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男装の麗人①

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 リシス王国王都の冬の祭典、新年祭。
 地球と同じように、冬のさなかにやってくる年の切り替わりに合わせ、国中の人々が城下町に集まって、飲めや歌えやで一日中新しい年をお祝いする。
 で、当然この祭りも、王家が国民に向けて新しい年を祝うスピーチを行なったりするわけで。
 クリスはそのスピーチに、セネーバからの国賓としてアストルディアも参加させ、そこで俺との婚姻を大々的に発表させようと画策しているのだ。
 しかし、辺境伯領と違い、ドリフィス教の影響が強い王都。ただでさえ嫌悪の対象である獣人が、さらに同性愛の禁忌まで犯して自国貴族と結婚するとなると、よけい反発は大きくなる。
 で、それを緩和する為にクリスが提案したのが、俺に女装させて、「辺境伯領嫡男は実は男装の麗人だった」と国民に思わせること。……無理があり過ぎて、脳みそが理解を拒絶してるんだが。

「もう既に、エディが男装の麗人だって噂は、王都中に撒いてあるんだよ。さすがにエディのことを直接知ってる貴族は騙されてはくれないとは思うけど、そっちは何とでもなるから。要は一般市民さえ騙せればいいんだ」

「……いや、さすがに無理があるだろ」

 スピーチをする時だけなら、遠目だから何とかなるかもしれないが、その後さらに、無理やり婚姻を結ばされたわけではないことをアピールする為に、二人で仲良く祭り会場を散策して欲しいと言われている。
 ちなみにその際は、敢えて護衛などはつけない予定だ。襲撃する馬鹿がいたら返り討ちにして強さを見せつけられるし、リシス王国内で襲われた事件をセネーバ第二王子が鷹揚に許すことで、クリス以外の王家に貸しも作れるので、逆に何かしらの事件が起きることを期待してのことである。

「確かに俺は顔だけなら、女顔だけどな。骨格も筋肉も完全に男なんだよ。近くで見られたらバレるに決まってんだろ」

 ガッツリマッチョではないけど、俺は細身ながらもしっかり筋肉がついた体をしている。身長は180弱あるし、女性に比べれば首も太く肩幅も広い。喉仏もしっかりあるしな。
 顔だけなら、普通に絶世の美女になる自信はあるが、体形ばかりは誤魔化せない。
 ひょろいクリスの方が、よっぽど女装に向いてると思う。

「だから、やりようだってさ~。僕に任せてよ。ちゃんと、絶世の美姫に仕立てあげるからさ」

 ニヤニヤと笑うクリスの顔が、大変胡散臭い。
 こいつ、俺に似合わない女装させて、恥をかかせたいだけじゃないよな……。いや、さすがにこの大舞台で、そんなたちの悪い嫌がらせはしないと思うが。

「ふふふ。エディは素のままでも美人だから、腕がなるなあ。エディは骨格がどうのって気にしてるけど、人は圧倒的な美を前にしたら、意外と細かい粗なんて目に入らないもんなんだよ。当日楽しみにしてて」

 残念ながら、今の所一貴族に過ぎない俺では、我が国最凶の王太子様には逆らえない。
 実際俺を女と勘違いしてもらった方が、まだ反発は少ないのは確かだし。
 招かれた王都のクリスが個人所有している屋敷の中で、俺はげんなりしながら、女装前提で当日の計画について話を進めた。

 ……女装が気持ち悪くて、アストルディアにもげんなりされたらどうしよう……とか、思っちゃうとこが脳内ドピンクなんだよ! アストルディアの反応より、一般市民の反応を心配しろ、俺!



 喉仏と首の太さを隠す為の、宝石があしらわれた幅広なチョーカー。
 敢えて鎖骨周りはしっかり出るデザインのドレスは、肩から腕にかけてはふんわり広がっていて、肩幅や腕の太さが傍目からはわからないようになっている。
 通常より高めの所から広がった裾は、足元まで隠す丈なので、足を曲げて身長を誤魔化してもバレない。
 そしてその上に乗っかるのは、長い巻毛の金髪の鬘をかぶり、化粧を施した俺の顔。

「……わーお。信じられないくらい、エレナ姫そっくりー」

 鏡に映った絶世の美女が、引きつった笑みを浮かべた。
 ……自分で言うのも何だが、こんな顔ですら無駄に麗しいな。おい。
 
 
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