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無能な白獅子①
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「そ、それじゃあ、王太子はアスティのこと……」
「物心ついた時には既に必要最小限の関わりしかなかったから、兄が俺をどう思っているかはわからない。無関心と言うのが一番しっくり来るが、俺は兄の本心ばかりは読めん。あの人は特殊な香料を愛用していて、常に感情の臭いが封じられてるからな」
「女王のネックレスみたいなものか……あれ? でも今回はつけてなかったよな」
建国祭の時に、煙草の臭いを誤魔化す為につけた、キヒダの木のネックレス。魔力や感情の変化を臭いで悟られないよう、女王も同じネックレスを使っていると聞いていたが、今回会った女王からはあの檜みたいな特有の臭いがしなかった。
「恐らくわざと外していたのだろう。母上は時おり敢えてネックレスを外すことで、自分の感情の変化を俺に伝えようとしてくる。今回はそうやって、俺の婚姻を本心から祝福することを伝えようとしたのだろう」
「……本心から祝福していたの、あれ」
「俺の嗅覚で解る範囲ではな。さすがに深層心理までは、俺もわからん」
アストルディアがそう言うなら、取り敢えずエルディア女王は今のとこ味方よりと考えて良さそうだな。
で、深層心理を探るまでもなく、ニルカグルは(恐らく私怨7割で)俺達の敵、と。
……で、これから会うガーディンクルは限りなく、敵の可能性が高いわけか。
「アスティ自身は、王太子のことをどう思っているんだ?」
「嫌うほど、俺は兄のことは知らないからな。ただ、巷で言われるほど、兄が愚鈍ではないことだけは確信している。兄は常に香料で自身の感情をわからなくしたうえで、周囲を優秀な番で囲っている。民に見せる顔と、俺や周囲に見せる顔も全く違う。そう言う意味では、少しエディと似てるかもな」
建国祭の時に見たカーディングルは、ポンダーに近い適当かつ緩い雰囲気だった。あれも全て演技だったというなら、正直俺もカーディンクルの真意を見抜ける自信がない。……これは、もしかしたらクリス以上に厄介な相手かもしれん。
「やあやあやあ! よく来たな。親愛なる我が弟と、その番よ。私は君達を、心から歓迎しよう!」
夕刻。約束の時間に王太子の離宮を訪れた俺達に待ち受けていたのは、「これぞ王族!」とばかりの華やかな宴だった。
獣面姿でも美しいことがわかる美姫達が舞い踊り、食卓には俺達だけじゃ食べきれないような山海の珍味や、美酒が並べられる。次々に酌に訪れる、一際豪奢な衣装を纏った獣人達は、恐らく王太子カーディンクルの番か。
茶一つまともに供されなかったエルディア女王やニルカグルとの対面とのあまり差に唖然としてると、白い鬣を三つ編みにした優美な獅子は含み笑いを浮かべた。
「初めまして。我が弟の番のエドワード殿! 噂にはかねがね聞いてはいたが、想像以上にエレナ妃に似ているな! しかし、そのような可憐な姿でも、本来貴方は雄側なのだとも聞いている。もし気に入った雌がいたなら、良かったら好きに持ち帰るといい。私の番が希望だとしても、一晩だけなら貸してもいいぞ。何なら全員人化させようか? その方が好みだろう」
「え」
まともに自己紹介を始める前に、突然降って湧いた童貞喪失チャンスに、思わずソワリとしてしまう。
……いや、腹に子どもいるし、今さらアストルディアと別れる気はないけど。完全割り切った上で、一度くらいなら、さあ。やっぱり一生童貞ってのは、ちょっとだけ切ないものがあるわけで。
「……俺の番に、余計なことを言わないでください。兄上」
「あははは、アストルディア。お前は相変わらず固いなぁ。番の一時の遊びを許すのも、雄の器量だぞ。ただでさえ、獣人は子どもを宿し難いことを思えば、他の種や腹であっても愛する番に子ができるのは僥倖だろう? もちろん、アストルディア。お前も好きな雌に種付けして、構わないぞ。お前の種からできた子なら、無能な俺の種を受け継ぐよりも優秀な子ができそうだしな」
「物心ついた時には既に必要最小限の関わりしかなかったから、兄が俺をどう思っているかはわからない。無関心と言うのが一番しっくり来るが、俺は兄の本心ばかりは読めん。あの人は特殊な香料を愛用していて、常に感情の臭いが封じられてるからな」
「女王のネックレスみたいなものか……あれ? でも今回はつけてなかったよな」
建国祭の時に、煙草の臭いを誤魔化す為につけた、キヒダの木のネックレス。魔力や感情の変化を臭いで悟られないよう、女王も同じネックレスを使っていると聞いていたが、今回会った女王からはあの檜みたいな特有の臭いがしなかった。
「恐らくわざと外していたのだろう。母上は時おり敢えてネックレスを外すことで、自分の感情の変化を俺に伝えようとしてくる。今回はそうやって、俺の婚姻を本心から祝福することを伝えようとしたのだろう」
「……本心から祝福していたの、あれ」
「俺の嗅覚で解る範囲ではな。さすがに深層心理までは、俺もわからん」
アストルディアがそう言うなら、取り敢えずエルディア女王は今のとこ味方よりと考えて良さそうだな。
で、深層心理を探るまでもなく、ニルカグルは(恐らく私怨7割で)俺達の敵、と。
……で、これから会うガーディンクルは限りなく、敵の可能性が高いわけか。
「アスティ自身は、王太子のことをどう思っているんだ?」
「嫌うほど、俺は兄のことは知らないからな。ただ、巷で言われるほど、兄が愚鈍ではないことだけは確信している。兄は常に香料で自身の感情をわからなくしたうえで、周囲を優秀な番で囲っている。民に見せる顔と、俺や周囲に見せる顔も全く違う。そう言う意味では、少しエディと似てるかもな」
建国祭の時に見たカーディングルは、ポンダーに近い適当かつ緩い雰囲気だった。あれも全て演技だったというなら、正直俺もカーディンクルの真意を見抜ける自信がない。……これは、もしかしたらクリス以上に厄介な相手かもしれん。
「やあやあやあ! よく来たな。親愛なる我が弟と、その番よ。私は君達を、心から歓迎しよう!」
夕刻。約束の時間に王太子の離宮を訪れた俺達に待ち受けていたのは、「これぞ王族!」とばかりの華やかな宴だった。
獣面姿でも美しいことがわかる美姫達が舞い踊り、食卓には俺達だけじゃ食べきれないような山海の珍味や、美酒が並べられる。次々に酌に訪れる、一際豪奢な衣装を纏った獣人達は、恐らく王太子カーディンクルの番か。
茶一つまともに供されなかったエルディア女王やニルカグルとの対面とのあまり差に唖然としてると、白い鬣を三つ編みにした優美な獅子は含み笑いを浮かべた。
「初めまして。我が弟の番のエドワード殿! 噂にはかねがね聞いてはいたが、想像以上にエレナ妃に似ているな! しかし、そのような可憐な姿でも、本来貴方は雄側なのだとも聞いている。もし気に入った雌がいたなら、良かったら好きに持ち帰るといい。私の番が希望だとしても、一晩だけなら貸してもいいぞ。何なら全員人化させようか? その方が好みだろう」
「え」
まともに自己紹介を始める前に、突然降って湧いた童貞喪失チャンスに、思わずソワリとしてしまう。
……いや、腹に子どもいるし、今さらアストルディアと別れる気はないけど。完全割り切った上で、一度くらいなら、さあ。やっぱり一生童貞ってのは、ちょっとだけ切ないものがあるわけで。
「……俺の番に、余計なことを言わないでください。兄上」
「あははは、アストルディア。お前は相変わらず固いなぁ。番の一時の遊びを許すのも、雄の器量だぞ。ただでさえ、獣人は子どもを宿し難いことを思えば、他の種や腹であっても愛する番に子ができるのは僥倖だろう? もちろん、アストルディア。お前も好きな雌に種付けして、構わないぞ。お前の種からできた子なら、無能な俺の種を受け継ぐよりも優秀な子ができそうだしな」
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