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息子さんをください⑨

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 エルディア女王は、先ほどまでの威厳ある落ち着きが嘘のようなヒステリックな態度で、ルルーと呼ばれたメイドに掴みかかった。

「何度も言っているでしょう……! か弱く魔力もないネズミ獣人の貴女は、本来は王族に仕えられるような立場じゃないの。貴女のお母様が、母エレナと懇意にしてたから、特別に雇ってあげてるだけ。それなのに、私以外の王族に関わるだなんて、あり得ないわ。自分の立場をわきまえなさい」

「も、申し訳ありません……」

「わかったら、さっさと立ち去りなさい!」

「は、はい!」

 慌てて走り去るルルーさんの後ろ姿を、エルディア女王はギリギリ歯を食い縛りながら、ものすごい形相で睨みつけていた。ふーふーと荒い息を漏らす姿はひどく野性的で、今までの女王の姿とのギャップがすごい。生まれながらの女王みたいな気品、どこやったんだ。これ。
 そんな女王の姿を、アストルディアは呆れたように眺めていた。

「……ルルーに対す態度は、相変わらずのようですね。母上。私は彼女がネズミ獣人だからと粗雑に扱ったりしませんし、人間であるエドワードは尚更です」

「……そう言う問題ではないのです。貴方やエドワードさんが優しいからと、あの子が調子に乗って他の王族にまで関わりだしたらどうするのです。プライドの高いニルカグルやヴィダルス相手なら、その場で殺されたっておかしくないのですよ」

 深呼吸と共にいつもの調子に戻った女王が、ルルーさんが去った扉を、冷たく見据えた。

「ネズミは、ネズミらしく、人目がつかない場所でコソコソ息を潜めて生きれば良いのです。ーーそうすれば、駆除されることもないのですから」

 ……うーん。なんか触れちゃいけない闇を感じる。



「……ルルーさんとエルディア女王って、どういう関係なの」

 あの後アストルディアも交えて改めて女王への挨拶は終えたわけだが、「息子さんを俺にください」と言わなければならないのは、母親だけでもなく父親にもだ。あと兄にして王太子であるカーディンクルにも、挨拶は必須だろう。
 全員揃って一度にまとめて挨拶させてくれれば楽なのに、それぞれ別の場所で別の時間に挨拶に来るように言って来たものだから面倒臭い。まあ、王配ニルカグルはベッドから離れられない状況みたいだから仕方ないし、別の場所って言っても皆セネーバ王城内だから良いけども。
 アストルディアと並んでニルカグルの離宮を目指しながら、この隙間時間を使って気になっていたことを聞いてみることにした。

「乳兄弟だ。病弱故に産後も乳の出が悪かったエレナ姫の代わりに、ルルーの母が母上に乳をやって育てたらしい。乳母本人は強い肉食獣人だったらしいが、一目惚れして番に選んだ相手がネズミ獣人だったようでな。ルルーは父の種を引き継いだというわけだ」

「肉食獣人とネズミ獣人が番になって、周囲の反対はなかったの?」

「当然あっただろうが、力で黙らせたようだ。当時はまだ、獣人の弱体化がそこまで深刻視されていなかったしな。ルルーはああ見えて、母上より年上でな。幼い頃は本当の姉妹のように過ごしたらしい」

「そうか……だから女王は、あんなにルルーさんに心を許していたんだな」

「……俺のように特別発達した嗅覚を持つ訳でもないのに、本当にエディは他人の感情に鋭いな。同性からの懸想以外は、だが」

「いや、普通にわかるだろう。あれだけ素で接してるんだから」

「この城の大半のものは、母は特別ルルーを嫌っていて、虐げる為に敢えて傍に置いているのだと思い込んでいるぞ」

「あの人が、嫌いな相手をわざわざ傍に置くはずがないだろう」

 嫌いな相手に余計なエネルギーを割くくらいなら、さっくり排除するタイプだ。あれは。
 実際言ってる言葉だって、「他の人に傷つけられたりしないよう、私の世話だけしてなさい」ってことだし。

「……ただ、ルルーさんがそれを理解できてるかは、わからないけど」





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