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初恋が終わる時⑦

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「クリスが言うには、貴方の仲間は皆あの爆発で死亡したらしいですよ。私の結界があったから、他に被害者は出ていませんが。魔道具で避難できた、貴方一人だけが生き残れた。考え方次第では、私が貴方の仲間を殺した仇とも捉えられますね。私が憎いですか。ブラッド」

「……親父から同じ案件の為に集められたというだけで、別にあいつらは仲間でも何でもねぇよ。何なら今日が初対面だ」

「そうですか」

「けれどエドワード……昼の件は関係なく、俺はお前が憎いよ。毒針を使うべきか、ダンスが始まってもまだ迷っていたくらいには」

「何故? 私は、貴方に憎まれるようなことをした覚えはないのですが」

 俺の言葉にブラッドリーは、くしゃりと泣きそうな顔で笑った。

「……お前が、俺以外の男のものになったから」

「…………」

「殺してしまえば、少なくともお前と獣人王子が婚姻を結ぶことはない。……そう思ったら、それも悪くはねぇかなって」

 くだらないと切り捨てるには、あまりにブラッドの声は切実で。そして、痛々しかった。

「……ブラッド。『俺』は、襲撃犯の中にお前がいたことをクリスには報告をしていない」

 ブラッドの前では崩したことはなかった敬語をかなぐり捨て、素の口調で語りかける。

「恐らくクリスも、気づいていてそれを黙認してくれている。だが、これはクリスがかつて友だったお前に与えた最後の慈悲で、恐らくその慈悲が及ぶ範囲にパトリオット家は含まれていない。そう遠くない未来に、パトリオット家は没落することになるだろう」

「…………」

「今からでもクリス側につくか、他国に亡命するか。それともパトリオット家に殉じるか。選ぶといい。セネーバに亡命希望なら手を貸してやれるが、俺がお前の為にしてやれることはそれくらいだ」

 詳しいブラッドリーの事情は、聞かない。もう、事情を聞いて何とかしてやれる段階は過ぎている。
 生家を裏切るか。捨てるか。それとも共に滅ぶか。
 選択肢はそれだけで、どれを選ぶかはブラッドリー次第だ。

「……お前、そんな口調で話せたんだな」

「幻滅したか?」

「いや……もっと早く、お前が素を見せられるような存在になりたかったと思っただけだ」

 ブラッドリーの赤い目から、一筋涙が溢れ落ちた。

「……好きだった。エドワード。初恋だった」

「そうか」

「お前が留学する前に気持ちを伝えられてたら、俺達の関係は変わっていたと思うか」

「無理だな。今も昔も、俺の第一は辺境伯領だ。お前にはっきり好意を告げられていたとしても、断っただろう」

「だよな……わかってたよ。絶対に叶わない恋だってことは」

 ダンスが終わって手を離す前に、ブラッドリーは右手を高く持ち上げ手袋ごしに口づけた。

「……さようなら。エドワード。結婚おめでとう。幸せにな」

 震え声でそう言い残し、ブラッドリーは俺に背を向けて、去って行った。
 ……さて。次をクリスにしたら順番的に色々面倒なことになるだろうから、やっぱりここはダンテかな。と、思った瞬間、乱暴に手を引かれた。

「……俺と踊ってくれますか。レディ」

「さっき、踊ったばっかりだろうが」

 一人間を空けたにしろ、3回目も同じ相手と踊るのはリシス王国の作法的には微妙なのだが、いつもの無表情に戻ったアストルディアは、半ば強引に俺の腰に手を回してきた。

「婚約者が他の男と親しげに踊っていた姿に嫉妬して、牽制の為に再びダンスを申込むのは、別に礼儀に反した行為ではないだろう。そもそも俺は、リシス王国の民ではないしな」

「器が小さく見えるぞ」

「婚約者の手の甲に口づけても、文句一つ言わないのだから十分寛容だろう」

「いや、手袋越しだし」
 
 敢えてブラッドリーの時のように防音魔法は使わず、密着した距離で囁きあいながら、ダンスを踊る。

「アストルディアは、他のお嬢さんに誘われなかったのか?」

「獣人と踊りたがる度胸のある女は、早々いない」

「アストルディアから誘えば、二つ返事で踊ったと思うよ」  

「仮にも他国の王子だからな」
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