俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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息子さんをください⑤

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 女王エルディア・セネバ。建国の英雄【黒狼】アルデフィアと、エレナ姫の間に生まれた一人娘。
 若くして両親を亡くした彼女は、父の側近だったニルカグルを34歳の年の差ながらも王配として、10代で女王になった。
 父アルデフィアの黒毛黒目と、そっくりな容貌を引き継いだ彼女は、妻の為に常に人化した姿でいた父親に逆らうように、常に獣面姿を貫いている為、セネーバの民も彼女に倣うようになったという。
 建国祭で遠目に見た時でもかなり厳格な雰囲気だったエルディア女王が、今、ひじょ~に険しい眼差しで俺を見据えている。
 ……さすが英雄の娘で、アストルディアの母親。アストルディアほどじゃないけど、すげえ威圧感のある強力な魔力を放出してるぜ。まあ、でも総量自体は俺のが多分あるけどね!

「お初にお目にかかります。女王陛下。リシス王国ネルドゥース辺境伯家長男、エドワード・ネルドゥースと申します。御子息と婚姻を結ばせて頂くと言うのに、今の今まで挨拶に伺えずに申し訳ありません」

 事前にアストルディアから聞いていた、セネーバ流の礼を取りながら、爽やかスマイルで挨拶の口上を述べる。
 自分で言うのも何だが、俺は絶世の美男子である。相手が人間の女性ならば、老いも若きも笑顔だけで、それなりに懐柔できる自信がある。
 しかし、残念ながらエルディア女王は獣人。人間の美醜なんぞ、意に介さない。女王は険しい表情のまま、ゆっくりと首を横に振った。

「構いません。アストルディアが、そうするように言ったのでしょう。手紙でのやり取りだけでも、十分貴方の人となりは伺えましたし。……もっとも、正式に婚姻を結ぶ前に子どもを作るのはどうかと思いますが」

 ……やっぱり臭いでバレたか。
 今日は敢えて、防臭魔法は使ってないもんなー。浄化魔法で走った分の汗臭さはなくしたけれど。

「俺が、そのように仕向けたのです。母上。既成事実を作っておけば、誰も反対はできないでしょう」 

「貴方は黙ってなさい。アストルディア。今は、エドワードさんと話しているのです」

 間に入ったアストルディアの言葉をぴしゃりと一蹴したエルディア女王は、冷たい眼差しで俺を睨みつける。

「獣人ならば、子を孕んでいるかどうかなぞ、皆臭いでわかります。その状態で結婚式を行うのは、貴方達が正式な手順を踏まなかったことを世に知らしめる言うこと。リシス王国の貴族は、婚前交渉の末の妊娠を不名誉なことだと考えると伺っていたのですが?」

 ……まあ、確かにリシス王国の基準なら、貴族令嬢のできちゃった婚は眉を顰められるな。「あの家のご令嬢は、婚前交渉に応じるふしだらな娘だ」って後ろ指刺されて。
 でも上位貴族と縁づく為に既成事実作りたい下位貴族の、常套手段ではあるんだよなあ。生まれた年をごまかしたりとか、早産だったことにするとか、抜け穴はいくらでもあるしね。
 でも今弁解すべきなのは、そう言うことじゃないんだろうなあ。多分。

「リシス王国の基準では、確かにその通りです。ですがセネーバでは、子宝に恵まれることは何よりの吉報だとアストルディア殿下から伺ってます。特に人間との婚姻は、多くの獣人にとっての悲願だとか。ならば多少順番は違っていても、『セネーバ第二王子が人間と婚姻を結んで、子を成した』事実が少しでも早く広まった方が、国民も喜ぶのではないでしょうか」

 よほど魔力相性が良くない限り子どもができにくい獣人にとって、大事なのは「魔力の優れた子ども」ができることであって、婚姻関係の有無はあまり重視されない。
 何なら一部の番に対する独占欲が少ない種族が住む村では、乱交の末に子どもができるのが普通で、生まれてくる子どもは「村の子」扱いで、村人皆で育てるのが普通だったりするらしいし。……さすがにこれは俺の倫理観に合ってないから、アストルディアが番に一途な種族で本当に良かったわ。アストルディア以外に抱かれるとか、絶対無理。
 郷に入れば、郷に従え。別にセネーバの倫理観に適合してて俺個人が許容できることなら、リシス王国の倫理はそこまで重視しなくとも良いと思ってる。
 リシス王国滞在中に色々言ってくる奴はいるだろうが、そう言う奴はそもそも俺がセネーバに嫁いだ時点で色々言ってくることが確定してるからな。攻撃材料が増えたところで、さして状況は変わらないのだ。


 
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