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初恋が終わる時①
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お忍びでも何でもなく、アストルディアが狼耳や尻尾を堂々と晒して第二王子アピールしてるせいか、さすがに面と向かって獣人を貶める言葉を口にするものはいない。
獣人は忌避されていると同時に、恐れられてもいるのだ。さらに相手は隣国の王族。少し悪口を言っただけで、不敬罪としてしょっ引かれる可能性がある。それなりに地位がある貴族ならばともかく、一般庶民じゃ公然と嫌がらせができるはずもない。
……まあ、アストルディアの神がかった美貌と、ガタイの良さに、その気が削がれてるってのも十二分にあるだろうけどな。時々拝んでる奴がいるのは、ドリフィス教から改宗したのか?
「……あっ」
ずっと足を曲げて歩いているせいか、石に足を引っ掛けたので、ここらで群衆の皆さんへサービス。
体幹強強につき普通に体勢を持ち直せるけど、あくまで今の俺は病弱なご令嬢なので、そのまま重力に逆らわず体勢を崩す。
そんな俺をアストルディアが、当然のように後ろから抱きとめた。
「……大丈夫か?」
「も、申し訳ありません。殿下。石につま先が……」
どうですか? 顔を真っ赤に染めてアストルディアの腕の中で、恥ずかしがってる俺は?
さらりと俺を抱きとめて、心配そうに顔を覗き込むスパダリアストルディアは?
まるで恋愛物語の一節のようなシチュエーションに、周囲の若いお嬢様たちがうっとり顔でため息を吐いた。
辺境伯領では腐女子が爆誕していたが、ドリフィス教人気が高い王都ではNL好きが一般的なのだ。
前世のネット小説風に言うなら「国の為に嫁いだ病弱な令嬢が、蛮族の美王子に溺愛される話」を妄想をしてときめいてもらおうじゃねぇか! ふははは!
内心邪悪なドヤ顔をしながら、涙目キュルキュルなお嬢様風上目遣いで、アストルディアの胸元を小さく掴む。
「……ずっと屋敷の中だけで過ごしてきたせいで、外で歩き慣れてないんです。殿下の手を煩わせてしまって、申し訳ありません」
「気にするな」
「……ぅぇっ」
思わず、素の声が出そうになったのを、慌てて飲み込んだ。
「お、降ろしてください! 殿下!」
「お前が歩くのが苦手ならば、こうして俺がお前を抱き上げて、足の代わりになろう」
「そ、そんなこと殿下にさせるわけには……」
「俺とお前は番だ。獣人にとって番は、唯一無二の一心同体な存在。俺の足はお前のものだ。何も気にすることはない」
やめて、アストルディア。
あまりのスパダリっぷりに、NL好きなお嬢様は悶絶してるけど、お姫様だっこされたらドレスの裾の中で折り曲げてた足をどうすればいいかわからないの。本物の腰の位置もバレそうだし。
あと、予想外過ぎる行動に、封印したはずの恋心がうっかりこんにちはしてアホになりそうだから、マジやめて。
アワアワ動揺する俺の耳元に、アストルディアが小さく囁いた。
「……つけられているな」
その言葉に、溢れかけていた恋心がすぐにシュルリと蓋付きの箱の中に舞い戻った。
「……わかってる。三人か?」
「離れた所に、その三人の様子を伺っている者がさらに三人いる。クリスの【影】ではなさそうだ」
「六人か。舐められたもんだな。取り敢えず人気のない場所へ移動するか」
「俺達が移動しなくても、誘導されそうな気もするがな」
「ーーお願いです。殿下! 降ろしてください! このままじゃ、心臓が破裂してしまいます!」
ポコポコと胸元を叩いてアストルディアにお姫様抱っこから解放させると、照れたような表情のまま、進行方向を確認する。
下手に追っ手を焦れさせて、関係ない民まで巻き込んでしまったら大変だ。早急に、襲撃しやすそうな場所まで移動してやらねば。
「……殿下。次はあちらに行きましょう。できれば、屋台の出てない町の様子も見ておきたいんです」
にこりと笑って裏路地に続く道の方に足を進めると、ふらりと近寄ってきた中年の女が目の前で倒れこんだ。
「きゃっ! だ、大丈夫ですか?」
「……じ、持病の発作が……すぐ傍の家に薬があるのですが……」
……わあい。わかりやす過ぎる罠キター。
獣人は忌避されていると同時に、恐れられてもいるのだ。さらに相手は隣国の王族。少し悪口を言っただけで、不敬罪としてしょっ引かれる可能性がある。それなりに地位がある貴族ならばともかく、一般庶民じゃ公然と嫌がらせができるはずもない。
……まあ、アストルディアの神がかった美貌と、ガタイの良さに、その気が削がれてるってのも十二分にあるだろうけどな。時々拝んでる奴がいるのは、ドリフィス教から改宗したのか?
「……あっ」
ずっと足を曲げて歩いているせいか、石に足を引っ掛けたので、ここらで群衆の皆さんへサービス。
体幹強強につき普通に体勢を持ち直せるけど、あくまで今の俺は病弱なご令嬢なので、そのまま重力に逆らわず体勢を崩す。
そんな俺をアストルディアが、当然のように後ろから抱きとめた。
「……大丈夫か?」
「も、申し訳ありません。殿下。石につま先が……」
どうですか? 顔を真っ赤に染めてアストルディアの腕の中で、恥ずかしがってる俺は?
さらりと俺を抱きとめて、心配そうに顔を覗き込むスパダリアストルディアは?
まるで恋愛物語の一節のようなシチュエーションに、周囲の若いお嬢様たちがうっとり顔でため息を吐いた。
辺境伯領では腐女子が爆誕していたが、ドリフィス教人気が高い王都ではNL好きが一般的なのだ。
前世のネット小説風に言うなら「国の為に嫁いだ病弱な令嬢が、蛮族の美王子に溺愛される話」を妄想をしてときめいてもらおうじゃねぇか! ふははは!
内心邪悪なドヤ顔をしながら、涙目キュルキュルなお嬢様風上目遣いで、アストルディアの胸元を小さく掴む。
「……ずっと屋敷の中だけで過ごしてきたせいで、外で歩き慣れてないんです。殿下の手を煩わせてしまって、申し訳ありません」
「気にするな」
「……ぅぇっ」
思わず、素の声が出そうになったのを、慌てて飲み込んだ。
「お、降ろしてください! 殿下!」
「お前が歩くのが苦手ならば、こうして俺がお前を抱き上げて、足の代わりになろう」
「そ、そんなこと殿下にさせるわけには……」
「俺とお前は番だ。獣人にとって番は、唯一無二の一心同体な存在。俺の足はお前のものだ。何も気にすることはない」
やめて、アストルディア。
あまりのスパダリっぷりに、NL好きなお嬢様は悶絶してるけど、お姫様だっこされたらドレスの裾の中で折り曲げてた足をどうすればいいかわからないの。本物の腰の位置もバレそうだし。
あと、予想外過ぎる行動に、封印したはずの恋心がうっかりこんにちはしてアホになりそうだから、マジやめて。
アワアワ動揺する俺の耳元に、アストルディアが小さく囁いた。
「……つけられているな」
その言葉に、溢れかけていた恋心がすぐにシュルリと蓋付きの箱の中に舞い戻った。
「……わかってる。三人か?」
「離れた所に、その三人の様子を伺っている者がさらに三人いる。クリスの【影】ではなさそうだ」
「六人か。舐められたもんだな。取り敢えず人気のない場所へ移動するか」
「俺達が移動しなくても、誘導されそうな気もするがな」
「ーーお願いです。殿下! 降ろしてください! このままじゃ、心臓が破裂してしまいます!」
ポコポコと胸元を叩いてアストルディアにお姫様抱っこから解放させると、照れたような表情のまま、進行方向を確認する。
下手に追っ手を焦れさせて、関係ない民まで巻き込んでしまったら大変だ。早急に、襲撃しやすそうな場所まで移動してやらねば。
「……殿下。次はあちらに行きましょう。できれば、屋台の出てない町の様子も見ておきたいんです」
にこりと笑って裏路地に続く道の方に足を進めると、ふらりと近寄ってきた中年の女が目の前で倒れこんだ。
「きゃっ! だ、大丈夫ですか?」
「……じ、持病の発作が……すぐ傍の家に薬があるのですが……」
……わあい。わかりやす過ぎる罠キター。
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