212 / 311
息子さんをください③
しおりを挟む
結論から言えば、汗なんか全く気にする必要はなかった。二年前と違って、どれだけ森を進んでも魔物が一切姿を見せなかったから。
「……森の魔物、全部狩り尽くしたのか?」
「まさか。そんなことをすれば、生態系が狂うだろう。単に俺の気配に怯えて姿を見せないだけだ」
まさかの気配パス。
そういや、初めて会った時も気配だけで魔物逃げてったな。とても小さい、きゃわきゃわな子犬様だったのに。
森を抜ければ、ポツポツと獣人と遭遇しだしたが、アストルディアの姿を見るなり、皆慌ててその場に立ち止まって黙礼をはじめた。
それを見たアストルディアが「構わない。楽にしてくれ」と片手を上げたが、恐れ多そうに首を横に振るばかりで、アストルディアが通り過ぎるまで体勢を崩さない。……こう言う所は、ちゃんと王子様扱いされるのね。獣人も。
「敬われてると言うか……恐れられてんのな」
「今さらだな。学校でも、そうだっただろう」
「……言われてみれば」
「俺に気兼ねなく話しかけるのは、家族以外ではお前とクリス……あと、不愉快ではあるが、ヴィダルスくらいだ」
まだ身分の近い生徒が集まった貴族学校ですら、完全に孤高の王子だったもんな。言われてみれば。一応学校にいる間は、身分は関係ないっていう建前はあったのに。
部屋でべったりしてるイメージが強過ぎて、忘れてたわ。
……アストルディアはずっと、こんな環境を生きてきたんだな。
一人でも強いからと、誰も隣で寄り添ってくれないまま。その強さと身分から、孤高と存在として遠ざけられ。
ずっとそうやって、一人ぼっちで生きてきたのか。
「……でもいつもこんな風だと、気軽に外歩けなくね? 仕事の為に国内走り回ってんだろ」
「普段は文字通り走り回ってるから、あまり注目はされないんだ。俺が本気で走れば、馬車なんぞよりよほど速いからな」
……ちょっと自慢げなとこが、可愛いね。アストルディア。まあ、でもそう言うことなら、話は早い。
「じゃあ、王城まで走って行こうぜ。別に結婚まで、俺達の関係をお披露目する必要はないんだろ? さすがに行く先々でこんな風に頭下げられるのはいたたまれないし」
俺も辺境伯嫡男と言うまあまあ高貴な生まれではあるけど、基本的に外では平民アディ君として振る舞ってた(そして正体がバレまくってた)から、こんな風に行く先々で恐れ多そうにされるのは慣れていない。
それが必要なことならば我慢するけど、そうじゃないなら極力遠慮したい。
「……って、アスティ、何で公衆の面前で服を脱ごうとしてんの!? 」
「お前が走って行くというから、獣化しようかと」
「しなくていいから! てか、俺、アスティの背中に乗る気ないし。自分で走るから」
「エディ……お前、自分が妊娠してること、また忘れてるだろ」
「王城くらいまでなら、大丈夫だって。適度に運動した方が、より安産になるってチルシアさんも言ってたし」
アストルディアの言葉だけを完全に鵜呑みにするのもあれなので、冬の間に時間を見つけて、俺も人間と獣人の間に生まれる子どもについて調べたのだ。
結果、獣人との間に生まれる子どもは、普通の人間の子どもよりずっと頑丈で、妊婦(俺の場合は妊夫か?)が臨月ギリギリまで派手に動き回っても問題ないどころか、寧ろ推奨されることが判明した。
明らかにこの状況では、アストルディアの方が過保護だ。
「ほら、行くぞ。アスティ。どっちが先に着くか競争だ」
「うわっ! 今、何か通った!」
「ちょ、誰走ってんの、あれ! めちゃくちゃ速いんだけど!」
ふはははは。
身体強化で脚力を強化&重力魔法で体重を走るのに最適な重さに調整し、さらに風魔法で追い風まで付与した今の俺は、まさに最速。どれだけ目が良い獣人でも、そうそう姿は捉えられまい。
俺の姿を認識できずに驚いている獣人達を尻目に、ひたすら駆ける。
「……ちょっと飛ばし過ぎじゃないか」
身体強化以外使えないはずのアストルディアは、そんな俺の後ろをぴったり着いてきていた。
「……森の魔物、全部狩り尽くしたのか?」
「まさか。そんなことをすれば、生態系が狂うだろう。単に俺の気配に怯えて姿を見せないだけだ」
まさかの気配パス。
そういや、初めて会った時も気配だけで魔物逃げてったな。とても小さい、きゃわきゃわな子犬様だったのに。
森を抜ければ、ポツポツと獣人と遭遇しだしたが、アストルディアの姿を見るなり、皆慌ててその場に立ち止まって黙礼をはじめた。
それを見たアストルディアが「構わない。楽にしてくれ」と片手を上げたが、恐れ多そうに首を横に振るばかりで、アストルディアが通り過ぎるまで体勢を崩さない。……こう言う所は、ちゃんと王子様扱いされるのね。獣人も。
「敬われてると言うか……恐れられてんのな」
「今さらだな。学校でも、そうだっただろう」
「……言われてみれば」
「俺に気兼ねなく話しかけるのは、家族以外ではお前とクリス……あと、不愉快ではあるが、ヴィダルスくらいだ」
まだ身分の近い生徒が集まった貴族学校ですら、完全に孤高の王子だったもんな。言われてみれば。一応学校にいる間は、身分は関係ないっていう建前はあったのに。
部屋でべったりしてるイメージが強過ぎて、忘れてたわ。
……アストルディアはずっと、こんな環境を生きてきたんだな。
一人でも強いからと、誰も隣で寄り添ってくれないまま。その強さと身分から、孤高と存在として遠ざけられ。
ずっとそうやって、一人ぼっちで生きてきたのか。
「……でもいつもこんな風だと、気軽に外歩けなくね? 仕事の為に国内走り回ってんだろ」
「普段は文字通り走り回ってるから、あまり注目はされないんだ。俺が本気で走れば、馬車なんぞよりよほど速いからな」
……ちょっと自慢げなとこが、可愛いね。アストルディア。まあ、でもそう言うことなら、話は早い。
「じゃあ、王城まで走って行こうぜ。別に結婚まで、俺達の関係をお披露目する必要はないんだろ? さすがに行く先々でこんな風に頭下げられるのはいたたまれないし」
俺も辺境伯嫡男と言うまあまあ高貴な生まれではあるけど、基本的に外では平民アディ君として振る舞ってた(そして正体がバレまくってた)から、こんな風に行く先々で恐れ多そうにされるのは慣れていない。
それが必要なことならば我慢するけど、そうじゃないなら極力遠慮したい。
「……って、アスティ、何で公衆の面前で服を脱ごうとしてんの!? 」
「お前が走って行くというから、獣化しようかと」
「しなくていいから! てか、俺、アスティの背中に乗る気ないし。自分で走るから」
「エディ……お前、自分が妊娠してること、また忘れてるだろ」
「王城くらいまでなら、大丈夫だって。適度に運動した方が、より安産になるってチルシアさんも言ってたし」
アストルディアの言葉だけを完全に鵜呑みにするのもあれなので、冬の間に時間を見つけて、俺も人間と獣人の間に生まれる子どもについて調べたのだ。
結果、獣人との間に生まれる子どもは、普通の人間の子どもよりずっと頑丈で、妊婦(俺の場合は妊夫か?)が臨月ギリギリまで派手に動き回っても問題ないどころか、寧ろ推奨されることが判明した。
明らかにこの状況では、アストルディアの方が過保護だ。
「ほら、行くぞ。アスティ。どっちが先に着くか競争だ」
「うわっ! 今、何か通った!」
「ちょ、誰走ってんの、あれ! めちゃくちゃ速いんだけど!」
ふはははは。
身体強化で脚力を強化&重力魔法で体重を走るのに最適な重さに調整し、さらに風魔法で追い風まで付与した今の俺は、まさに最速。どれだけ目が良い獣人でも、そうそう姿は捉えられまい。
俺の姿を認識できずに驚いている獣人達を尻目に、ひたすら駆ける。
「……ちょっと飛ばし過ぎじゃないか」
身体強化以外使えないはずのアストルディアは、そんな俺の後ろをぴったり着いてきていた。
579
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる