俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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駆けつけてくれる人①

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 思った以上にすんなり、その言葉は舌から溢れた。

「必要な、ことだった。後悔はしてない。……だけど、大切な人達だったんだ。家族みたいに思ってた、人達だったんだ」

 人間を殺したと言うこと自体には、自分でも驚くくらいに、罪悪感を抱いていない。
 人を殺すのも、魔物を殺すのも、何も変わらない。全く素性がわからない敵であれば、俺は人間であっても躊躇いなく殺すことができただろう。
 けれど、俺が殺したのは、素性がわからない敵ではなく、師匠として幼い頃から頼りにして来たジジイ共だ。さすがの俺でも、そう簡単には割り切れない。

「俺はこれからも、必要ならば人を殺す。……たとえ、それが、どれだけ大切に想う相手でも」

 それが本当に辺境伯領の為に必要ならば、きっと俺はアストルディアだって殺す。そう決めている。

「だからいつまでもうじうじしてないで、いい加減気持ちを切り替えなきゃってわかってんのに……どうやっても、涙が止まらないんだ」

 本当、俺の涙腺は弱々過ぎて困る。
 英雄にする為育てた【国境の守護者】がこんな調子じゃ、じじい共があの世でますます失望してるかもなあ。
 何の為の講義だって、怒ってっかも。
 早く泣き止んで、胸の中に湧き上がった闇を抑え込んで、いつもの調子に戻らなきゃ。
 明日からだって、やることは山積みなんだから。

『……エディ。また夜に通信してもいいか』

「え?」

『やらなければならないことが、できた』 

 それだけ言って通信を切ったアストルディアに、ちょっと拍子抜けする。
 ……もうちょっと慰めてくれても、良くない? いや、まあ忙しい時に通信してくれただけで、恩の字なんだけど。

 内心ちょっとむくれたせいか、少しだけ気持ちが紛れて軽くなった。

「……あったことを誰かに聞いてもらえただけで、少し気が楽になったな」

 涙は未だ止まらないし、胸に広がる喪失感だけはどうにもならないけど、恐らくこれは時間が解決してくれるのを待つしかないのだろう。

「……よし、寝るか。寝て、気持ちを切り替えよう」

 反対派とどれくらいやり合うことになるかわからなかったから、今日の午後は予定を空けてる。
 午後の明るいうちからゴロゴロ昼寝をするなんて、滅多にない贅沢だ。
 ベッドに身を投げだして、無理やり目を瞑る。

『エド坊』

『エド』

 目を瞑ると、どうしたって過去のジジイ共の面影が浮かんできたけど。
 振り切るように、必死に素数を数えて、眠気が訪れるのを待った。



 知らぬ間に眠っていたのか、ただボンヤリしているうちに時間が経ったのか、わからない。
 少しずつあたりが暗くなり、西日が射し込みはじめた時に、再びアストルディアから通信が届いた。

『ーー思っていたよりも、早く済んだ。今から、外に出れるか』

「外って……」


『ネーバ山の麓に来てくれ。辺境伯領側の』

「はっ!?」

 慌てて転移魔法でネーバ山の麓へ移動すると、空から白銀の何かが降ってきた。

「……久しぶりだな。エディ」

 絶壁から飛び降りてきた、お犬様状態のアストルディアに、唖然とする。

「午後からの予定を延期してもらって、すぐさま駆けつけたが、全力で駆けてもこれ以上早くは無理だった。待たせて、すまなかったな」

「いや、ちょ、え?」

 最初に通信してから、まだ4時間くらいしか経っていないんだけど。そんな短い時間で、セネーバ王都からここまで、あの険しいネーバ山を越えて駆けて来たって、え?

「えと、その……色々突っ込みたいことはあるけど、国境の越えの許可とかは?」

「リシス王国との交易における責任者は、俺だからな。セネーバ側に関しては、出国の許可を取る必要ない。リシス王国側に関しては……まあ、お前が黙ってくれれば、何も問題はない」

 ーーそれ、完全に密入国ー!
 いいのか、アストルディア。第二王子が、そんな風にサラッと法を犯して! 

 
 
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