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結婚に向けて⑤

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「全ては、ネルドゥース辺境伯領を守るためだ。セネーバを敵にするより、婚姻という目に見える形で友好関係を結んだ方が、より確実にこの地と民を守れる」

「だからって、なんで兄上が……」

「俺でなければいけないんだ。相手は一国の第二王子。その立場に見合うだけのものを、こちらも差し出さなければ、対等な友好関係は築けない。俺は身分こそ劣るが、魔力量が多くて、剣の腕もある。何より、アストルディア殿下との魔力相性がいい。強さと魔力が重視されるセネーバの価値基準では、王族に嫁いでも諸手を上げて歓迎される条件を満たしているんだ。それに殿下は、俺と志を共にする親友でもある。二国の友好関係を築く為に、尽力すると誓ってくれた。二人で世界を変えようと、そう約束したんだ」

 人身御供だなんて、思わない。
 寧ろアストルディアに並び立つ為の条件を満たした、数少ない人間が自分であったことを、誇りにすら思う。 
 まっすぐにレオを見据えて、言い放つ。

「俺は、セネーバに嫁いで、セネーバの内側から辺境伯領を守る。どこに行っても、どんな立場になっても、俺は【国境の守護者】で、俺の第一は辺境伯領だ。何があっても、セネーバに辺境伯領を攻めさせはしない。だからレオ、お前には辺境伯領を内側から守って欲しい。辺境伯嫡男にして、次期領主として」

 弟のレオは、強火ブラコンではあるが、聡明な子どもだ。
 俺のようなチート能力や前世の記憶はなくても、頭の回転は同じ年齢だった頃の俺に勝る。
 その分剣や魔法の才能はいまいちだったわけだが、セネーバと違ってリシス王国は別に力が最重視されるわけでもない。親父のように私兵の統率は才能があるものに任せて(まあ俺としては、結果的に親父が任せた相手は間違ってたとは思っているが……)、領主としての仕事を全うすればいい。
 俺としてはせっかく強火ブラコンに育ったからには、セネーバに嫁いだ後もレオの好感度を維持して、外からも内からも俺が意図した通りに辺境伯領を動かせるようにしておきたい。俺と親父がいなくなった状況で、領主となったレオが他の奴らの甘言に乗ってセネーバに攻め込んできたりしたら、全てが水の泡だ。
 そんなわけで、レオの俺に対する敬愛を維持したまま、上手く俺の協力者にできるように、格好良くこんなことを言ってみたわけだが……頼むから、レオ、俺が獣人に掘られてるとこだけは想像すんなよ。
 どんだけ格好良いこと言っても、「でも、こいつ獣人にケツ掘られてんだよな」と、純粋に嫌悪感を持たれたら負けだ。
 レオ、お前は同性愛者を嫌悪するような子じゃないよな? 兄ちゃん、お前は愛の形は様々だって思える良い子だって信じてるからな。な? な? な?

「ーー嫌です」

「っ」

「僕が……僕が今まで頑張って勉強してきたのは、辺境伯を継いで領主になる為じゃありません……僕は、将来辺境伯になる兄上を支える為に、頑張ってきたんです……辺境伯として、領主として、【国境の守護者】として、重すぎる責任を負わされる兄上を少しでもお助けしたいと……兄上と共に、辺境伯領を盛りたてたいと、ただそう思って……」

 ……ちょっと待て。レオ。
 涙目で震えながら言ったその言葉、俺よりも親父にクリティカルヒットしてる。胸を押さえて、わかりやすくフルフルしてる。
 そりゃ、昔の自分とそっくりなレオが、昔の自分と同じようなこと言ったら、来るものがあるわな。
 わかる。とてもわかるけど、とても困る。
 客観的に考えれば、辺境伯として親父が、俺をセネーバに送り出さないといけない状況なのは間違いない。親父の了承はなかったとは言え、既に他国の王族と俺の間には既成事実があるのだ。認めなければ、それこそ国際問題に発展する。
 今の親父ならきっと感情論だけで俺の言葉を退けはしないと思っていたが、レオの言葉で雲行きが怪しくなってきた……何とか二人まとめて、上手く丸めこまなくては。
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