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運命の分岐⑥
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「……アストルディアが、俺を憎むはずが……」
はっきりと否定できなかったのは、鮮明に思い出した前世の記憶のせい。
出版社でアルバイトをしてた俺は、ライトノベルの賞の下読みをしたこともあり、当時流行してた「悪役(令嬢)転生」小説も山程読まされた。
その中には主人公が世界の強制力に踊らされるものも含まれていて、原作の直前まで仲が良かった相手が、原作パートに入った途端に精神を乗っ取られたように人が変わってしまう展開のものもいくつかあった。
前世妹が書いた話では、俺とアストルディアは元親友ながら戦場で対峙し、互いに憎み合うことになる。その影響が既にアストルディアに現れはじめているのなら、冤罪をきっかけに、彼が俺を憎んだとしても不思議はなかった。
アストルディアと、話したい。
俺がニルカグルを殺してないことを説明して、彼が俺を誤解してないことを確かめたい。
そしてアストルディアもまた、ニルカグルを殺してないことを確認して、二人で真犯人を突き止め、冤罪をはらさなければ。
思わず祈るように、指輪がはめられてる手を、口元で握り締める。
その瞬間、ヴィダルスの眼差しが怜悧に光った。
「……まあ、お前がそう思いたいのなら、そう思えばいいが。少なくとも、アストルディアはお前を見捨てたぜ。お前が捕縛されるのと同時に、女王陛下はアストルディアにも兵を差し向けたが、アストルディアがいたはずの場所はもぬけの殻だったらしい。アストルディアと、その腹心数名の行方を、女王は今、血眼になって探している。もしあいつがお前を誤解してないっつーなら、何でさっさと助けに来ないんだと思う?」
「……それは、きっと機会を伺ってるだけで」
「機会を伺ってる間に、番と子供が殺されたり犯されたりするかもしれないのにか? ははっ、随分悠長な話だなァ」
ヴィダルスの手が、膨らんだ下腹に当てられた瞬間、さあっと血の気が引いた。
「……俺以外の奴のガキを孕みやがって」
「っやめろぉおおお!」
ぐっと手のひらで腹部を圧迫され、俺は悲鳴をあげた。
そこには、来月生まれる予定の我が子がいる。
セネーバとリシス王国を繋ぐ、俺とアストルディアの希望の子が。
腹部を圧迫する手の力はどんどん強くなっているのに、首輪のせいで俺は抵抗一つできない。
死んでしまう。
俺と、アストルディアの子どもが、殺される。
ぶわりと目から、涙がこぼれた。
「……やめろ……やめてくれ……俺の子を、殺さないでくれ」
震えながら泣いて懇願する俺に、ヴィダルスは満足げに目を細めて、圧迫を止めた。
「……無理やり墮ろさせると思ったか? さすがに、しねぇよ。まだ女王陛下からそこまでの許可は得てねぇ。臨月のガキを無理やり墮胎させたら、母体に影響が出るかもしれねぇしなァ。その腹の中のもんを出し次第、お前には俺の子を産んでもらわなきゃなんねぇのによぉ」
「お前の、子?」
「ああ、女王陛下に頼んだんだ。一生忠実な部下でいてやるから、手柄を立て次第【隷属の首輪】の主の立場を譲渡して、お前を俺にくれって。たとえ王配殺しの罪人だとしても、お前みたいに優秀な苗床を活用せずに処刑すんのはもったいねぇだろう? 俺とお前は運命レベルで魔力相性が良いんだから、よけいになァ。女王陛下は、お前を奴隷身分から解放しないという条件で、了承してくれたぜ」
どんどん勝手に原作に近づいていく現実に、目の前が真っ白になった。
俺は何らかの形でアストルディアとの間に生まれた子どもを失って、原作のようにヴィダルスの奴隷として新しい子を生まされることになるのか。
そして故郷を滅ぼされたことを知った俺は闇魔法に飲まれて狂い……やがて、アストルディアを殺したいくらい憎むようになる。
この状況で、原作のようにアストルディアと戦場で剣をかわして片腕を失うことになるとは思えないが、あくまでそれは原作エドワードが語った過去でしかない。
狂ってしまった俺が、アストルディアを憎む大義名分としての過去を捏造し、それが事実だと信じきってしまったのだとしても、十分話は原作に繋がるのだ。
はっきりと否定できなかったのは、鮮明に思い出した前世の記憶のせい。
出版社でアルバイトをしてた俺は、ライトノベルの賞の下読みをしたこともあり、当時流行してた「悪役(令嬢)転生」小説も山程読まされた。
その中には主人公が世界の強制力に踊らされるものも含まれていて、原作の直前まで仲が良かった相手が、原作パートに入った途端に精神を乗っ取られたように人が変わってしまう展開のものもいくつかあった。
前世妹が書いた話では、俺とアストルディアは元親友ながら戦場で対峙し、互いに憎み合うことになる。その影響が既にアストルディアに現れはじめているのなら、冤罪をきっかけに、彼が俺を憎んだとしても不思議はなかった。
アストルディアと、話したい。
俺がニルカグルを殺してないことを説明して、彼が俺を誤解してないことを確かめたい。
そしてアストルディアもまた、ニルカグルを殺してないことを確認して、二人で真犯人を突き止め、冤罪をはらさなければ。
思わず祈るように、指輪がはめられてる手を、口元で握り締める。
その瞬間、ヴィダルスの眼差しが怜悧に光った。
「……まあ、お前がそう思いたいのなら、そう思えばいいが。少なくとも、アストルディアはお前を見捨てたぜ。お前が捕縛されるのと同時に、女王陛下はアストルディアにも兵を差し向けたが、アストルディアがいたはずの場所はもぬけの殻だったらしい。アストルディアと、その腹心数名の行方を、女王は今、血眼になって探している。もしあいつがお前を誤解してないっつーなら、何でさっさと助けに来ないんだと思う?」
「……それは、きっと機会を伺ってるだけで」
「機会を伺ってる間に、番と子供が殺されたり犯されたりするかもしれないのにか? ははっ、随分悠長な話だなァ」
ヴィダルスの手が、膨らんだ下腹に当てられた瞬間、さあっと血の気が引いた。
「……俺以外の奴のガキを孕みやがって」
「っやめろぉおおお!」
ぐっと手のひらで腹部を圧迫され、俺は悲鳴をあげた。
そこには、来月生まれる予定の我が子がいる。
セネーバとリシス王国を繋ぐ、俺とアストルディアの希望の子が。
腹部を圧迫する手の力はどんどん強くなっているのに、首輪のせいで俺は抵抗一つできない。
死んでしまう。
俺と、アストルディアの子どもが、殺される。
ぶわりと目から、涙がこぼれた。
「……やめろ……やめてくれ……俺の子を、殺さないでくれ」
震えながら泣いて懇願する俺に、ヴィダルスは満足げに目を細めて、圧迫を止めた。
「……無理やり墮ろさせると思ったか? さすがに、しねぇよ。まだ女王陛下からそこまでの許可は得てねぇ。臨月のガキを無理やり墮胎させたら、母体に影響が出るかもしれねぇしなァ。その腹の中のもんを出し次第、お前には俺の子を産んでもらわなきゃなんねぇのによぉ」
「お前の、子?」
「ああ、女王陛下に頼んだんだ。一生忠実な部下でいてやるから、手柄を立て次第【隷属の首輪】の主の立場を譲渡して、お前を俺にくれって。たとえ王配殺しの罪人だとしても、お前みたいに優秀な苗床を活用せずに処刑すんのはもったいねぇだろう? 俺とお前は運命レベルで魔力相性が良いんだから、よけいになァ。女王陛下は、お前を奴隷身分から解放しないという条件で、了承してくれたぜ」
どんどん勝手に原作に近づいていく現実に、目の前が真っ白になった。
俺は何らかの形でアストルディアとの間に生まれた子どもを失って、原作のようにヴィダルスの奴隷として新しい子を生まされることになるのか。
そして故郷を滅ぼされたことを知った俺は闇魔法に飲まれて狂い……やがて、アストルディアを殺したいくらい憎むようになる。
この状況で、原作のようにアストルディアと戦場で剣をかわして片腕を失うことになるとは思えないが、あくまでそれは原作エドワードが語った過去でしかない。
狂ってしまった俺が、アストルディアを憎む大義名分としての過去を捏造し、それが事実だと信じきってしまったのだとしても、十分話は原作に繋がるのだ。
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