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収穫祭④

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「……せっかくのお祭りだと言うのに、おかしな空気にしてしまって申し訳ありません。私からは、以上です。残り僅かな時間ではありますが、どうか皆様ごゆるりと収穫祭をお楽しみください」

 最後に声の調子と空気を元の状態に戻して、にこやかに笑う。
 お通夜のような状態のまま、夜の店仕舞いまで過ごさせしまうのは申し訳ないが、まあ酒でも飲んで何とか気分を盛り上げてくれ。俺の悪口で盛り上がってくれても構わんぞ。
 静まり返った聴衆に背を向けて、さっさと退散しようと思った、その時だった。

「ーーエドワード様、バンザーイ!」

 太くて低い、聞き覚えのある声が広場に響き渡る。

「【国境の守護者】様、バンザーイ! 未来のセネーバ第二王子妃、バンザーイ! 俺はお前を支持するぜ。アディ。お前ほど、俺ら辺境伯領の民を想ってる奴は、他にいねぇからな!」

 振り向かなくてもわかる声の主に、演技でなく泣きそうになった。
 ……おいおい、ゼルさん。あんた、そんなキャラじゃねぇだろ。

「っ俺も、アディ様、じゃなくて、エドワード様を支持します。【国境の守護者】様、バンザーイ!」

「あんたには、既にたくさん儲けさせてもらってるからね。僕もあんたを支持するよ。きっとそっちのが儲かるだろうし」

「っわ、私もエドワード様を支持します! エドワード様がセネーバと交易をはじめてくれたおかげで、潰れかけの魔道具屋だったうちの店は、経営を立て直すことができて、病気の弟に薬を買ってあげられるようになりました! セネーバと友好関係を築こうと奮起なさっているエドワード様を、辺境伯領の魔石に関わる職のものは皆、支持しております!」

「血気盛んな男衆は戦争もどんと来いなんて言っちゃいるが、それで割りを食うのは、いつだって残される女子供さ。戦争なんて、止められんなら止めた方がいいに決まってる。うちの領で一番偉い坊ちゃんが体を張って戦争を防ごうとしてくれるのに、それを恥だと思う奴の方が恥知らずの大馬鹿もんさ。誰がなんと言おうと、私はエドワード様を尊敬するね!」

「今の辺境伯領があるのは、全てエドワード様のおかげだ! そのエドワード様が俺らの為に一大決心してくださったことを、面子がどうの何てくだらない理由で反対する奴は、恩知らずにも程があるぜ!」

 ディックや、いつの間にか祭りに参加していたニック。知り合いから始まった支持の声は、どんどんと広まっていき、やがて広場中から俺の支持を表明する声があがるようになった。
 人間不信で、まともな手駒すら作ることができない十年だと思っていた。
 ーーけれど、俺が今までして来たことは、確かに辺境伯領の民に届いていて。
 振り返ってお礼を言いたいけど、きっと今俺は、ものすごく情けない顔をしている。
 こんな顔を見せたら、せっかく威厳を示したのに台無しだ。

「ーーありがとう」

 小さく呟いた声を、転移魔法と風魔法を併用して、賛同の声をあげてくれた一人一人に届け、そのまま転移魔法を使ってその場を去った。
 転移した、誰もいない国境の森の中で、鼻水と一緒に次々と溢れてくる涙を拭う。

 誰一人支持してくれなかったとしても、俺は辺境伯領を守るつもりではいた。
 けれど、きちんと俺が成したことを評価して、その上で俺を支持してくれる人がたくさんいたことは、思っていた以上に嬉しくて。
 
 その気持ちが、明日を迎える勇気になった。



「……やっぱり来ましたか。アダム。そして、セドリック」

「敬語使うなっつってんだろうが。エド坊」

「師を呼び捨てにするとは、どういうつもりだ。エド」

「わざと決まっているでしょう。あんたらとの決別の表明の為に、敢えて逆の態度取ってんだよ」

 翌日の昼。
 たくさんの魔法士や剣士を引き連れてやって来た、Wじじい共を睨めつける。

「それじゃあ闘技場に、向かいましょう。全員まとめて相手してやっからよ」

「勘違いすんじゃねぇ。エド坊。こいつらは、あくまで見学だ。何十人束になろうが、お前に敵うわきゃねぇって、さすがにこいつらだってわかってる。どうせ魔法で一網打尽にされて、終わりだろ。やるだけ時間の無駄だ」

「それじゃあ……」

「ああ。戦うのは、私とアダムの二人だ。……ただし」

 ……ああ、やだなぁ。やっぱ。

「俺とお前が使うのは、木刀じゃなく真剣だ」

「そして、私とお前が使う魔法も、危険度関係なしに無制限で使用可とする」

 どうやっても俺は、このじじい共と殺し合わなきゃなんねぇのか。



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