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息子さんをください⑧
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「……随分と、正直な方ですね」
俺の言葉に、エルディア女王は眉間の皺を深くする。
「正直であることが、必ずしも美徳だとは限りません。特に、貴方が未来の王の番になるのならば。女王にしてアストルディアの母である私を前にしたのだから、たとえ嘘だとしても、アストルディアを最優先で考えると言うべきだとは思わなかったのですか」
確かに、政治的な駆け引きを考えれば、せめて『できる限りアストルディアを優先する』くらいの曖昧な言葉の方が正解だったとは思う。だが、相手が女王ならば話は別だ。
「……貴方の鼻には、嘘や誤摩化しは通じない気がしたので」
アストルディアの鼻の良さは、恐らく英雄アルデフィアからの遺伝で、女王もまた大なり小なりその特質を受け継いでいるはず。
どれほど言葉を取り繕ったとしても本音が見透かされてしまうのなら、素直に思ったままを口にした方が、まだ相手に誠実な印象を与えられる分ましだ。
「けれど、女王陛下。これだけは言わせてください。いざと言う時は、アストルディアより辺境伯領を優先すると決めていますが、それでも私はアストルディアを愛しています。世界中の誰よりも」
黒真珠のような目を見開く女王陛下に、小さく笑いかける。
もし彼女が推測通り嘘を見透かすことができるなら、きっとこの言葉に嘘はないことも伝わっているはすだ。
「最終的に辺境伯領を優先すると決めていても、いざどちらかを選ばなければならない場面になれば、私はきっと揺らぎます。アストルディアがいない世界で、私は心を殺さず生きていける自信がない。だからこそ、故郷とアストルディアのどちらかを選ぶ状況にならないように、彼の番として精一杯尽力するつもりです。たとえ、その為にこの命を懸けることになったとしても」
いざと言う時に、アストルディアよりネルドゥース辺境伯領を優先して、アストルディアを殺す所まではかろうじて想像できる。けど、その後アストルディアを自らの手で葬った世界で、どうやって生きていくのまでは想像すらできない。……それくらい、アストルディアのことをもう愛してしまっている。
だからこそ、俺は運命を変えるんだ。アストルディアと子どもと、皆で幸せになって、セネーバとリシス王国が戦争を起こさないで済む状況を作るんだ。
究極の二択なんて、選ばないで済むならそれに越したことはないのだから。
「エルディア女王のご期待に添えたかはわかりませんが、それがアストルディアの番になった、私の覚悟です」
「………………」
険しい顔のまま、暫し黙り込んだ女王は、ややあって長いため息を吐いた。
「……本当に、貴方はお母様にそっくりね」
「…………」
「アストルディアを、よろしくお願いします。あの子は、近い将来セネーバの王として君臨し、やがては父以上の偉業を成し遂げるでしょう。番である貴方が、けしてその名を汚すことはないように」
…………ええーと、これは取り敢えずアストルディアの番としては合格ってこと?
女王陛下の態度が質問前と全然変わってない分、よけいわかりづらい。
「それでは、あまりアストルディアを待たせると面倒なので、そろそろ戻りましょう」
「あ、はいっ」
話は終わりとばかりに、さっさと扉に向かった女王の後を、慌てて追う。
部屋を出る俺とエルディア女王を、絵の中のアルデフィアとエレナ姫が、微笑みながら見送っていた。
「……気は済みましたか。母上」
最初に案内された部屋に戻ると、アストルディアが用意されたらしいお茶を飲みながら不機嫌そうに待っていた。
そのすぐそばには小柄で可愛らしいネズミ獣人のメイドが控えていて、アストルディアの機嫌を宥めるようにオロオロとお茶菓子の準備をしている。
エルディア女王は、アストルディアの言葉を無視して、つかつかとメイドに近づいて行った。
「……何をしてるの、ルルー。アストルディアには構わないで良いと言ったでしょう」
「で、でも、陛下。せっかく殿下が来てくださったのだから、お茶とお茶菓子くらいは……」
「ルルー」
「ひっ!」
俺の言葉に、エルディア女王は眉間の皺を深くする。
「正直であることが、必ずしも美徳だとは限りません。特に、貴方が未来の王の番になるのならば。女王にしてアストルディアの母である私を前にしたのだから、たとえ嘘だとしても、アストルディアを最優先で考えると言うべきだとは思わなかったのですか」
確かに、政治的な駆け引きを考えれば、せめて『できる限りアストルディアを優先する』くらいの曖昧な言葉の方が正解だったとは思う。だが、相手が女王ならば話は別だ。
「……貴方の鼻には、嘘や誤摩化しは通じない気がしたので」
アストルディアの鼻の良さは、恐らく英雄アルデフィアからの遺伝で、女王もまた大なり小なりその特質を受け継いでいるはず。
どれほど言葉を取り繕ったとしても本音が見透かされてしまうのなら、素直に思ったままを口にした方が、まだ相手に誠実な印象を与えられる分ましだ。
「けれど、女王陛下。これだけは言わせてください。いざと言う時は、アストルディアより辺境伯領を優先すると決めていますが、それでも私はアストルディアを愛しています。世界中の誰よりも」
黒真珠のような目を見開く女王陛下に、小さく笑いかける。
もし彼女が推測通り嘘を見透かすことができるなら、きっとこの言葉に嘘はないことも伝わっているはすだ。
「最終的に辺境伯領を優先すると決めていても、いざどちらかを選ばなければならない場面になれば、私はきっと揺らぎます。アストルディアがいない世界で、私は心を殺さず生きていける自信がない。だからこそ、故郷とアストルディアのどちらかを選ぶ状況にならないように、彼の番として精一杯尽力するつもりです。たとえ、その為にこの命を懸けることになったとしても」
いざと言う時に、アストルディアよりネルドゥース辺境伯領を優先して、アストルディアを殺す所まではかろうじて想像できる。けど、その後アストルディアを自らの手で葬った世界で、どうやって生きていくのまでは想像すらできない。……それくらい、アストルディアのことをもう愛してしまっている。
だからこそ、俺は運命を変えるんだ。アストルディアと子どもと、皆で幸せになって、セネーバとリシス王国が戦争を起こさないで済む状況を作るんだ。
究極の二択なんて、選ばないで済むならそれに越したことはないのだから。
「エルディア女王のご期待に添えたかはわかりませんが、それがアストルディアの番になった、私の覚悟です」
「………………」
険しい顔のまま、暫し黙り込んだ女王は、ややあって長いため息を吐いた。
「……本当に、貴方はお母様にそっくりね」
「…………」
「アストルディアを、よろしくお願いします。あの子は、近い将来セネーバの王として君臨し、やがては父以上の偉業を成し遂げるでしょう。番である貴方が、けしてその名を汚すことはないように」
…………ええーと、これは取り敢えずアストルディアの番としては合格ってこと?
女王陛下の態度が質問前と全然変わってない分、よけいわかりづらい。
「それでは、あまりアストルディアを待たせると面倒なので、そろそろ戻りましょう」
「あ、はいっ」
話は終わりとばかりに、さっさと扉に向かった女王の後を、慌てて追う。
部屋を出る俺とエルディア女王を、絵の中のアルデフィアとエレナ姫が、微笑みながら見送っていた。
「……気は済みましたか。母上」
最初に案内された部屋に戻ると、アストルディアが用意されたらしいお茶を飲みながら不機嫌そうに待っていた。
そのすぐそばには小柄で可愛らしいネズミ獣人のメイドが控えていて、アストルディアの機嫌を宥めるようにオロオロとお茶菓子の準備をしている。
エルディア女王は、アストルディアの言葉を無視して、つかつかとメイドに近づいて行った。
「……何をしてるの、ルルー。アストルディアには構わないで良いと言ったでしょう」
「で、でも、陛下。せっかく殿下が来てくださったのだから、お茶とお茶菓子くらいは……」
「ルルー」
「ひっ!」
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