224 / 311
無能な白獅子③
しおりを挟む
カーディンクルの言葉に、両脇の二人だけではなく、宴に参加した番全員がうっとりと陶酔したような表情を浮かべた。
中にはかなり屈強なアストルディア並の体格の男の獣人も何人かいて、否が応でもカーディンクルのたらしっぷりを見せつけられた。
「ほらほら、そんな固い表情をするな。二人とも。今は難しいことを考えず、この一時をただ楽しむがいい」
うーん……これが、アストルディアのお兄さんかあ。
「……ぶっちゃけ、王としての適性はめちゃくちゃあるよな。あの人」
王城外にあるアストルディアの屋敷で、うつ伏せにベッドに飛び込みながら、カーディンクルについて切り出す。
……つかれた……何ならエルディア女王やニルカグルと対面した時よりも精神力削られた……。
「そうだな。もし生まれたのが戦闘能力を重視するセネーバではなく、リシス王国のように統治能力を第一に考える国であったら、兄上は何も問題なく王になっていただろう」
ベッドの傍らに腰をかけたアストルディアが、ため息を吐く。
頭の回転の早さと言い、有能な番全員を誑し込むカリスマ性といい、間違いなくあれは王の器だ。「無能」と侮れる状況すら計算に入れて、あくまで自然に自分の都合良いよう周囲を誘導する手腕は、クリスにも劣らない気がする。
「正直俺は、兄上こそ俺が理想とする王に相応しいのではないかと思ったこともあった。強さ至上の我が国の価値観を壊すには、俺のように誰もが納得する強さを持つものが王になるよりも、兄上のように無能と蔑まれた存在が知力を生かして君臨する方が都合が良い。俺は王弟として、裏側から王となった兄上を支えるべきではと悩んだりもしたのだが……」
「したのだが?」
「残念ながら、その為に必要な信頼関係が決定的に欠如していることに気づいた。兄はきっと俺がどんな態度を取ろうが、俺を信用しないし、俺もまた兄を心から信じることはできないだろう。強さを至上とする価値観を壊し、草食獣人に対する差別をなくしたいのも本音ではあるが、俺が一番優先したいのはリシス王国とセネーバが友好関係を築くことだ。その為にはやはり、俺自身が王になる必要があると、今は思っている」
まあ、今までずっと没交渉なうえに、昔からずっと両親に差をつけられて育ったのなら、そりゃそうなるよね。
アストルディア側から、今さら仲良くしようとしても、長い時間かけて築かれてしまった関係性はそうそう改善できないしな。
カーディンクルがリシス王国について本音ではどう思ってるかも、さっぱり読めないし。
「兄上の言葉はどこまで本音で、どこまでが嘘なのかはわからないが、ただ一つ『与えられなければ、与えようとは思えない』と言うあの言葉だけは、本音だろうと確信している」
「……そう言えば、そんなことも言ってたね」
「結局俺達は、似たもの兄弟なんだ。先に与えられなければ、誰かを愛することもできない。兄上は兄弟としての情を俺に与えなかったし、俺もまた俺に無関心な兄上を愛そうだなんて思えなかった。俺達兄弟は、与えてくれた相手だけに依存し、与えてくれてくれなかった相手には関心そのものをなくす。そのツケが、今回ってきたな」
「……別に今さら互いに愛情を抱けなかったとしても、利害関係から協力できればいいんじゃないかな。兄弟だからって、絶対仲が良くなければならないわけでもないし」
兄弟は仲良くすべきだ! とか、何とかして俺が仲を取り持たねば! と思うだけなら簡単だけど、考えるまでもなく無理なものは無理である。
ワンチャンアストルディアが「お兄ちゃん、大好き!」と心から思えるようになれば、等価交換系の愛情観を持ってそうなカーディンクルを落とせる可能性もありそうだとは思うが、恐らくこれはアストルディアの方が無理。「心の底では兄を慕ってたから、今さらながら仲直りしたい」ではなく、「兄と良好な関係を築いていれば、都合が良かったのに」と思ってる時点で、無理。
下手な演技で騙されるような、チョロい人でもなさそうだしな。
なら、やっぱりここは利害関係だけを前面に出して、協力関係を結ぶ方が得策だろう。
中にはかなり屈強なアストルディア並の体格の男の獣人も何人かいて、否が応でもカーディンクルのたらしっぷりを見せつけられた。
「ほらほら、そんな固い表情をするな。二人とも。今は難しいことを考えず、この一時をただ楽しむがいい」
うーん……これが、アストルディアのお兄さんかあ。
「……ぶっちゃけ、王としての適性はめちゃくちゃあるよな。あの人」
王城外にあるアストルディアの屋敷で、うつ伏せにベッドに飛び込みながら、カーディンクルについて切り出す。
……つかれた……何ならエルディア女王やニルカグルと対面した時よりも精神力削られた……。
「そうだな。もし生まれたのが戦闘能力を重視するセネーバではなく、リシス王国のように統治能力を第一に考える国であったら、兄上は何も問題なく王になっていただろう」
ベッドの傍らに腰をかけたアストルディアが、ため息を吐く。
頭の回転の早さと言い、有能な番全員を誑し込むカリスマ性といい、間違いなくあれは王の器だ。「無能」と侮れる状況すら計算に入れて、あくまで自然に自分の都合良いよう周囲を誘導する手腕は、クリスにも劣らない気がする。
「正直俺は、兄上こそ俺が理想とする王に相応しいのではないかと思ったこともあった。強さ至上の我が国の価値観を壊すには、俺のように誰もが納得する強さを持つものが王になるよりも、兄上のように無能と蔑まれた存在が知力を生かして君臨する方が都合が良い。俺は王弟として、裏側から王となった兄上を支えるべきではと悩んだりもしたのだが……」
「したのだが?」
「残念ながら、その為に必要な信頼関係が決定的に欠如していることに気づいた。兄はきっと俺がどんな態度を取ろうが、俺を信用しないし、俺もまた兄を心から信じることはできないだろう。強さを至上とする価値観を壊し、草食獣人に対する差別をなくしたいのも本音ではあるが、俺が一番優先したいのはリシス王国とセネーバが友好関係を築くことだ。その為にはやはり、俺自身が王になる必要があると、今は思っている」
まあ、今までずっと没交渉なうえに、昔からずっと両親に差をつけられて育ったのなら、そりゃそうなるよね。
アストルディア側から、今さら仲良くしようとしても、長い時間かけて築かれてしまった関係性はそうそう改善できないしな。
カーディンクルがリシス王国について本音ではどう思ってるかも、さっぱり読めないし。
「兄上の言葉はどこまで本音で、どこまでが嘘なのかはわからないが、ただ一つ『与えられなければ、与えようとは思えない』と言うあの言葉だけは、本音だろうと確信している」
「……そう言えば、そんなことも言ってたね」
「結局俺達は、似たもの兄弟なんだ。先に与えられなければ、誰かを愛することもできない。兄上は兄弟としての情を俺に与えなかったし、俺もまた俺に無関心な兄上を愛そうだなんて思えなかった。俺達兄弟は、与えてくれた相手だけに依存し、与えてくれてくれなかった相手には関心そのものをなくす。そのツケが、今回ってきたな」
「……別に今さら互いに愛情を抱けなかったとしても、利害関係から協力できればいいんじゃないかな。兄弟だからって、絶対仲が良くなければならないわけでもないし」
兄弟は仲良くすべきだ! とか、何とかして俺が仲を取り持たねば! と思うだけなら簡単だけど、考えるまでもなく無理なものは無理である。
ワンチャンアストルディアが「お兄ちゃん、大好き!」と心から思えるようになれば、等価交換系の愛情観を持ってそうなカーディンクルを落とせる可能性もありそうだとは思うが、恐らくこれはアストルディアの方が無理。「心の底では兄を慕ってたから、今さらながら仲直りしたい」ではなく、「兄と良好な関係を築いていれば、都合が良かったのに」と思ってる時点で、無理。
下手な演技で騙されるような、チョロい人でもなさそうだしな。
なら、やっぱりここは利害関係だけを前面に出して、協力関係を結ぶ方が得策だろう。
472
お気に入りに追加
2,172
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる