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アストルディアの決意

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「俺の心臓の位置はもっと上だけど?」

「獣人は、耳が良いからな」

 聴診器を使わなくても、俺本人が宿っている実感もない胎児の心音聞こえるんだもんなー。そりゃあ、俺の心臓の音くらい多少離れてても聞こえるか。

「今まで聞いたどんな音よりも、美しい音だ……エディはいつだって、俺が知らないことや、気づかないでいたことを教えてくれる」

 そう言ってアストルディアは、愛おしげに俺の腹を撫でた。

「……エディ。俺はずっと、お前に俺の家族のことを、詳しく知られたくなかった」

「知ってた」

 あからさまに話逸らしてたもんね。当時は少しムカついてたけど、今なら納得できるわ。

「あそこまで複雑な家庭なら、仕方ないって。俺だって同じ状況なら話すのを躊躇っただろうし」 

 そっと白銀の髪を撫でると、アストルディアは顔を歪めて、俺の腰に抱きついた。  

「……違うんだ。エディ」

「え?」

「俺は家庭環境が複雑だから、エディに詳細を知られたくなかったわけじゃないんだ……俺はただ、自分の不甲斐なさをエディに知られたくなかった」

「不甲斐なさ?」

「俺は家族に無関心でいることで、家族と関わることから逃げていたんだ。その癖、両親の命令だけは何も考えることなく従い、逆らおうともしなかった。……エディはずっと、戦っていたのに。父親の理不尽に正面からぶつかって、辺境伯領の為に最善の道を自ら勝ち取ろうとしてきたのに、俺は何もしなかったんだ」

 ……何もしなかった?

 思わず撫でていた手の動きが止まる。

「いやいや、待て待て。そんなことないだろう。お前はリシス王国と交易を再開する為に色々動いてくれたじゃないか。俺やクリスがセネーバに留学できたのも、アスティが尽力してくれたからこそだろ」

「それは一王族として政治的な局面から進言をしただけで、息子として動いたわけじゃない」

「だったら俺だって、辺境伯領嫡男として動いただけだよ。買いかぶり過ぎだって」 

 結果的に家族仲は改善されたけど、それは闇魔法で無理やり親父の闇を吐き出させた結果だし。
 アストルディアっていちいち俺の行動謎に美化して、自分を卑下するとこあるよな。とんでもチートヒーローな癖に。  

「……でも俺が、家族仲を改善する為に何もできなかったことは事実だ。そして、そのツケが今回って来ている」

「いや、アスティの境遇考えたら、それは仕方ないことだって。改善とか、そう言う次元超えてるもん。そんなに何もかも、努力で解決出来るわけじゃないって」

 努力で全てが解決できるなら、そもそも戦争なんか起こらないし。いや、その戦争を阻止する為に必死に頑張ってるんだけどさ。

「俺はアスティの家族のことで、アスティを不甲斐ないとは思わないし。仮にアスティ自身が不甲斐ないと思っていたとしても、過去は変えられないだろ。だったらもう、ある駒でしか勝負するしかないだろ」

 そう言って、再びなでなでを再開する。せっかくだし、三角お耳も撫でちゃおーと。

「寧ろ俺は、そんな環境にも関わらず、捻くれることなくまっすぐ育ったアスティを褒めてやりたいくらいだよ。今まで一人で抱えこんで、辛かったな。……よく、がんばりました」

 叶うことならば、過去に戻って幼いアストルディアを抱きしめて、優しく頭をなでてやりたいくらいだ。……いや、対お犬様なら普通にやってた気がするから、過去のアストルディアは過去の俺に任せて、今の俺は今のアストルディアに集中しよう。
 白銀の髪は絹糸のようにさらさら手触りが良く、なでなでを再開したらへにょっとなってしまった三角お耳も短毛ながらも撫で心地がいい。
 されるがままの状態のアストルディアは、暫く黙って俺の腹部に顔を埋めていた。

「……エディ。俺は、お前と子どもを守る為なら。三人で幸せになる為なら、何でもする……何でもだ」

 ーーたとえそれが、家族の命を奪うことであっても。

 小さく呟かれた言葉を、俺は敢えて聞こえないふりをした。
 俺が二択に迫られた時、アストルディアよりも辺境伯領を選ぶことを決めているように。
 刃を向けて来た、二人の師匠を殺した時のように。
 あくまでそれはどうしようもない状況に陥った時の為の決意表明であって、聡明なアストルディアが先走って取り返しのつかないことをしでかすなんて、あり得ないと思っていたから。

 まさか、この時アストルディアの真意を問わなかったことを、一月後に後悔することになるなんて、思ってもいなかったんだ。


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