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結婚に向けて⑦
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「……エドワード。お前は既に【国境の守護者】であり、英雄の偶像だ。お前がセネーバに嫁ぐことを知れば、お前を慕う辺境伯領の民もまた、レオナルド同様に反対するだろう」
まっすぐ俺を見据えながら、親父が口を開いた。
「内心では常にセネーバの侵攻を恐れ続けていた辺境伯領の民にとって、お前の存在は寄す処だ。レオナルドのようにお前の犠牲を嘆くだけならさほど害はないが、中には当然お前に失望するものも現れる。お前さえいてくれれば獣人を恐れる必要はないと、そう自らを奮い立たせて来た者からすれば、お前がセネーバに嫁ぐことは裏切りも同然だ。そういった輩は自暴自棄になって、寄す処を失った恐怖を怒りに変え、お前にぶつけようとしてくるだろう」
「……理解してます」
少なくともWじじい共の息がかかった奴らは、全力で婚姻を妨害しようとしてくるだろう。最悪、俺を殺すことすら案に入っているかもしれない。
実に愚かなことだ。
「逆らうなら、力で押さえ付けます。俺にすら敵わないようなものが、アストルディアに敵うはずがないと言うことを体に教え込みます。場合によっては、その命を奪うことも辞しません」
命よりも誇りをと言うならば、獣人ではなく俺が、彼らの誇りを守る為に殺してやる。
どの道戦争で命を散らすことになるのなら、時期が早くなるだけの話だ。
できる限り言葉を尽くして説得するつもりだが、言葉でどうにもならないならば暴力で支配するしかない。
たとえその結果多くの犠牲者が出たとしても、戦争で生じる犠牲者より少ないならば、それは必要な犠牲だ。
「その結果、恨みを買うことになってもか」
「誰に恨まれようと、蔑まれようと構いません。それで、ネルドゥース辺境伯領が守れるのならば」
感謝され、称えられたいから、救うわけではない。
辺境伯領を守るのが俺の使命だから、そうするだけだ。
俺がどれだけ辺境伯の為を思っているか分からない、分かろうとしない奴らが勝手なことを言っていれば、腹は立つが、だからと言ってそいつらを切り捨てたり、優柔不断に計画を変更したりはしない。
俺は、俺のやり方でネルドゥース辺境伯領を守る。
誰がそれを批難したとしても、きっとアストルディアだけは、そんな俺を肯定してくれるはずだから。
「……そうか。お前はそこまで、覚悟を決めているのか」
小さなため息と、少しの沈黙。
それから親父は伏せていた黒曜石の目を、再び俺に向けた。
「ちょうど来月は収穫祭。辺境伯領中の民が、領都に集まってくる。祭りの終盤に、お前が民の前に立つ時間を設けるから、そこで自らセネーバに嫁ぐことを宣言するといい」
「っ父上!」
「黙れ、レオナルド。これは父ではなく、領主としての命令だ」
「っ」
涙目で黙り込んだレオを一瞥して、親父は言葉を続けた。
「上手く誘導すれば、祭りの高揚感を利用して民に婚姻を祝福させることもできるかもしれないが、恐らくそうはならないだろう。だが、お前が自ら宣言しない限り、けして辺境伯領の民がこの婚姻に納得しないことは間違いない。お前が決めたことが、どれだけ辺境伯の民に影響を及ぼすのかその目で直接確かめたうえで、その結果生じた混乱を一人で治めるんだ。できるか、エドワード」
できるか、できないかの問題じゃない。
「ーーやります」
「兄上っ!」
印象操作の為に先にそれとなく噂を流すべきかとか、色々考えもしたが、残念ながら俺にはそう言うことに適した駒はいない。
噂が広まるにつれて俺が望まない尾鰭がついてしまうくらいなら、いっそ最初から大勢の前で自分で宣言した方がいいに違いない。
乾ききった唇を舐め、大きく深呼吸する。
大勢の民の前で、民が望んでいないだろう獣人との婚姻を宣言するのは、なかなかの勇気がいる。
言うならば、有名人が不特定多数の人々前で同性愛者だと叫んでカミングアウトするようなものだからな。その宣言に、二国間の未来がかかっているのだから、なおさらだ。
祭りで浮かれていた辺境伯領の民が、パニックを起こして暴動に発展する可能性もある。正直、怖くないかと言えば、嘘になる。
まっすぐ俺を見据えながら、親父が口を開いた。
「内心では常にセネーバの侵攻を恐れ続けていた辺境伯領の民にとって、お前の存在は寄す処だ。レオナルドのようにお前の犠牲を嘆くだけならさほど害はないが、中には当然お前に失望するものも現れる。お前さえいてくれれば獣人を恐れる必要はないと、そう自らを奮い立たせて来た者からすれば、お前がセネーバに嫁ぐことは裏切りも同然だ。そういった輩は自暴自棄になって、寄す処を失った恐怖を怒りに変え、お前にぶつけようとしてくるだろう」
「……理解してます」
少なくともWじじい共の息がかかった奴らは、全力で婚姻を妨害しようとしてくるだろう。最悪、俺を殺すことすら案に入っているかもしれない。
実に愚かなことだ。
「逆らうなら、力で押さえ付けます。俺にすら敵わないようなものが、アストルディアに敵うはずがないと言うことを体に教え込みます。場合によっては、その命を奪うことも辞しません」
命よりも誇りをと言うならば、獣人ではなく俺が、彼らの誇りを守る為に殺してやる。
どの道戦争で命を散らすことになるのなら、時期が早くなるだけの話だ。
できる限り言葉を尽くして説得するつもりだが、言葉でどうにもならないならば暴力で支配するしかない。
たとえその結果多くの犠牲者が出たとしても、戦争で生じる犠牲者より少ないならば、それは必要な犠牲だ。
「その結果、恨みを買うことになってもか」
「誰に恨まれようと、蔑まれようと構いません。それで、ネルドゥース辺境伯領が守れるのならば」
感謝され、称えられたいから、救うわけではない。
辺境伯領を守るのが俺の使命だから、そうするだけだ。
俺がどれだけ辺境伯の為を思っているか分からない、分かろうとしない奴らが勝手なことを言っていれば、腹は立つが、だからと言ってそいつらを切り捨てたり、優柔不断に計画を変更したりはしない。
俺は、俺のやり方でネルドゥース辺境伯領を守る。
誰がそれを批難したとしても、きっとアストルディアだけは、そんな俺を肯定してくれるはずだから。
「……そうか。お前はそこまで、覚悟を決めているのか」
小さなため息と、少しの沈黙。
それから親父は伏せていた黒曜石の目を、再び俺に向けた。
「ちょうど来月は収穫祭。辺境伯領中の民が、領都に集まってくる。祭りの終盤に、お前が民の前に立つ時間を設けるから、そこで自らセネーバに嫁ぐことを宣言するといい」
「っ父上!」
「黙れ、レオナルド。これは父ではなく、領主としての命令だ」
「っ」
涙目で黙り込んだレオを一瞥して、親父は言葉を続けた。
「上手く誘導すれば、祭りの高揚感を利用して民に婚姻を祝福させることもできるかもしれないが、恐らくそうはならないだろう。だが、お前が自ら宣言しない限り、けして辺境伯領の民がこの婚姻に納得しないことは間違いない。お前が決めたことが、どれだけ辺境伯の民に影響を及ぼすのかその目で直接確かめたうえで、その結果生じた混乱を一人で治めるんだ。できるか、エドワード」
できるか、できないかの問題じゃない。
「ーーやります」
「兄上っ!」
印象操作の為に先にそれとなく噂を流すべきかとか、色々考えもしたが、残念ながら俺にはそう言うことに適した駒はいない。
噂が広まるにつれて俺が望まない尾鰭がついてしまうくらいなら、いっそ最初から大勢の前で自分で宣言した方がいいに違いない。
乾ききった唇を舐め、大きく深呼吸する。
大勢の民の前で、民が望んでいないだろう獣人との婚姻を宣言するのは、なかなかの勇気がいる。
言うならば、有名人が不特定多数の人々前で同性愛者だと叫んでカミングアウトするようなものだからな。その宣言に、二国間の未来がかかっているのだから、なおさらだ。
祭りで浮かれていた辺境伯領の民が、パニックを起こして暴動に発展する可能性もある。正直、怖くないかと言えば、嘘になる。
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