよ。もうか。短ぇなァ」

 見張りの兵士に促されたヴィダルスが、名残り惜しそうに俺から離れた。

「ったく、女王陛下もケチだよなァ。ヤらせろとまでは言わねぇが、せめて一刻くらいは一緒にいさせてくれてもいいだろうに」

「そう思われるのなら、早く相応の手柄をお立てください」

「そうだな。正式に俺のもんにできれば、傍にいんのも犯すのも思いのままだ」 

 俺の右手を恭しく手に取ったヴィダルスが、右手の薬指の噛み跡にそっと口づける。

「……明日同じ時間に、また会いに来る。それまで良い子に待ってろよ」

 そう言ってヴィダルスは背を向け、去って行った。

「……俺はニルカグルを、殺してなんかいない……無実、なんだよ……俺もアストルディアも、何もしてない……」

 ヴィダルスの姿が見えなくなってから、俺は石牢に縋りつき、震える声で懇願した。

「……ここから、出してくれよ……アストルディアに会わせてくれよ……俺はあいつの番で、ヴィダルスの番なんかじゃない……そのことを、今すぐ伝えに行かないといけないんだ……」

 どれほど必死に訴えても、見張りの兵士は俺に背を向けたままで、一瞥すらしてくれない。
 わかっていた。わかっていた、けど。

「……アスティっ……」

 ズルリとその場に崩れ落ち、その場に突っ伏してすすり泣く。
 胸の中には、再び先ほどの闇が広がっていた。
 ……原作で性奴隷にされたエドワードも、【隷属の首輪】をつけられていたのかな。だとしたら、首輪をつけたままでも、闇魔法を使えるのかもしれない。
 ならばいっそ、一か八かに賭けて、このまま胸の闇を育ててみようか。そうしたら、闇魔法で他の王宮兵を支配して、ここから脱出できるようになるかもしれない。
 そのせいで俺自身も精神的におかしくなるかもしれないけど……遅かれ早かれおかしくなってしまうなら、闇が浅いうちに暴走させてしまった方が、まだ後遺症は少ないかもしれないし。
 このまま一人石牢に閉じ込められ、運命に流されるしかないなら、犠牲覚悟で抗ってみよう。どうせ失うのは、俺自身の命だけだ。

 そんなことを考えてると、抗議するようにポコンと内側から腹を蹴られた。

「……そうだ。俺は、一人じゃなかった。お前が一緒にいるんだった」

 ポコリポコリと蹴る足を宥めるように、下腹を撫でる。
 闇魔法になんか頼ったら、腹の子にだってどんな影響が出るかわからないのに、馬鹿なことを考えたもんだ。俺はもう、一人の命じゃないのに。
 涙で曇っていた視界が晴れ、胸の中に闇が霧散する。
 絶望なんか、するものか。
 諦めてなんか、やるものか。
 腹の子の為にも、絶対俺が運命が変えてやる。

「うなじに噛み跡をつけられたくらいで、何だっつーんだ。犯されたわけでもねぇのに」

 噛み跡を上書きされたなら、また上書きしてもらえばいいだけだ。元々俺は人間で、獣人と同じ価値観に生きてるわけじゃねーし。番の証とか、知るか。
 そもそも仮に犯されたとしても、大したことじゃないんだ。最初は俺も、辺境伯領を救う為だけにアストルディアにケツ穴処女を売ったわけなんだから。  
 アストルディアに恋をしたから、貞操を守らなければと思ってしまっているだけで、俺は元々辺境伯領の為なら貞操だって差し出せる人間なんだよ。俺のケツ穴はそれなりに高いは高いが、必要とあらば売れないわけじゃない。
 今後ヴィダルスから無理やり粗チンを突っ込まれたとしても、腹の子さえ無事なら、犬に噛まれたと思えばいい。何も絶望する必要なんかない。
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