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結婚に向けて①
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次の日。使用人を介して呼び出されたので領主部屋に出向いたら、親父から背を向けたまま「……俺は、お前を支持する」とだけ言われて、即部屋を追い出された。
……ツンデレか?
いきなりここで、態度が急変しても気持ち悪いが、親父のツンデレに果たして需要があるのか悩む。
まあ、でも言質は取った。今後は遠慮なく……いや、今後も遠慮なくバンバン改革を進めさせてもらう。
じじい共はきな臭いが、とりあえず動く気はなさそうだ。となると、気になるのは、セネーバの動向である。
『確かに、戦争派の声も大きくなってきてはいるが、徐々に和平派も増えてきてはいるぞ』
指輪越しに、アストルディアがため息を吐く。
『だが、やはり人間との交流する機会が増えれば増えるほど、「人間を孕ませたい」と思う獣人が多くなって来ているのも確かだ。お前が装備させた魔道具のおかげで未遂に済んだが、実際に強姦事件も起きかけたしな』
「……あれか」
先日派遣した鉱夫の一人が、獣人鉱夫に告白され、同性は恋愛対象にできないと断ったところ、そのまま押し倒されて襲われかけた事件があった。
俺特製魔道具のおかげで、獣人鉱夫は即失神して事なきを得たわけだけど、襲われたのがめちゃくちゃ屈強でガチムチな男だったので、当然ながら鉱夫の人達はめちゃくちゃ動揺して、セネーバにはもう派遣しないでくれと泣きついてきた人までいた。
襲われるかもって思ってるのと、実際襲われた人が出たのじゃ違うよな。気持ちはわかる。
一月ほど不能になった加害者に被害者が同情して、「好意が暴走しただけ」と、減刑を求めてくれたのがせめてもの救いだ。
ゼルさんが「アディの魔道具がちゃんと機能するって証明されたのに、何ビビってんだよ。性的対象に見られるだけで嫌がるとか、お前らはどこの貴族令嬢だ」って発破かけてくれた結果、派遣鉱夫の数を減らさなくて済んだし。
「魔力がほとんどない人でも、襲われるんだなー……」
『獣人は本能的に、強い相手に惹かれると言っただろう。屈強な鉱夫は、魔力がなくても獣人にとって性的対象にはなりうる。魔力相性は人間で言うところの家柄、魔力量は容姿の良さだとでも思ってくれたら、わかりやすいかもしれないな。家柄が劣ったり、容姿がさほど優れてない相手でも、惹かれる時は惹かれるものだろう』
「……なるほど。顔や家柄が良くなくても、性的魅力ムンムンなら惚れられてもおかしくないな」
『もっとも。強さがなかったとしても、惹かれることもある。恋とはするものではなく、落ちるものだからな』
「まるで、恋に落ちたことがあるような口ぶりだな」
『…………』
ちょっとした軽口のつもりだったのに、黙り込んでしまったアストルディアに、罪悪感が刺激される。
……そりゃそうだよな。狼獣人は生涯ただ一人しか番が持てないのに、俺達にあるのは打算と、諸々の相性や友情であって、恋じゃない。
共にいるうちに番としての絆が愛情に変わることはあったとしても、それが恋になることはないのだろう。ーーアストルディアと恋に落ちるのは、原作主人公の特権だから。
それなのに、ちょっと意地悪な台詞だった。
「ああ、その、何だ? ……取り敢えず、獣人の『人間を孕ませたい』という本能を何とかしなきゃって、話だよな」
謝るのも微妙な気がしたので、取り敢えず話を本題に戻すことにした。
「ずっと孕ませたいと思ってた種族が頻繁に目の前に現れるようになって、ただただ我慢しろというのも酷な話だよな。なんか言い解決策は……」
『ーー獣人と人間が結婚した実例を作って、可能性を示すしかないな』
「……やっぱりぃ?」
元々一年経過したら、正式に結婚しようという計画ではあった。だが、実際に改革を進めてみると、ずっと交流を遮断していた二国間のしこりを埋めるには、一年という期間は短か過ぎる。
……ツンデレか?
いきなりここで、態度が急変しても気持ち悪いが、親父のツンデレに果たして需要があるのか悩む。
まあ、でも言質は取った。今後は遠慮なく……いや、今後も遠慮なくバンバン改革を進めさせてもらう。
じじい共はきな臭いが、とりあえず動く気はなさそうだ。となると、気になるのは、セネーバの動向である。
『確かに、戦争派の声も大きくなってきてはいるが、徐々に和平派も増えてきてはいるぞ』
指輪越しに、アストルディアがため息を吐く。
『だが、やはり人間との交流する機会が増えれば増えるほど、「人間を孕ませたい」と思う獣人が多くなって来ているのも確かだ。お前が装備させた魔道具のおかげで未遂に済んだが、実際に強姦事件も起きかけたしな』
「……あれか」
先日派遣した鉱夫の一人が、獣人鉱夫に告白され、同性は恋愛対象にできないと断ったところ、そのまま押し倒されて襲われかけた事件があった。
俺特製魔道具のおかげで、獣人鉱夫は即失神して事なきを得たわけだけど、襲われたのがめちゃくちゃ屈強でガチムチな男だったので、当然ながら鉱夫の人達はめちゃくちゃ動揺して、セネーバにはもう派遣しないでくれと泣きついてきた人までいた。
襲われるかもって思ってるのと、実際襲われた人が出たのじゃ違うよな。気持ちはわかる。
一月ほど不能になった加害者に被害者が同情して、「好意が暴走しただけ」と、減刑を求めてくれたのがせめてもの救いだ。
ゼルさんが「アディの魔道具がちゃんと機能するって証明されたのに、何ビビってんだよ。性的対象に見られるだけで嫌がるとか、お前らはどこの貴族令嬢だ」って発破かけてくれた結果、派遣鉱夫の数を減らさなくて済んだし。
「魔力がほとんどない人でも、襲われるんだなー……」
『獣人は本能的に、強い相手に惹かれると言っただろう。屈強な鉱夫は、魔力がなくても獣人にとって性的対象にはなりうる。魔力相性は人間で言うところの家柄、魔力量は容姿の良さだとでも思ってくれたら、わかりやすいかもしれないな。家柄が劣ったり、容姿がさほど優れてない相手でも、惹かれる時は惹かれるものだろう』
「……なるほど。顔や家柄が良くなくても、性的魅力ムンムンなら惚れられてもおかしくないな」
『もっとも。強さがなかったとしても、惹かれることもある。恋とはするものではなく、落ちるものだからな』
「まるで、恋に落ちたことがあるような口ぶりだな」
『…………』
ちょっとした軽口のつもりだったのに、黙り込んでしまったアストルディアに、罪悪感が刺激される。
……そりゃそうだよな。狼獣人は生涯ただ一人しか番が持てないのに、俺達にあるのは打算と、諸々の相性や友情であって、恋じゃない。
共にいるうちに番としての絆が愛情に変わることはあったとしても、それが恋になることはないのだろう。ーーアストルディアと恋に落ちるのは、原作主人公の特権だから。
それなのに、ちょっと意地悪な台詞だった。
「ああ、その、何だ? ……取り敢えず、獣人の『人間を孕ませたい』という本能を何とかしなきゃって、話だよな」
謝るのも微妙な気がしたので、取り敢えず話を本題に戻すことにした。
「ずっと孕ませたいと思ってた種族が頻繁に目の前に現れるようになって、ただただ我慢しろというのも酷な話だよな。なんか言い解決策は……」
『ーー獣人と人間が結婚した実例を作って、可能性を示すしかないな』
「……やっぱりぃ?」
元々一年経過したら、正式に結婚しようという計画ではあった。だが、実際に改革を進めてみると、ずっと交流を遮断していた二国間のしこりを埋めるには、一年という期間は短か過ぎる。
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