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息子さんをください①

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 やるべきことをこなしているうちに、あっという間に季節は過ぎ去り、とうとう雪解けの時がやって来た。



「……アスティ。俺の服装、おかしくないか」

「大丈夫。いつも通り、綺麗だ」

「お前はいつもそればかりだから、あてになんねーんだよな……」

 今日、俺はとうとうセネーバに向かう。

「父上、母上。……今までお世話になりました」

 辺境伯の領民に向けての挨拶は、既に昨日済ませた。  
 王都より獣人嫌悪の風潮が強くない辺境伯領の民は、皆思いの外あっさりアストルディアの美しさ&逞しさに絆され、わりと快く祝いの言葉を口にしてくれた。……爆誕した腐女子の皆さんは「耽美じゃないけど、絶世の偉丈夫! これはこれで素晴らしい!」「いや、私はどちらも中性的な方がいい!」「エドワード様が女性側なら、私はどっちでもいい!」と性癖の違いで仲間割れしていたけど。「何なら私は、エドワード様が男側のが萌える!」って言ってた奴もいたけど、正気か? アストルディアはほぼ二メートルの、ガチムチだぞ。

 そんな訳で、今日の見送りは家族だけだ。

「……第二王子妃となれば、今以上に背負う物も大きくなるだろう。くれぐれもネルドゥースの家名を汚すことがないように」

「結婚式は来週行うのでしょう? エドワードの花嫁姿を見るの、楽しみだわぁ~。セネーバにもずっと行ってみたかったし」

 相変わらずの厳格な調子で吐き捨てる父と、相変わらずほわほわの妖精のような母。
 大の男でも怖がる獣人国に、ずっと行ってみたかったとあっさり言える辺り、何だかんだで母は肝が座っている。
 父は、一瞬だけ目を伏せた後、アストルディアの前で礼を取った。

「……アストルディア殿下。不甲斐ない息子ですが、どうかよろしくお願いします」

「もちろんだ。必ず幸せにしよう」

 結局レオは見送りには来なかった。まあ、どうせまたすぐに会うことになるし、と両親に背を向けた瞬間、下腹にタックルされた。

「……兄上っ」

 どうやら、転移魔法を使ってすっ飛んで来たらしい。レオは、泣きじゃくりながら俺の腰にしがみついてきた。

「……やっぱり、いやです……英雄である兄上が、獣人に嫁ぐなんて……許せません……」

「……レオ」

「許せないけど……兄上がそう決めたなら……それが辺境伯領の為だと言うなら……僕は、受け入れなければならないのでしょう」

 しゃくりあげながら顔をあげたレオは、涙で潤んだ目で俺をまっすぐ見上げた。

「……兄上が、自らを犠牲にしてまで守ろうとしてくれている辺境伯領を、僕も守ります。次期領主として、必ず守ってみせます」

 悔しそうに、歯を食いしばっていて。涙だけじゃなく、鼻水まで出ていて。
 すごく情けない表情なのに、その顔がすごく頼もしかった。

「だから……どうか。どうか兄上……幸せに」

「……大人になったな。レオ」

 確実に大人の階段を上りつつあるレオの頭を撫でて、その体を抱き締める。

「ありがとう。レオ。……お前が、俺の弟で良かったよ」

 運命をどこまで回避できたのかは、わからないけど。
 少なくともレオに関しては、原作よりずっと健全で正しい兄弟関係を築くことができたのだと思う。



「それじゃあ、アスティ。行こうか」

「……いいのか。弟との別れが、あれだけで」

「どうせ、またすぐ会うことになるし」

「エディ、お前は、その……」

「その?」

「……いや、何でもない」

 一瞬だけアストルディアは、レオの方に視線をやった後、すぐに首を横に振った。
 ちなみにこの二人、今日が初対面にも関わらず、一切会話はしていない。
 レオはまるで親の敵のようにアストルディアを睨みつけてるし、アストルディアはレオを諭そうとした俺を静止したうえで、レオの無礼な態度を完全に無視している。
 ……け、結婚式にまた会うにしても、良いのかこれで。複雑な気持ちはあるにしても、せめて挨拶くらいはきっちりさせたかったんだが。

「そろそろ約束な時間だ。行こう。エディ」

「ああ」

 最後にもう一度家族に別れを告げ、転移魔法を発動する。
 ……さあて。アストルディアのご両親に、「息子さんをください」と言いに行きますか。



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