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命の音
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「利害関係と言っても……兄上が口にした、『番との平穏な暮らし』というのが、本当の望みかもわからないぞ」
「本当の望みでなくとも、口にした望みを叶えたなら、十分与えたことになるさ。本当にカーディンクルの愛情観が等価交換の上で成り立つものなのだとしたら、それだでも十分意味はある。……まあ、アスティのその確信自体が、俺的にはちょっと怪しいとは思うけど」
「何故?」
「だってお前は、初めて会った時点で、自分から俺に色々与えてくれたじゃないか。何の見返りも求めず魔物から救って、頂上まで案内してくれただろう。欲しい植物のあり方だって、教えてくれたし。それなのに、『与えられなければ、与えられない』とか言うからさ。自分自身にすら、トンチンカンな評価をしてるアスティが、疎遠だったカーディンクルの本音を、正確に把握できてるとも思えねぇんだよなー……」
ガリガリと頭をかきながらため息を吐くと、アストルディアは驚いたように目を丸くした。
「……俺はエディに、自分から与えることができたのか」
「できた、できた。多分俺だけじゃなく、他の獣人達にも知らないうちに色々与えてると思うよ。アスティが無自覚なだけで。じゃなきゃ、いくら有能だからってあんなに部下に慕われるはずないだろう」
チルシアさんのアストルディアへの忠誠とか見ててもさ、能力だけにひれ伏しているように見えんもん。セネーバ国民の、アストルディアへの慕いっぷりも。
きっと「王族に生まれたものの責務だから」とかアストルディアが当たり前だと思ってした行動が、今の人気に繫がってんだと思うんだよね。ただ強さ至上主義ってだけじゃなくて。
「まあ、そんなわけで、俺はアスティのカーディンクルに対する考察自体は全然信用してはいないんだけど。取り敢えずあれこれ可能性を考えてもきりがないから、今後の動向に注意しつつ、カーディンクルが公言している望みを叶える方法に動くしかないかな。アストルディアが王になるって言うのなら。でもそもそも、エルディア女王陛下は、暫く現役のままなんだろう?」
「……狼獣人の特性上、父上が亡くなれば王位を譲る可能性は高いがな」
「でも、番を溺愛してたアルデフィアだって、エレナ姫の死後エルディア女王に王位を譲るまでは働けたわけだし。ただでさえニルカグルと不仲説が流れている女王なら、そう簡単に狂気に陥ったりはしないんじゃないと思うけど。だいたいお前の親父が、そう簡単に死ぬとも思えないし。何せ、俺に飛びかかる元気があるんだから」
前世の一般庶民だって、ベッドで寝たきりになってから何十年生きたりしたわけだし、王配として至れり尽くせりの生活を送っているニルカグルは暗殺でもされない限り、そう簡単にくたばると思えない。
「取り敢えずカーディンクルには出来る限り恩を売るようにしつつ、カーディンクルの行動とニルカグルの健康状態を気にしながら、今以上に国民や貴族の支持を得られるように地盤硬めをしていくしかないな。カーディンクルの真意を探る為にも、取り敢えず今まで通り王位簒奪の意志を全面に出さないようにして。……ああ、でも結婚式では、俺はやっぱり女装した方がいいのかなあ。その方がアルデフィアとエレナ姫の再来観が出て、支持を得られそうだし……でも、もしカーディンクルが王位を狙ってるなら、それはそれで当てつけっぽいしな……ヴィダルスもうるさそうだし」
王位継承のドロドロとは無縁な人生を送って来たが、アストルディアが王になると決めたからには全力でサポートしたい。それがリシス王国や辺境伯領の平和と、アニカ達草食獣人の地位向上に繋がるのなら、尚更だ。
小説原作ではカーディンクルの存在は一切触れられてなかったけど、アストルディアは偉大な獣人王として描かれていたのだから適性は間違いなくあるはず。
腹に宿っているらしい子どもの為にも、来たるべき時に備えて色々作戦を練らねば……と一人ブツブツ考えていると、何故か唇に柔らかい感触がした。
「……何故、今、キスをした」
「俺の未来について真剣に考えているエディを見たら、したくなった」
「久しぶりの同衾に、真面目な話に集中できずムラつく気持ちはわかるけど、ヤらんぞ。腹の子に障る」
「わかってる……獣人の子は丈夫だから問題はないとは思うが、万が一があったら悔いても悔いきれないしな」
そう言ってアストルディアは、俺の腹に顔を埋めるようにして、抱きついてきた。……ちょっと。うっかり勃ちそうだから、やめない。
「……アスティ。その体勢は」
「ーー命の、音がする」
「え?」
「エディと、俺達の子ども、二人分の音だ」
「本当の望みでなくとも、口にした望みを叶えたなら、十分与えたことになるさ。本当にカーディンクルの愛情観が等価交換の上で成り立つものなのだとしたら、それだでも十分意味はある。……まあ、アスティのその確信自体が、俺的にはちょっと怪しいとは思うけど」
「何故?」
「だってお前は、初めて会った時点で、自分から俺に色々与えてくれたじゃないか。何の見返りも求めず魔物から救って、頂上まで案内してくれただろう。欲しい植物のあり方だって、教えてくれたし。それなのに、『与えられなければ、与えられない』とか言うからさ。自分自身にすら、トンチンカンな評価をしてるアスティが、疎遠だったカーディンクルの本音を、正確に把握できてるとも思えねぇんだよなー……」
ガリガリと頭をかきながらため息を吐くと、アストルディアは驚いたように目を丸くした。
「……俺はエディに、自分から与えることができたのか」
「できた、できた。多分俺だけじゃなく、他の獣人達にも知らないうちに色々与えてると思うよ。アスティが無自覚なだけで。じゃなきゃ、いくら有能だからってあんなに部下に慕われるはずないだろう」
チルシアさんのアストルディアへの忠誠とか見ててもさ、能力だけにひれ伏しているように見えんもん。セネーバ国民の、アストルディアへの慕いっぷりも。
きっと「王族に生まれたものの責務だから」とかアストルディアが当たり前だと思ってした行動が、今の人気に繫がってんだと思うんだよね。ただ強さ至上主義ってだけじゃなくて。
「まあ、そんなわけで、俺はアスティのカーディンクルに対する考察自体は全然信用してはいないんだけど。取り敢えずあれこれ可能性を考えてもきりがないから、今後の動向に注意しつつ、カーディンクルが公言している望みを叶える方法に動くしかないかな。アストルディアが王になるって言うのなら。でもそもそも、エルディア女王陛下は、暫く現役のままなんだろう?」
「……狼獣人の特性上、父上が亡くなれば王位を譲る可能性は高いがな」
「でも、番を溺愛してたアルデフィアだって、エレナ姫の死後エルディア女王に王位を譲るまでは働けたわけだし。ただでさえニルカグルと不仲説が流れている女王なら、そう簡単に狂気に陥ったりはしないんじゃないと思うけど。だいたいお前の親父が、そう簡単に死ぬとも思えないし。何せ、俺に飛びかかる元気があるんだから」
前世の一般庶民だって、ベッドで寝たきりになってから何十年生きたりしたわけだし、王配として至れり尽くせりの生活を送っているニルカグルは暗殺でもされない限り、そう簡単にくたばると思えない。
「取り敢えずカーディンクルには出来る限り恩を売るようにしつつ、カーディンクルの行動とニルカグルの健康状態を気にしながら、今以上に国民や貴族の支持を得られるように地盤硬めをしていくしかないな。カーディンクルの真意を探る為にも、取り敢えず今まで通り王位簒奪の意志を全面に出さないようにして。……ああ、でも結婚式では、俺はやっぱり女装した方がいいのかなあ。その方がアルデフィアとエレナ姫の再来観が出て、支持を得られそうだし……でも、もしカーディンクルが王位を狙ってるなら、それはそれで当てつけっぽいしな……ヴィダルスもうるさそうだし」
王位継承のドロドロとは無縁な人生を送って来たが、アストルディアが王になると決めたからには全力でサポートしたい。それがリシス王国や辺境伯領の平和と、アニカ達草食獣人の地位向上に繋がるのなら、尚更だ。
小説原作ではカーディンクルの存在は一切触れられてなかったけど、アストルディアは偉大な獣人王として描かれていたのだから適性は間違いなくあるはず。
腹に宿っているらしい子どもの為にも、来たるべき時に備えて色々作戦を練らねば……と一人ブツブツ考えていると、何故か唇に柔らかい感触がした。
「……何故、今、キスをした」
「俺の未来について真剣に考えているエディを見たら、したくなった」
「久しぶりの同衾に、真面目な話に集中できずムラつく気持ちはわかるけど、ヤらんぞ。腹の子に障る」
「わかってる……獣人の子は丈夫だから問題はないとは思うが、万が一があったら悔いても悔いきれないしな」
そう言ってアストルディアは、俺の腹に顔を埋めるようにして、抱きついてきた。……ちょっと。うっかり勃ちそうだから、やめない。
「……アスティ。その体勢は」
「ーー命の、音がする」
「え?」
「エディと、俺達の子ども、二人分の音だ」
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