俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
上 下
204 / 311

初恋が終わる時③

しおりを挟む
 物の数分で、辺りには屍累々。多分本当の死人までは出してないとは思うが、襲撃者は誰一人まともに動けない様子。
 ただ一人、仮面の男だけは実力差を察したのか、転移魔道具を使って逃げ出してた。あれ、すげーお高いんだよな。俺みたいに付与魔法と転移魔法両方使える奴なんて、早々いないし。うちの国では心当たりないから、恐らくレンリネド産か?
 まあ、あの仮面の男には心当たりがあるので、逃げられても全く問題ない。
 さて、問題はアストルディアの腕の中で半狂乱になってる女だ。

「……それで、家は何処にあるんだ」

「ひぃっ! ば、化け物!」

 目の前で殺戮未遂をありありと見せつけられた女は、涙目で震えている。
 ……俺からすれば、一番近くでアストルディアの戦いを見られる特等席なのに、ひどい反応だな。

「やっぱり、教えは本当だった……! 獣人は滅ぼすべき悪魔なんだ……!」

 どれほど熱心なドリフィス教の信者だとしても、アストルディアの強さを目の当たりにして、よくこんなこと言えるなあ。
 苦笑いしながら物陰から立ちあがった瞬間、女が懐から出したものを見て血の気が引いた。

「邪悪な獣人よ、滅びよ! 私の命、女神様と教皇様に捧げます……っ」

「ーー【愛しき番に、聖なる守護を】!」

 俺流にアレンジした時短呪文でアストルディアに結界を付与すると同時に、魔法陣を発動させて、倒れ伏す襲撃者達と女をお椀型に覆い隠すように、攻撃を閉じ込める結界を張る。
 女が取り出した魔道具は、自爆の魔道具だ。使用者の命と引き換えに、町を一つ滅ぼすような大爆発を引き起こす殺戮兵器。前世のゲームにたとえるなら、魔道具版メガ◯テだ。
 同時に俺が展開できる結界は、詠唱と魔法陣の二つ。アストルディアを守るのはもちろん、王都に被害を出さないことも最優先しなければならない。この場合、当然俺自身安全確保は二の次だ。
 王都に爆発の被害を出さない為には、女だけを囲う攻撃封じ結界が一番良かったが、他の襲撃者達が連動して作用する魔道具を持っている可能性を想定して、敢えて範囲を広めた。その結果、残念ながら俺自身も、爆破攻撃範囲に入ってしまっている。
 即座に転移魔法の時短呪文を口にしたが、間に合うかどうかははっきり言って賭けだった。
 ペンダント型の魔道具が光り、女が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 ーーまずい、間に合わない。

 そう思った瞬間、獣が咆哮した。

「っ」

 それは一秒にも充たない出来事だった。
 女を投げ捨てたアストルディアが一瞬でこちらに駆け寄って来て、俺を抱えて真上に跳躍した。  
 魔法も使ってない、身体強化のみの跳躍。
 しかしアストルディアはまるでロケットが発射するかのような勢いで、俺の攻撃封じ込め結界を突き破り、高く高く飛び上がった。
 空いた結界の穴から発射された爆風が、さらにその高さを後押しする。

 ……え、これ普通にビルくらいの高さ跳んでね? 足のバネどんだけなのよ。
 うわお、地面が遠いー。

「……って、こんなことをしている場合じゃない!」

 慌てて転移魔法を発動し、クリスの屋敷に座標を合わせて展開する。もちろんアストルディアと二人分だ。
 立ち上る黒煙のせいで地上の被害状況はよくわからないが、アストルディアは結界を綺麗に真上にぶち破ったので、爆発の被害は恐らく襲撃者達だけのはず。
 そうじゃなければ、今ごろ王都全体に被害が出てるはずだからな。取り敢えず黒煙で隠れてない所は無事みたいだし、結界全てが無効化されたわけではないことは確かだ。
 取り敢えず事態の収集は、近くで様子見してただろう優秀な【影】さん達に任せて、この場からずらかろう。



「……はー。危なかった」

 無事地面に叩きつけられる前に屋敷に転移できた俺は、遅れてあふれ出してきた冷や汗を脱ぐう。
 マジで危なかった……こんなに命の危険感じたの初めてかも。

「そうだ、クリスに報告……っ!」

 指輪の魔道具には、アストルディアだけでなくクリスとも連絡を取れるようになっている。
 慌てて状況報告だけしようとした瞬間、近くのソファに叩きつけられた。

「……アスティ?」
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

処理中です...