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息子さんをください③

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 結論から言えば、汗なんか全く気にする必要はなかった。二年前と違って、どれだけ森を進んでも魔物が一切姿を見せなかったから。

「……森の魔物、全部狩り尽くしたのか?」

「まさか。そんなことをすれば、生態系が狂うだろう。単に俺の気配に怯えて姿を見せないだけだ」

 まさかの気配パス。
 そういや、初めて会った時も気配だけで魔物逃げてったな。とても小さい、きゃわきゃわな子犬様だったのに。

 森を抜ければ、ポツポツと獣人と遭遇しだしたが、アストルディアの姿を見るなり、皆慌ててその場に立ち止まって黙礼をはじめた。
 それを見たアストルディアが「構わない。楽にしてくれ」と片手を上げたが、恐れ多そうに首を横に振るばかりで、アストルディアが通り過ぎるまで体勢を崩さない。……こう言う所は、ちゃんと王子様扱いされるのね。獣人も。

「敬われてると言うか……恐れられてんのな」

「今さらだな。学校でも、そうだっただろう」

「……言われてみれば」

「俺に気兼ねなく話しかけるのは、家族以外ではお前とクリス……あと、不愉快ではあるが、ヴィダルスくらいだ」
 
 まだ身分の近い生徒が集まった貴族学校ですら、完全に孤高の王子だったもんな。言われてみれば。一応学校にいる間は、身分は関係ないっていう建前はあったのに。
 部屋でべったりしてるイメージが強過ぎて、忘れてたわ。

 ……アストルディアはずっと、こんな環境を生きてきたんだな。
 一人でも強いからと、誰も隣で寄り添ってくれないまま。その強さと身分から、孤高と存在として遠ざけられ。
 ずっとそうやって、一人ぼっちで生きてきたのか。

「……でもいつもこんな風だと、気軽に外歩けなくね? 仕事の為に国内走り回ってんだろ」

「普段は文字通り走り回ってるから、あまり注目はされないんだ。俺が本気で走れば、馬車なんぞよりよほど速いからな」

 ……ちょっと自慢げなとこが、可愛いね。アストルディア。まあ、でもそう言うことなら、話は早い。

「じゃあ、王城まで走って行こうぜ。別に結婚まで、俺達の関係をお披露目する必要はないんだろ? さすがに行く先々でこんな風に頭下げられるのはいたたまれないし」

 俺も辺境伯嫡男と言うまあまあ高貴な生まれではあるけど、基本的に外では平民アディ君として振る舞ってた(そして正体がバレまくってた)から、こんな風に行く先々で恐れ多そうにされるのは慣れていない。
 それが必要なことならば我慢するけど、そうじゃないなら極力遠慮したい。

「……って、アスティ、何で公衆の面前で服を脱ごうとしてんの!? 」

「お前が走って行くというから、獣化しようかと」

「しなくていいから! てか、俺、アスティの背中に乗る気ないし。自分で走るから」

「エディ……お前、自分が妊娠してること、また忘れてるだろ」

「王城くらいまでなら、大丈夫だって。適度に運動した方が、より安産になるってチルシアさんも言ってたし」

 アストルディアの言葉だけを完全に鵜呑みにするのもあれなので、冬の間に時間を見つけて、俺も人間と獣人の間に生まれる子どもについて調べたのだ。 
 結果、獣人との間に生まれる子どもは、普通の人間の子どもよりずっと頑丈で、妊婦(俺の場合は妊夫か?)が臨月ギリギリまで派手に動き回っても問題ないどころか、寧ろ推奨されることが判明した。
 明らかにこの状況では、アストルディアの方が過保護だ。 

「ほら、行くぞ。アスティ。どっちが先に着くか競争だ」



「うわっ! 今、何か通った!」

「ちょ、誰走ってんの、あれ! めちゃくちゃ速いんだけど!」

 ふはははは。
 身体強化で脚力を強化&重力魔法で体重を走るのに最適な重さに調整し、さらに風魔法で追い風まで付与した今の俺は、まさに最速。どれだけ目が良い獣人でも、そうそう姿は捉えられまい。
 俺の姿を認識できずに驚いている獣人達を尻目に、ひたすら駆ける。

「……ちょっと飛ばし過ぎじゃないか」

 身体強化以外使えないはずのアストルディアは、そんな俺の後ろをぴったり着いてきていた。


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