上 下
227 / 311

運命の分岐①

しおりを挟む
 ……とうとう、この時が来てしまった。
 とうとう、運命の指針が決まってしまう。

      の、目を盗んで。
      から、許された範囲で力を行使して。
        が、当初想定していた過程は、大幅に修正することができた。
 でも、世界創造に使われた物語そのものは、今もまだ            
      の中。

 どうかどうか、運命を変えてください。貴方達自身の、幸福の為にも。
        に、【始まりのピース】に辿り着くのは不可能だと、ピースそのものを破棄させるくらいに。
 過去である今を捻じ曲げて、既に完成している未来そのものを消滅させて。
 貴方達は、定められた生に従って動かされる、物語の登場人物なんかじゃない。きっときっと自分の意思を持って、運命を切り拓くことができるはず。

 面白がって私の行動を黙認していた      は、私がこれ以上世界に介入することを禁じました。
 私はもう、何もできない。ただただ見守ることしかできないんです。

 どうかどうか……私の代わりに、お兄ちゃんを助けて。不幸にしないで。

 私は今世こそ、お兄ちゃんには幸せになって欲しいんです。
 その為だけに私は、何千年もこの世界を見守ってきたのだから。



 夢の中で訴えかける女の声を、嘲笑う。

「ーー誰が運命を変えさせるものか」

 変えるべき不幸な未来として見せられた光景は、俺にとっては泣きたいくらい欲しているもので。
 未来を修正しようと余計なことをした、声の主を心底恨んだ。
 ならばせめて別の幸福な未来をと、思いつく限りの方法で足掻いたが、生まれて初めて心の底から欲したものはあっさり指の間をすり抜けて、大嫌いな男の腕の中に捕らわれた。この状況を不幸でないと言うなら、一体何が不幸だと言うのだろう。
 声の主が、これ以上介入できないと言う話は、朗報だった。もし、同じ声をあの男も聞いているのなら、あいつは全力で運命に抗おうとするだろう。
 ならば俺は全力で、運命を本来の形に戻そうとする強制力の後押しするだけだ。
 揃いにしたくて、右手の薬指につけた噛み跡に歯を立て、血が滲むまで噛み締める。次に噛むのは、愛しくて憎らしい、俺の運命のうなじ。間違いでつけられた噛み跡を上書きして、誰が本当の番なのか教え込んでやらなければ。

「ーーお前は、俺のもんだ。エドワード」

 夢から覚めた黒狼は、狂気に侵された目を細めて、一人嗤った。



「エドワード様。女王陛下から、書簡が届いてます」

 セネーバで正式にアストルディアと結婚してから、一月。俺は穏やかな毎日を送っていた。
 結局アストルディアと話し合った末に、国民の支持の方が大事だとエレナ姫が結婚した時のドレスを身に着けて結婚式に挑んだわけだけど。カーディンクルはよく似合うとにこにこ読めない笑みを浮かべているだけだったし、ヴィダルスはすごく憎らしげな表情で俺とアストルディアを見てきただけで、形式的な祝いの言葉だけ述べたらさっさとどっか行ってしまった。大きなトラブルもなく、ちょっと拍子抜けするくらい、平和な式だった。
 エレナ姫の再来として、俺はセネーバ国民に熱狂的に歓迎された。セネーバ国中が俺とアストルディアとの結婚を祝福し、特に王都は活気づいた。
 これに乗じて、俺は今まで以上にリシス王国との交易量を増やせるように、あちこちに根回しをはじめた。やはり、一人でもセネーバに人間が嫁いでいると、抵抗感が薄れるのか、リシス王国の辺境伯領以外の所の反応が明らかに以前より良くなっている。次のセネーバの建国祭には、他領の人間も招待できるかもしれない。
 結婚前に取り決めた通り、俺は毎日辺境伯領に転移して今まで通り働いているので、二国間の窓口として今の所大きな支障は出ていない。子どもが生まれたらそうもいかないかもしれないから、少しずつシステムを変えていかなければとは思っているが。
 腹の子は、後一月もすれば生まれるので、さすがにわかるくらいには下腹が膨らんできた。時々動いているのが伝わってきて、何だかとてもくすぐったいような温かい気分になる。
 忙しいだろうに、アストルディアは必ず夜には屋敷に帰ってきて、毎晩腹の子の成長を確かめるように俺の下腹に顔を埋めている。父の表情をするようになった、アストルディアがますます愛おしい。
 
 何もかもがうまくいっていて、幸せだった。
 うっかり原作の運命を忘れて、このままアストルディアと子どもと幸せな家庭を築けるのではと勘違いしてしまうくらいに、毎日がただ幸せだった。

「至急の呼び出しのようですね。今からすぐ、王城に向かいます」

 ーー幸せはいつだって、唐突に壊れてしまうものだと、知っていたはずなのに。
 

 
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます

はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

処理中です...