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無能な白獅子③

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 カーディンクルの言葉に、両脇の二人だけではなく、宴に参加した番全員がうっとりと陶酔したような表情を浮かべた。
 中にはかなり屈強なアストルディア並の体格の男の獣人も何人かいて、否が応でもカーディンクルのたらしっぷりを見せつけられた。

「ほらほら、そんな固い表情をするな。二人とも。今は難しいことを考えず、この一時をただ楽しむがいい」

 うーん……これが、アストルディアのお兄さんかあ。



「……ぶっちゃけ、王としての適性はめちゃくちゃあるよな。あの人」

 王城外にあるアストルディアの屋敷で、うつ伏せにベッドに飛び込みながら、カーディンクルについて切り出す。
 ……つかれた……何ならエルディア女王やニルカグルと対面した時よりも精神力削られた……。

「そうだな。もし生まれたのが戦闘能力を重視するセネーバではなく、リシス王国のように統治能力を第一に考える国であったら、兄上は何も問題なく王になっていただろう」

 ベッドの傍らに腰をかけたアストルディアが、ため息を吐く。
 頭の回転の早さと言い、有能な番全員を誑し込むカリスマ性といい、間違いなくあれは王の器だ。「無能」と侮れる状況すら計算に入れて、あくまで自然に自分の都合良いよう周囲を誘導する手腕は、クリスにも劣らない気がする。

「正直俺は、兄上こそ俺が理想とする王に相応しいのではないかと思ったこともあった。強さ至上の我が国の価値観を壊すには、俺のように誰もが納得する強さを持つものが王になるよりも、兄上のように無能と蔑まれた存在が知力を生かして君臨する方が都合が良い。俺は王弟として、裏側から王となった兄上を支えるべきではと悩んだりもしたのだが……」

「したのだが?」

「残念ながら、その為に必要な信頼関係が決定的に欠如していることに気づいた。兄はきっと俺がどんな態度を取ろうが、俺を信用しないし、俺もまた兄を心から信じることはできないだろう。強さを至上とする価値観を壊し、草食獣人に対する差別をなくしたいのも本音ではあるが、俺が一番優先したいのはリシス王国とセネーバが友好関係を築くことだ。その為にはやはり、俺自身が王になる必要があると、今は思っている」
 
 まあ、今までずっと没交渉なうえに、昔からずっと両親に差をつけられて育ったのなら、そりゃそうなるよね。
 アストルディア側から、今さら仲良くしようとしても、長い時間かけて築かれてしまった関係性はそうそう改善できないしな。
 カーディンクルがリシス王国について本音ではどう思ってるかも、さっぱり読めないし。
 
「兄上の言葉はどこまで本音で、どこまでが嘘なのかはわからないが、ただ一つ『与えられなければ、与えようとは思えない』と言うあの言葉だけは、本音だろうと確信している」

「……そう言えば、そんなことも言ってたね」

「結局俺達は、似たもの兄弟なんだ。先に与えられなければ、誰かを愛することもできない。兄上は兄弟としての情を俺に与えなかったし、俺もまた俺に無関心な兄上を愛そうだなんて思えなかった。俺達兄弟は、与えてくれた相手だけに依存し、与えてくれてくれなかった相手には関心そのものをなくす。そのツケが、今回ってきたな」

「……別に今さら互いに愛情を抱けなかったとしても、利害関係から協力できればいいんじゃないかな。兄弟だからって、絶対仲が良くなければならないわけでもないし」

 兄弟は仲良くすべきだ! とか、何とかして俺が仲を取り持たねば! と思うだけなら簡単だけど、考えるまでもなく無理なものは無理である。
 ワンチャンアストルディアが「お兄ちゃん、大好き!」と心から思えるようになれば、等価交換系の愛情観を持ってそうなカーディンクルを落とせる可能性もありそうだとは思うが、恐らくこれはアストルディアの方が無理。「心の底では兄を慕ってたから、今さらながら仲直りしたい」ではなく、「兄と良好な関係を築いていれば、都合が良かったのに」と思ってる時点で、無理。
 下手な演技で騙されるような、チョロい人でもなさそうだしな。
 なら、やっぱりここは利害関係だけを前面に出して、協力関係を結ぶ方が得策だろう。
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