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運命の分岐①
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……とうとう、この時が来てしまった。
とうとう、運命の指針が決まってしまう。
の、目を盗んで。
から、許された範囲で力を行使して。
が、当初想定していた過程は、大幅に修正することができた。
でも、世界創造に使われた物語そのものは、今もまだ
の中。
どうかどうか、運命を変えてください。貴方達自身の、幸福の為にも。
に、【始まりのピース】に辿り着くのは不可能だと、ピースそのものを破棄させるくらいに。
過去である今を捻じ曲げて、既に完成している未来そのものを消滅させて。
貴方達は、定められた生に従って動かされる、物語の登場人物なんかじゃない。きっときっと自分の意思を持って、運命を切り拓くことができるはず。
面白がって私の行動を黙認していた は、私がこれ以上世界に介入することを禁じました。
私はもう、何もできない。ただただ見守ることしかできないんです。
どうかどうか……私の代わりに、お兄ちゃんを助けて。不幸にしないで。
私は今世こそ、お兄ちゃんには幸せになって欲しいんです。
その為だけに私は、何千年もこの世界を見守ってきたのだから。
夢の中で訴えかける女の声を、嘲笑う。
「ーー誰が運命を変えさせるものか」
変えるべき不幸な未来として見せられた光景は、俺にとっては泣きたいくらい欲しているもので。
未来を修正しようと余計なことをした、声の主を心底恨んだ。
ならばせめて別の幸福な未来をと、思いつく限りの方法で足掻いたが、生まれて初めて心の底から欲したものはあっさり指の間をすり抜けて、大嫌いな男の腕の中に捕らわれた。この状況を不幸でないと言うなら、一体何が不幸だと言うのだろう。
声の主が、これ以上介入できないと言う話は、朗報だった。もし、同じ声をあの男も聞いているのなら、あいつは全力で運命に抗おうとするだろう。
ならば俺は全力で、運命を本来の形に戻そうとする強制力の後押しするだけだ。
揃いにしたくて、右手の薬指につけた噛み跡に歯を立て、血が滲むまで噛み締める。次に噛むのは、愛しくて憎らしい、俺の運命のうなじ。間違いでつけられた噛み跡を上書きして、誰が本当の番なのか教え込んでやらなければ。
「ーーお前は、俺のもんだ。エドワード」
夢から覚めた黒狼は、狂気に侵された目を細めて、一人嗤った。
「エドワード様。女王陛下から、書簡が届いてます」
セネーバで正式にアストルディアと結婚してから、一月。俺は穏やかな毎日を送っていた。
結局アストルディアと話し合った末に、国民の支持の方が大事だとエレナ姫が結婚した時のドレスを身に着けて結婚式に挑んだわけだけど。カーディンクルはよく似合うとにこにこ読めない笑みを浮かべているだけだったし、ヴィダルスはすごく憎らしげな表情で俺とアストルディアを見てきただけで、形式的な祝いの言葉だけ述べたらさっさとどっか行ってしまった。大きなトラブルもなく、ちょっと拍子抜けするくらい、平和な式だった。
エレナ姫の再来として、俺はセネーバ国民に熱狂的に歓迎された。セネーバ国中が俺とアストルディアとの結婚を祝福し、特に王都は活気づいた。
これに乗じて、俺は今まで以上にリシス王国との交易量を増やせるように、あちこちに根回しをはじめた。やはり、一人でもセネーバに人間が嫁いでいると、抵抗感が薄れるのか、リシス王国の辺境伯領以外の所の反応が明らかに以前より良くなっている。次のセネーバの建国祭には、他領の人間も招待できるかもしれない。
結婚前に取り決めた通り、俺は毎日辺境伯領に転移して今まで通り働いているので、二国間の窓口として今の所大きな支障は出ていない。子どもが生まれたらそうもいかないかもしれないから、少しずつシステムを変えていかなければとは思っているが。
腹の子は、後一月もすれば生まれるので、さすがにわかるくらいには下腹が膨らんできた。時々動いているのが伝わってきて、何だかとてもくすぐったいような温かい気分になる。
忙しいだろうに、アストルディアは必ず夜には屋敷に帰ってきて、毎晩腹の子の成長を確かめるように俺の下腹に顔を埋めている。父の表情をするようになった、アストルディアがますます愛おしい。
何もかもがうまくいっていて、幸せだった。
うっかり原作の運命を忘れて、このままアストルディアと子どもと幸せな家庭を築けるのではと勘違いしてしまうくらいに、毎日がただ幸せだった。
「至急の呼び出しのようですね。今からすぐ、王城に向かいます」
ーー幸せはいつだって、唐突に壊れてしまうものだと、知っていたはずなのに。
とうとう、運命の指針が決まってしまう。
の、目を盗んで。
から、許された範囲で力を行使して。
が、当初想定していた過程は、大幅に修正することができた。
でも、世界創造に使われた物語そのものは、今もまだ
の中。
どうかどうか、運命を変えてください。貴方達自身の、幸福の為にも。
に、【始まりのピース】に辿り着くのは不可能だと、ピースそのものを破棄させるくらいに。
過去である今を捻じ曲げて、既に完成している未来そのものを消滅させて。
貴方達は、定められた生に従って動かされる、物語の登場人物なんかじゃない。きっときっと自分の意思を持って、運命を切り拓くことができるはず。
面白がって私の行動を黙認していた は、私がこれ以上世界に介入することを禁じました。
私はもう、何もできない。ただただ見守ることしかできないんです。
どうかどうか……私の代わりに、お兄ちゃんを助けて。不幸にしないで。
私は今世こそ、お兄ちゃんには幸せになって欲しいんです。
その為だけに私は、何千年もこの世界を見守ってきたのだから。
夢の中で訴えかける女の声を、嘲笑う。
「ーー誰が運命を変えさせるものか」
変えるべき不幸な未来として見せられた光景は、俺にとっては泣きたいくらい欲しているもので。
未来を修正しようと余計なことをした、声の主を心底恨んだ。
ならばせめて別の幸福な未来をと、思いつく限りの方法で足掻いたが、生まれて初めて心の底から欲したものはあっさり指の間をすり抜けて、大嫌いな男の腕の中に捕らわれた。この状況を不幸でないと言うなら、一体何が不幸だと言うのだろう。
声の主が、これ以上介入できないと言う話は、朗報だった。もし、同じ声をあの男も聞いているのなら、あいつは全力で運命に抗おうとするだろう。
ならば俺は全力で、運命を本来の形に戻そうとする強制力の後押しするだけだ。
揃いにしたくて、右手の薬指につけた噛み跡に歯を立て、血が滲むまで噛み締める。次に噛むのは、愛しくて憎らしい、俺の運命のうなじ。間違いでつけられた噛み跡を上書きして、誰が本当の番なのか教え込んでやらなければ。
「ーーお前は、俺のもんだ。エドワード」
夢から覚めた黒狼は、狂気に侵された目を細めて、一人嗤った。
「エドワード様。女王陛下から、書簡が届いてます」
セネーバで正式にアストルディアと結婚してから、一月。俺は穏やかな毎日を送っていた。
結局アストルディアと話し合った末に、国民の支持の方が大事だとエレナ姫が結婚した時のドレスを身に着けて結婚式に挑んだわけだけど。カーディンクルはよく似合うとにこにこ読めない笑みを浮かべているだけだったし、ヴィダルスはすごく憎らしげな表情で俺とアストルディアを見てきただけで、形式的な祝いの言葉だけ述べたらさっさとどっか行ってしまった。大きなトラブルもなく、ちょっと拍子抜けするくらい、平和な式だった。
エレナ姫の再来として、俺はセネーバ国民に熱狂的に歓迎された。セネーバ国中が俺とアストルディアとの結婚を祝福し、特に王都は活気づいた。
これに乗じて、俺は今まで以上にリシス王国との交易量を増やせるように、あちこちに根回しをはじめた。やはり、一人でもセネーバに人間が嫁いでいると、抵抗感が薄れるのか、リシス王国の辺境伯領以外の所の反応が明らかに以前より良くなっている。次のセネーバの建国祭には、他領の人間も招待できるかもしれない。
結婚前に取り決めた通り、俺は毎日辺境伯領に転移して今まで通り働いているので、二国間の窓口として今の所大きな支障は出ていない。子どもが生まれたらそうもいかないかもしれないから、少しずつシステムを変えていかなければとは思っているが。
腹の子は、後一月もすれば生まれるので、さすがにわかるくらいには下腹が膨らんできた。時々動いているのが伝わってきて、何だかとてもくすぐったいような温かい気分になる。
忙しいだろうに、アストルディアは必ず夜には屋敷に帰ってきて、毎晩腹の子の成長を確かめるように俺の下腹に顔を埋めている。父の表情をするようになった、アストルディアがますます愛おしい。
何もかもがうまくいっていて、幸せだった。
うっかり原作の運命を忘れて、このままアストルディアと子どもと幸せな家庭を築けるのではと勘違いしてしまうくらいに、毎日がただ幸せだった。
「至急の呼び出しのようですね。今からすぐ、王城に向かいます」
ーー幸せはいつだって、唐突に壊れてしまうものだと、知っていたはずなのに。
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