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運命の分岐⑦
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ヴィダルスから性奴隷として虐げられるうちに、胸中で膨らむ闇に飲まれた俺は、やがて助けに来てくれないアストルディアを逆恨みするようになり。
闇が深くなるに連れ、原作小説と現実の境目がわからなくなって、いつしかアストルディアを全ての元凶として憎むようになる。
きっと運命は、帳尻を合わせのように俺の片腕を失わせ、狂気を後押しするのだろう。
そして俺は、ヴィダルスを闇魔法で支配して、ヴィダルスとの間に生まれた子どもを性的虐待を加えながら、暗殺者として育てあげ……。
ありありと想像できる絶望的なシナリオに、吐き気がこみ上げてきた。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
そんな最悪の運命を変えたくて、ずっと足掻いてきたのに。
結局俺は、何もできずに運命の強制力に負けてしまうのか。
胸の内に、闇が広がる。それも全て、定められた未来へと導く要因の一つだとわかっているのに、止められない。
アストルディア、アストルディア、……アスティ。
何故、お前は今、俺の傍にいないんだ。
お前がいないと、俺は……。
「っ!」
絶望に染められかけた俺を、左手の薬指の締めつけが、我に返らせた。
これは、指輪に通信があった合図。
そしてこの締めつけ方は、クリスからではなく、アストルディアからのものだ。
凍りついたかのように冷たかった体に、熱が戻る。
アストルディアは、俺と連絡を取ろうとしてくれている。……やっぱり、俺のことを見捨ててなんか、いなかった。憎んでなんか、いなかった。
今は通信を繋げることはできないけど、ヴィダルスが帰ったら、すぐさまアストルディアに連絡をしよう。
そして、何とかこの状況を打破する方法を二人で考えるんだ。
俺一人なら心が折れてしまっていたかもしれないけど、アストルディアが一緒なら大丈夫。
俺はまだ、運命と戦える。
「ーーそれ、アストルディアも、揃いでつけてたよなァ」
地を這うようなヴィダルスの声に、ぞくりと鳥肌が立った。
慌てて顔をあげると、一切の表情を無くしたヴィダルスが、射抜くような眼差しで指輪を見つめていた。
指輪の締めつけは傍目からわからないから、アストルディアが俺に連絡を取ろうとしたことは恐らくバレていないはずだ。
けれどヴィダルスは迷うことなく、俺の左手を取り、その手を口元まで導いた。
「これ……もういらねぇよなァ」
「っやめ」
卒業式で右手の薬指に噛み跡をつけたあの時のように、左手の薬指を口に含んだヴィダルスが、そのまま指輪に歯を立てた。
『……っエ』
ほんの一瞬、通信がつながってアストルディアの声が聞こえた気がしたが、すぐにパキリと音を立てて指輪が壊れた。
それを俺は、ただ見てることしかできなかった。
「ん? 今、一瞬アストルディアの声が聞こえた気がすんなァ。もしかして、これ通信用の魔道具か。あっぶねぇなァ。こんなもん、つけっぱなしにするとか、女王陛下迂闊過ぎんだろ」
「……あ……あ……あ……」
「これで指の印は、俺だけになったな……後は、うなじか」
呆然と指輪が外れた薬指を見ている俺を引き寄せ、ヴィダルスが【隷属の首輪】をずらす。
もし【隷属の首輪】が、俺が女装した時に使ったチョーカーのように幅広で首を隠すようなデザインであれば、ヴィダルスもどうにもできなかっただろう。
だが細身で余裕があるデザインの【隷属の首輪】は、ヴィダルスの指で簡単に動き、うなじにつけられたアストルディアの噛み跡を露わにしてしまった。
「ーーあああああ!!!」
肉を食いちぎられるような激しい痛みに、思わず俺は叫んだ。
同じ痛みを以前も味わったはずなのに、あの時以上の痛みに感じたのは、恐らくそれがアストルディアに対する裏切りで、取り返しのつかない行為だとわかっていたから。
獣人にとってのそれは、もしかしたら貞操を奪われること以上に、許されないことだと知っていたから。
「……ああ。やっと、上書きができた」
口元についた俺の血を、美味そうに舌で舐め取りながらヴィダルスが嗤う。
「これでお前は、俺の番だ。エドワード」
血を流しているうなじに手をやっても、アストルディアがつけた噛み跡は、新たな噛み跡に重なって、わからなくなってしまっていた。
闇が深くなるに連れ、原作小説と現実の境目がわからなくなって、いつしかアストルディアを全ての元凶として憎むようになる。
きっと運命は、帳尻を合わせのように俺の片腕を失わせ、狂気を後押しするのだろう。
そして俺は、ヴィダルスを闇魔法で支配して、ヴィダルスとの間に生まれた子どもを性的虐待を加えながら、暗殺者として育てあげ……。
ありありと想像できる絶望的なシナリオに、吐き気がこみ上げてきた。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
そんな最悪の運命を変えたくて、ずっと足掻いてきたのに。
結局俺は、何もできずに運命の強制力に負けてしまうのか。
胸の内に、闇が広がる。それも全て、定められた未来へと導く要因の一つだとわかっているのに、止められない。
アストルディア、アストルディア、……アスティ。
何故、お前は今、俺の傍にいないんだ。
お前がいないと、俺は……。
「っ!」
絶望に染められかけた俺を、左手の薬指の締めつけが、我に返らせた。
これは、指輪に通信があった合図。
そしてこの締めつけ方は、クリスからではなく、アストルディアからのものだ。
凍りついたかのように冷たかった体に、熱が戻る。
アストルディアは、俺と連絡を取ろうとしてくれている。……やっぱり、俺のことを見捨ててなんか、いなかった。憎んでなんか、いなかった。
今は通信を繋げることはできないけど、ヴィダルスが帰ったら、すぐさまアストルディアに連絡をしよう。
そして、何とかこの状況を打破する方法を二人で考えるんだ。
俺一人なら心が折れてしまっていたかもしれないけど、アストルディアが一緒なら大丈夫。
俺はまだ、運命と戦える。
「ーーそれ、アストルディアも、揃いでつけてたよなァ」
地を這うようなヴィダルスの声に、ぞくりと鳥肌が立った。
慌てて顔をあげると、一切の表情を無くしたヴィダルスが、射抜くような眼差しで指輪を見つめていた。
指輪の締めつけは傍目からわからないから、アストルディアが俺に連絡を取ろうとしたことは恐らくバレていないはずだ。
けれどヴィダルスは迷うことなく、俺の左手を取り、その手を口元まで導いた。
「これ……もういらねぇよなァ」
「っやめ」
卒業式で右手の薬指に噛み跡をつけたあの時のように、左手の薬指を口に含んだヴィダルスが、そのまま指輪に歯を立てた。
『……っエ』
ほんの一瞬、通信がつながってアストルディアの声が聞こえた気がしたが、すぐにパキリと音を立てて指輪が壊れた。
それを俺は、ただ見てることしかできなかった。
「ん? 今、一瞬アストルディアの声が聞こえた気がすんなァ。もしかして、これ通信用の魔道具か。あっぶねぇなァ。こんなもん、つけっぱなしにするとか、女王陛下迂闊過ぎんだろ」
「……あ……あ……あ……」
「これで指の印は、俺だけになったな……後は、うなじか」
呆然と指輪が外れた薬指を見ている俺を引き寄せ、ヴィダルスが【隷属の首輪】をずらす。
もし【隷属の首輪】が、俺が女装した時に使ったチョーカーのように幅広で首を隠すようなデザインであれば、ヴィダルスもどうにもできなかっただろう。
だが細身で余裕があるデザインの【隷属の首輪】は、ヴィダルスの指で簡単に動き、うなじにつけられたアストルディアの噛み跡を露わにしてしまった。
「ーーあああああ!!!」
肉を食いちぎられるような激しい痛みに、思わず俺は叫んだ。
同じ痛みを以前も味わったはずなのに、あの時以上の痛みに感じたのは、恐らくそれがアストルディアに対する裏切りで、取り返しのつかない行為だとわかっていたから。
獣人にとってのそれは、もしかしたら貞操を奪われること以上に、許されないことだと知っていたから。
「……ああ。やっと、上書きができた」
口元についた俺の血を、美味そうに舌で舐め取りながらヴィダルスが嗤う。
「これでお前は、俺の番だ。エドワード」
血を流しているうなじに手をやっても、アストルディアがつけた噛み跡は、新たな噛み跡に重なって、わからなくなってしまっていた。
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