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クソ親父の闇⑤
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……ああ。だから最近の親父の行動は、あんなにもチグハグだったのか。
獣人への復讐心と、領主としての責任感。生前の兄の意思に、過去のトラウマ。そんなもんがずっと頭の中でごちゃごちゃになって、わけわからんことになってたんだな。……んなの、あんたの過去聞き出してなきゃ、気づけねぇよ。
「俺がお前のように強ければ……どんな選択をしたとしても、その責任は取れた。……だが、俺は弱い……魔法は使えず、鍛えた剣の腕も亡き兄に届かない……俺では、辺境伯の民を守れない……お前じゃ、なければ」
「……本当、あんたは損な性格してるよ」
親父の過去を知っているWじじい共にだって、きっと親父はこんな弱音こぼしていない。たとえ相手が過去の恩人であっても、自分の弱みを曝け出せるような男じゃないから。
脳内お花畑の母にだって、言えなかったはずだ。困惑しながらも話を聞いてくれはするだろうが、恐らく話の内容を半分も理解できないだろうし。
ずっとずっと、一人で抱えて来たのだ。一人で全部抱えて生きてきたのだ。
いくら魔法が使えなくなったとは言え、闇魔法の暴走はまた別の話だ。闇属性持ちの親父が、力を暴走させることなく、これほど大きな闇を抱えて今まで生きてきたことは、素直に尊敬に値することだと思う。よほど、強靭な精神力の持ち主じゃなきゃ、無理だ。
「親父。俺さ……あんたのことがずっと大嫌いだったし、事情を知ってもそう簡単には気持ちは変えられないよ」
仕方なかったのかもしれない。
親父が俺にしていたDVは、原作エドワードが主人公にしたことに比べてずっとマシで。そう考えれば、俺なんかより、ずっと精神的に強い人間なんだろうとも思う。親父じゃなく、領主としては一応尊敬できるしな。
でもだからって、こればかりは簡単に割り切れるもんでもないのだ。
過去の痛みや苦しみは、どうしたって消せない。
「でも、あんただって、辺境伯領の民だ」
頭を抱えて泣いていた親父の体を、優しく抱き締める。
……ここで、親父の体小さくなったと思えれば、もう少し庇護欲が湧くんだが、いかんせんガチムチなんだよなあ。アストルディアほどじゃないけど。
「だからーーあんたのことも俺が守ってやるよ。俺は、辺境伯領と、辺境伯領の民を守る【国境の守護者】だからな」
驚いたように目を見開いた親父に、優しく微笑んだ。
……そういや、親父、人に触られたら拒絶反応出るみたいなこと言ってたけど、俺とのニアミスに関しては別にそういうのなかったよな。積極的に触れ合ったことはなんて、なかったけど。
だから愛されてるなんては思わないけど、何てか、少しだけくすぐったい。
【開口】の影響で薄ぼんやりしていた黒い瞳が、徐々に色を濃くなっていったのが見て取れたので、慌てて体を離して距離をおく。
あーあ。これで、タイムリミットかあ。こんなしおらしい親父、もう見ることないんだろうな。まあ、必要な情報は引き出せたから、良いけど。
目の色が本来の黒さに戻った瞬間、一瞬にして親父の顔が真っ赤に染まった。
「ーーっ!!! お前、俺に闇魔法を!!」
「だって、普通に聞いたら、絶対話してくれねぇじゃん」
「当たり前だ! それに、何だ、その口の聞き方は!」
「これが本来の話し方なんですー。人前ではちゃんと敬語使ってやるから、安心しろよ」
「っそれが、親に対する態度か!」
完全にいつも通りに戻った親父に、少しだけ安心する。
……あー、やっぱり後遺症とかなさそう。結構ギリギリだったんだなあ。
「なあ、親父、気づいてる? 闇魔法使って精神操作したのに、あんたにも俺にも全然後遺症ないってこと」
「っ……」
親父の顔がさらに、真っ赤になった。あはは、茹で蛸みてえ。
「今度からは、悩みがあれば、すぐに俺に言えよ。俺がちゃんと、あんたのこと守ってやるからさ」
「……いらんっ!」
「はいはい」
これ以上虐めたら親父が憤死しそうだったので、それだけ言って部屋を後にした。
闇魔法の使用で生じる後遺症は、かけられた相手の精神的抵抗が強ければ強いほど、大きくなる。
互いにこれだけ後遺症がないのは……本当は親父も誰かに自分の闇を打ち明けて、すがりたかったからに他ならない。
いや、もしかしたら、「誰かに」じゃなく、「俺に」かな。
だとしたら、やっぱり……くすぐったいなあ。
獣人への復讐心と、領主としての責任感。生前の兄の意思に、過去のトラウマ。そんなもんがずっと頭の中でごちゃごちゃになって、わけわからんことになってたんだな。……んなの、あんたの過去聞き出してなきゃ、気づけねぇよ。
「俺がお前のように強ければ……どんな選択をしたとしても、その責任は取れた。……だが、俺は弱い……魔法は使えず、鍛えた剣の腕も亡き兄に届かない……俺では、辺境伯の民を守れない……お前じゃ、なければ」
「……本当、あんたは損な性格してるよ」
親父の過去を知っているWじじい共にだって、きっと親父はこんな弱音こぼしていない。たとえ相手が過去の恩人であっても、自分の弱みを曝け出せるような男じゃないから。
脳内お花畑の母にだって、言えなかったはずだ。困惑しながらも話を聞いてくれはするだろうが、恐らく話の内容を半分も理解できないだろうし。
ずっとずっと、一人で抱えて来たのだ。一人で全部抱えて生きてきたのだ。
いくら魔法が使えなくなったとは言え、闇魔法の暴走はまた別の話だ。闇属性持ちの親父が、力を暴走させることなく、これほど大きな闇を抱えて今まで生きてきたことは、素直に尊敬に値することだと思う。よほど、強靭な精神力の持ち主じゃなきゃ、無理だ。
「親父。俺さ……あんたのことがずっと大嫌いだったし、事情を知ってもそう簡単には気持ちは変えられないよ」
仕方なかったのかもしれない。
親父が俺にしていたDVは、原作エドワードが主人公にしたことに比べてずっとマシで。そう考えれば、俺なんかより、ずっと精神的に強い人間なんだろうとも思う。親父じゃなく、領主としては一応尊敬できるしな。
でもだからって、こればかりは簡単に割り切れるもんでもないのだ。
過去の痛みや苦しみは、どうしたって消せない。
「でも、あんただって、辺境伯領の民だ」
頭を抱えて泣いていた親父の体を、優しく抱き締める。
……ここで、親父の体小さくなったと思えれば、もう少し庇護欲が湧くんだが、いかんせんガチムチなんだよなあ。アストルディアほどじゃないけど。
「だからーーあんたのことも俺が守ってやるよ。俺は、辺境伯領と、辺境伯領の民を守る【国境の守護者】だからな」
驚いたように目を見開いた親父に、優しく微笑んだ。
……そういや、親父、人に触られたら拒絶反応出るみたいなこと言ってたけど、俺とのニアミスに関しては別にそういうのなかったよな。積極的に触れ合ったことはなんて、なかったけど。
だから愛されてるなんては思わないけど、何てか、少しだけくすぐったい。
【開口】の影響で薄ぼんやりしていた黒い瞳が、徐々に色を濃くなっていったのが見て取れたので、慌てて体を離して距離をおく。
あーあ。これで、タイムリミットかあ。こんなしおらしい親父、もう見ることないんだろうな。まあ、必要な情報は引き出せたから、良いけど。
目の色が本来の黒さに戻った瞬間、一瞬にして親父の顔が真っ赤に染まった。
「ーーっ!!! お前、俺に闇魔法を!!」
「だって、普通に聞いたら、絶対話してくれねぇじゃん」
「当たり前だ! それに、何だ、その口の聞き方は!」
「これが本来の話し方なんですー。人前ではちゃんと敬語使ってやるから、安心しろよ」
「っそれが、親に対する態度か!」
完全にいつも通りに戻った親父に、少しだけ安心する。
……あー、やっぱり後遺症とかなさそう。結構ギリギリだったんだなあ。
「なあ、親父、気づいてる? 闇魔法使って精神操作したのに、あんたにも俺にも全然後遺症ないってこと」
「っ……」
親父の顔がさらに、真っ赤になった。あはは、茹で蛸みてえ。
「今度からは、悩みがあれば、すぐに俺に言えよ。俺がちゃんと、あんたのこと守ってやるからさ」
「……いらんっ!」
「はいはい」
これ以上虐めたら親父が憤死しそうだったので、それだけ言って部屋を後にした。
闇魔法の使用で生じる後遺症は、かけられた相手の精神的抵抗が強ければ強いほど、大きくなる。
互いにこれだけ後遺症がないのは……本当は親父も誰かに自分の闇を打ち明けて、すがりたかったからに他ならない。
いや、もしかしたら、「誰かに」じゃなく、「俺に」かな。
だとしたら、やっぱり……くすぐったいなあ。
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