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息子さんをください②

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 新しくできた関所まで転移し、検問の獣人に入国許可証を見せて(なお、アストルディアは当然顔パスだ)、セネーバ国内に入る。留学中はなかった新たなシステムだが、国境警備の兵士が手続きを行う姿は手慣れていて、確実に二国間の交易が根づきはじめているのを感じた。……まあ、上司にして第二王子であるアストルディアの前だから、絶対に失敗できなかったと言うのもあるだろうが。
 関所を超えれば、留学初日に来た森が広がっている。
 あの時は単なる留学生に過ぎなかったけど、今回は近い未来の第二王子妃としてやって来たのだ。もしこれがリシス王国なら、豪奢な馬車でのお出迎えがあるところだが、残念ながらセネーバではそうはいかない。

「……やっぱ、今回も徒歩か?」

「俺の背中に乗ってもいいぞ。獣化するか?」

「嫁入り初日に、第二王子を馬代わりにしてる姿、晒せるわけないだろ」

「祖父アルデフィアは、獣化して病弱なエレナ姫を背中に乗せて国中を回っていたらしいから、何も問題はないと思うぞ」

「俺のプライドが許さねーの」

 強さ至上主義のセネーバでは、身体能力の高さを見せつけてなんぼな所があるので、足に自信がある種族は性別も身分も関係なく、積極的に自らの足で移動しようとする。運ぶ荷が大量にある場合ですら、全部それを荷車に乗せて自分で引いていくのが普通。馬車や馬に頼るのは、自らの力不足の表明で、屈辱的な行為だと言う、人間には到底理解できない価値観が獣人にはあるのだ。
 馬車も馬もなくても、転移魔法さえ使えば一瞬だが、残念ながら俺は今まで王城に出向いたことはない。どうやっても今回ばかりは、自分の足を使う必要がある。

「学校か、祭りの時に行ったとこなら、転移魔法も使えるけど……」

「多くセネーバの国民は、転移魔法を見慣れてないからな。混乱を避ける為、有事の時以外は国内での転移魔法は極力使わないで欲しい」

 正直、ここから学園も、学園から城下街も、それぞれ歩いて行ったことはあるし、トータルしたところで距離的にそこまできついわけではないのだけど。
 第二王子とその妃が、供も護衛もつけずに二人でテクテク歩いて王城に向うと言うこと自体が、リシス王国的にはあり得ない話なので、つい「本当にそれでいいの?」と思ってしまう自分がいる。
 既にリシス王国で、供も護衛もつけない&お忍びでもなんでもないお祭りデートしてるんだから、今さらといえば今さらな話ではあるのだけど。
 そもそも、アストルディアが俺を迎えに辺境伯領に来た時点で、お供も護衛もつけてなかったし。

「そういや、今回は一切変装とかもしてないわけだけど、正体バレバレで歩いてても問題ないの?」

「特に、やましいことがあるわけでもないからな。祭りの時や孤児院訪問の際は目立ちたくなかったから毛の色を染めていたが、学校を卒業してからは一度もああいうことはしていない」

「でも、そのせいで命を狙われたりすることもあるんじゃ……」

「自分の身は自分で守れてこそ、王族だ。刺客にやられるような者は、王族でいる資格はない」

 まあ、成人儀礼として危険なネーバ山を登頂させられるのが、セネーバの王族だしね。
 アストルディアが子どもの頃ですら、供も変装もなしに一人でネーバ山に行かされたのだもの。立派に成人した今は、よけいそう言うのいらないよね。いかん、いかん。早急に、脳内の常識をセネーバ基準にアップデートしなければ。

「でも、だったら服も移動用にすべきだったなー」

 留学初日の時は、魔物を退治しながら森を抜けた記憶がある。
 そこまでレベルが高い魔物じゃなかったけど、いつ女王陛下と挨拶することになっても大丈夫なように手持ちの中で一番上等な礼装を着ちゃってるのに、戦闘したらせっかくの一張羅が汗臭くなっちゃいそう。ドロドロになっても最悪浄化魔法があるから、いいっちゃいいんだけど。




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