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病床の老獅子①

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 ルルーさんがエルディア女王に負の感情を抱いているようにも見えなかったけど、良かれと思ってした行動を否定されて悲しそうだったのも、明らかに女王に対して萎縮していたのも、確かで。
 女王がルルーさんを大切に思っていることは、全然伝わってないように見えた。なんてか、めちゃくちゃ拗らせてる感じ。
 ……もしかして、この拗れた関係を取り持ったら、女王に恩が売れて、アストルディアの番としての足元を固められたりするかな? エルディア女王、ルルーさん関係以外つけ込めそうなとこないし。
 でも、籠の鳥ならぬ、籠の鼠なルルーさんと、これから接触させてもらえるとも思えないんだよなあ。アストルディアですら、会わせたがらないくらいだし。
 取り敢えず立場向上の為に使えそうな案件として頭に止めて、機会を伺うか。

「ほら。エディ。そろそろ父上の離宮だぞ」

 エルディア女王の周りには護衛の兵士が配置されてなかったのに対し、王配ニルカグルの離宮の周りにはたくさんの警備兵が配置されていた。
 女王自身が望んで遠ざけていたとは言え、王配の方が警備が手厚いのはどうかと思わなくもない。一応扉から離れた場所で、アストルディア曰く特別耳の良い獣人兵が、女王に何かあればいつでも駆けつけられる所に待機はしていたけど。俺がマジで女王暗殺を目論んでたら、確実に殺れた自信あるんだが大丈夫なのか。
 離宮を守るのは、特別体格の良い、見るからに屈強な獣人達。その中には見知った顔も混ざっていた。

「久しぶりですね。タンク」

「やっほー、エド様と、アストルディア殿下。……って、やば。王族やその配偶者にこんな態度取ったら、上司からお説教されちゃうんだった。今のなし! やっぱ今のなしね!」

「気づいてからの態度も、全然変わってないのはどうかと思うが……ここには、俺達と王宮兵しかいないのだから気にしなくていい。立場の違いはあっても、俺達は同窓だからな」

「うひゃー……アストルディア殿下から同窓扱いされるなんて、恐れ多すぎる。同じクラスだったエド様なら、まだしも。てか、エド様、アストルディア殿下とはいつから? 学生時代からなら番になること、なんで言ってくれなかったの? 言ってくれれば協力したの……痛っ!」

「……いくら殿下達が許しているからって、馴れ馴れし過ぎだ。タンク。そもそも職務中だぞ」

 どうやらタンクの先輩らしきサイの獣人(親善試合の人か?)は、こちらに深々と頭を下げた後、その場の警備を他の獣人に託してタンクを引きずって行ってしまった。
 間違いなく、お説教だろう。学生時代と態度を変えなかったことは嬉しかったので怒らないであげて欲しいが、確かに職務中のおしゃべりは良くない。手紙のやり取りばかりだったから、つい話しかけた俺も悪かった。謝るから、成仏してくれ。

 
「……どんどん警備兵が増えてくな」

「狼獣人の女王の番である父に何かあれば、間違いなく母にも影響があるからな。女王である母が狂えば、国は揺らぐ。だからこそ、少しでも長く父を生き長らえさせる為に、皆必死なんだ」

「不仲と言われてるのに?」

「狼獣人の宿命だからな」

 生涯、ただ一人の番しか愛せない狼獣人。
 番を喪えば皆狂うと言うけれど、それが愛がない政略結婚でも適応されると言うのは、どうしても違和感がある。

「それに巷で言われているほど、二人には愛がなかったわけでもない。番を失って王の仕事のみに没頭したアルデフィアの代わりに、父親の役割を果たしたのが父ニルカグルだ。番としての愛よりは、親子愛に近いかもしれないが、それでも確かに二人は愛情でつながっていたのだと俺は思っている」

 ……過去形なのが、とても気になるなー。
 番一筋な狼獣人の女性と、複数番を持つのが当たり前な獅子獣人の男性は相性最悪だって言ってたし、年齢差やばいし、その後破綻したのはよくわかるけど。

 一際たくさんの警備が配置されていた部屋の豪奢な扉を開くと、きらびやかな調度品が置かれた広い部屋の中央に、これまた金がかかってそうなキングサイズのベッドが置かれていた。すごく大きいベッドなのに、部屋自体がものすごく広いため、何だかポツンと淋しく配置されてるように見える。
 広いベッドの中に、真っ白な鬣のやせ細って小さくなった老獅子がぐったりと眠っているのだから、なおさらだ。
 ……あれが、建国の英雄アルデフィアの側近を務めた男か。息子であるガーディンクルの体型からして、元々そこまで体格が良かったわけでもないのかもしれないが、痛々しさすら感じるその姿に、胸がつまるな。

「……起きてください。父上。アストルディアです。約束の時間になりましたので、番であるエドワードを連れて挨拶に参りました」

 アストルディアの呼びかけに、ニルカグルはゆっくりと目を開けた。
 濁り霞がかった金の瞳が、アストルディアに向けられ、続いて俺を捉えた。

「ーーエレナああああ!!!」

 そして次の瞬間。俺は、カッと目を見開いたニルカグルに、飛び掛かられていた。

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