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男装の麗人③

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 ダンテを伴って現れたアストルディアの姿に、どきゅんと胸が高鳴る。

 ……やだ。礼装姿のアストルディア、めちゃくちゃ格好いい……。

 思わずぽーっと見惚れてから、我に返る。
 どこの少女漫画のヒロインだ。去れ、乙女思考。この調子じゃ本気で今後の計画に支障がでかねないぞ。
 お犬様にデレデレしてた時は羞恥も何もなかったけど、立派な成人男性姿のアストルディアにデレデレな自分は、客観的に見て痛すぎるのも問題だ。
 ほら、アストルディアと話しているクリスが、色々察してニヤけてるだろ……くそ、絶対後でめちゃくちゃからかわれる。いや、からかわれるだけならいいけど、ガチで今後のこと心配されたらとても居た堪れない。

「先日ぶりだな。エディ」

 クリスと一通り打ち合わせが終わったアストルディアが、俺に向き直る。
 う……また、心臓がドキドキしてきた。アストルディア、どんな反応するんだろ。うっかりときめいてくれたりは……。

「慣れない服装で大変だとは思うが、できる限りのフォローはさせてもらう。何かあれば、小さなことであってもすぐに言ってくれ」

 ……しませんね。いつも通りだね。そうだ、こいつはそういう奴だった。

 一瞬で高揚が去り、スンとなる。
 そもそも獣人にとって、人間の性別も美醜もあんま関係なかったな。エレナ姫狂いのヴィダルスがおかしいだけで。
 もしこの場にいるのがアストルディアではなくヴィダルスなら大興奮だったろうと思うと、非常に苦い気持ちになる。……世の中、ままならないもんだね。

「ちょっと。アストルディア。もっと他の言葉ないのー? こんなに綺麗にしたのにさ」

 やめろ。クリス。面白がって変なフォロー入れようとするな。よけい惨めになるだろう。
 変な期待した俺がアホだったんだよ。 

「綺麗にしたって……エディは元々綺麗だろう」

「それはそうだけどー」

「どんな服装だろうが、エディはエディだ。いつだって、俺にとっては誰よりも美しく見える。寧ろ下手な装飾がない素のままの姿の方が、綺麗だとは思うがな」

「……はいはい。ごちそうさま。ごちそうさま」

 ……そういや、エレナ姫の絵と俺を見比べた時も、そんなこと言ってたね。
 あの時は「おうっふ」ってなって、顔真っ赤で動揺してたけどさー……今の俺はあの時の俺と違うんですよ。
 恋する乙女と化した俺は、不意討ちの攻撃に心臓やられ過ぎて、言葉も出てこなくなってるんですよ。心臓痛いし、過呼吸なりそう。

「エディ?」

 やめて、心配そうに顔を覗き込んで来ないで。俺を見ないで。
 アストルディアにときめいて欲しかったのに、俺ばっかりドキドキさせられるとか、本当ずるいと思います……!



 新年会のスピーチは、王城のバルコニーで行われる。
 隣接する広場に集まった数万の国民に向かって、勢ぞろいした王族の代表者が新しい年を祝う言葉を述べるわけだが、何故かこの場に正妃と第二王子の姿はない。クリス曰く「病気療養のため」、ここ数年は国民の前に姿を見せていないらしい。
 久しぶりに対面した現国王は、親父とそう変わらない年齢のはずなのに、すっかり老け込んでいて、一切の覇気を感じなかった。機嫌を伺うようにちらちらクリスを見るその目には、明らかな怯えが見てとれる。
 以前は何だかんだで父への思慕を捨てられない様子だったクリスだが、学校を卒業してセネーバとの国交を回復したことで、心境の変化があったのだろう。
 表向きは王太子としてきちんと父王を立てている様子だったが、明らかにその行動は事務的だった。
 王の背を押して一言だけ新年を祝う祝辞を述べさせた後、すぐに下がらせて前に進み出て、朗々と祝いの言葉を述べはじめたクリスの姿は、小柄ながらも威厳に満ちていて。
 どちらが真の王者であるかは、誰が見ても明白だった。

「ーーそれでは。国交回復二年目を祝し、我が国に来賓として足を運んでくれたセネーバ第二王子を紹介しよう」
 
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