189 / 311
駆けつけてくれる人①
しおりを挟む
思った以上にすんなり、その言葉は舌から溢れた。
「必要な、ことだった。後悔はしてない。……だけど、大切な人達だったんだ。家族みたいに思ってた、人達だったんだ」
人間を殺したと言うこと自体には、自分でも驚くくらいに、罪悪感を抱いていない。
人を殺すのも、魔物を殺すのも、何も変わらない。全く素性がわからない敵であれば、俺は人間であっても躊躇いなく殺すことができただろう。
けれど、俺が殺したのは、素性がわからない敵ではなく、師匠として幼い頃から頼りにして来たジジイ共だ。さすがの俺でも、そう簡単には割り切れない。
「俺はこれからも、必要ならば人を殺す。……たとえ、それが、どれだけ大切に想う相手でも」
それが本当に辺境伯領の為に必要ならば、きっと俺はアストルディアだって殺す。そう決めている。
「だからいつまでもうじうじしてないで、いい加減気持ちを切り替えなきゃってわかってんのに……どうやっても、涙が止まらないんだ」
本当、俺の涙腺は弱々過ぎて困る。
英雄にする為育てた【国境の守護者】がこんな調子じゃ、じじい共があの世でますます失望してるかもなあ。
何の為の講義だって、怒ってっかも。
早く泣き止んで、胸の中に湧き上がった闇を抑え込んで、いつもの調子に戻らなきゃ。
明日からだって、やることは山積みなんだから。
『……エディ。また夜に通信してもいいか』
「え?」
『やらなければならないことが、できた』
それだけ言って通信を切ったアストルディアに、ちょっと拍子抜けする。
……もうちょっと慰めてくれても、良くない? いや、まあ忙しい時に通信してくれただけで、恩の字なんだけど。
内心ちょっとむくれたせいか、少しだけ気持ちが紛れて軽くなった。
「……あったことを誰かに聞いてもらえただけで、少し気が楽になったな」
涙は未だ止まらないし、胸に広がる喪失感だけはどうにもならないけど、恐らくこれは時間が解決してくれるのを待つしかないのだろう。
「……よし、寝るか。寝て、気持ちを切り替えよう」
反対派とどれくらいやり合うことになるかわからなかったから、今日の午後は予定を空けてる。
午後の明るいうちからゴロゴロ昼寝をするなんて、滅多にない贅沢だ。
ベッドに身を投げだして、無理やり目を瞑る。
『エド坊』
『エド』
目を瞑ると、どうしたって過去のジジイ共の面影が浮かんできたけど。
振り切るように、必死に素数を数えて、眠気が訪れるのを待った。
知らぬ間に眠っていたのか、ただボンヤリしているうちに時間が経ったのか、わからない。
少しずつあたりが暗くなり、西日が射し込みはじめた時に、再びアストルディアから通信が届いた。
『ーー思っていたよりも、早く済んだ。今から、外に出れるか』
「外って……」
『ネーバ山の麓に来てくれ。辺境伯領側の』
「はっ!?」
慌てて転移魔法でネーバ山の麓へ移動すると、空から白銀の何かが降ってきた。
「……久しぶりだな。エディ」
絶壁から飛び降りてきた、お犬様状態のアストルディアに、唖然とする。
「午後からの予定を延期してもらって、すぐさま駆けつけたが、全力で駆けてもこれ以上早くは無理だった。待たせて、すまなかったな」
「いや、ちょ、え?」
最初に通信してから、まだ4時間くらいしか経っていないんだけど。そんな短い時間で、セネーバ王都からここまで、あの険しいネーバ山を越えて駆けて来たって、え?
「えと、その……色々突っ込みたいことはあるけど、国境の越えの許可とかは?」
「リシス王国との交易における責任者は、俺だからな。セネーバ側に関しては、出国の許可を取る必要ない。リシス王国側に関しては……まあ、お前が黙ってくれれば、何も問題はない」
ーーそれ、完全に密入国ー!
いいのか、アストルディア。第二王子が、そんな風にサラッと法を犯して!
「必要な、ことだった。後悔はしてない。……だけど、大切な人達だったんだ。家族みたいに思ってた、人達だったんだ」
人間を殺したと言うこと自体には、自分でも驚くくらいに、罪悪感を抱いていない。
人を殺すのも、魔物を殺すのも、何も変わらない。全く素性がわからない敵であれば、俺は人間であっても躊躇いなく殺すことができただろう。
けれど、俺が殺したのは、素性がわからない敵ではなく、師匠として幼い頃から頼りにして来たジジイ共だ。さすがの俺でも、そう簡単には割り切れない。
「俺はこれからも、必要ならば人を殺す。……たとえ、それが、どれだけ大切に想う相手でも」
それが本当に辺境伯領の為に必要ならば、きっと俺はアストルディアだって殺す。そう決めている。
「だからいつまでもうじうじしてないで、いい加減気持ちを切り替えなきゃってわかってんのに……どうやっても、涙が止まらないんだ」
本当、俺の涙腺は弱々過ぎて困る。
英雄にする為育てた【国境の守護者】がこんな調子じゃ、じじい共があの世でますます失望してるかもなあ。
何の為の講義だって、怒ってっかも。
早く泣き止んで、胸の中に湧き上がった闇を抑え込んで、いつもの調子に戻らなきゃ。
明日からだって、やることは山積みなんだから。
『……エディ。また夜に通信してもいいか』
「え?」
『やらなければならないことが、できた』
それだけ言って通信を切ったアストルディアに、ちょっと拍子抜けする。
……もうちょっと慰めてくれても、良くない? いや、まあ忙しい時に通信してくれただけで、恩の字なんだけど。
内心ちょっとむくれたせいか、少しだけ気持ちが紛れて軽くなった。
「……あったことを誰かに聞いてもらえただけで、少し気が楽になったな」
涙は未だ止まらないし、胸に広がる喪失感だけはどうにもならないけど、恐らくこれは時間が解決してくれるのを待つしかないのだろう。
「……よし、寝るか。寝て、気持ちを切り替えよう」
反対派とどれくらいやり合うことになるかわからなかったから、今日の午後は予定を空けてる。
午後の明るいうちからゴロゴロ昼寝をするなんて、滅多にない贅沢だ。
ベッドに身を投げだして、無理やり目を瞑る。
『エド坊』
『エド』
目を瞑ると、どうしたって過去のジジイ共の面影が浮かんできたけど。
振り切るように、必死に素数を数えて、眠気が訪れるのを待った。
知らぬ間に眠っていたのか、ただボンヤリしているうちに時間が経ったのか、わからない。
少しずつあたりが暗くなり、西日が射し込みはじめた時に、再びアストルディアから通信が届いた。
『ーー思っていたよりも、早く済んだ。今から、外に出れるか』
「外って……」
『ネーバ山の麓に来てくれ。辺境伯領側の』
「はっ!?」
慌てて転移魔法でネーバ山の麓へ移動すると、空から白銀の何かが降ってきた。
「……久しぶりだな。エディ」
絶壁から飛び降りてきた、お犬様状態のアストルディアに、唖然とする。
「午後からの予定を延期してもらって、すぐさま駆けつけたが、全力で駆けてもこれ以上早くは無理だった。待たせて、すまなかったな」
「いや、ちょ、え?」
最初に通信してから、まだ4時間くらいしか経っていないんだけど。そんな短い時間で、セネーバ王都からここまで、あの険しいネーバ山を越えて駆けて来たって、え?
「えと、その……色々突っ込みたいことはあるけど、国境の越えの許可とかは?」
「リシス王国との交易における責任者は、俺だからな。セネーバ側に関しては、出国の許可を取る必要ない。リシス王国側に関しては……まあ、お前が黙ってくれれば、何も問題はない」
ーーそれ、完全に密入国ー!
いいのか、アストルディア。第二王子が、そんな風にサラッと法を犯して!
575
お気に入りに追加
2,173
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる