俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
上 下
175 / 311

クソ親父の闇⑤

しおりを挟む
 ……ああ。だから最近の親父の行動は、あんなにもチグハグだったのか。
 獣人への復讐心と、領主としての責任感。生前の兄の意思に、過去のトラウマ。そんなもんがずっと頭の中でごちゃごちゃになって、わけわからんことになってたんだな。……んなの、あんたの過去聞き出してなきゃ、気づけねぇよ。

「俺がお前のように強ければ……どんな選択をしたとしても、その責任は取れた。……だが、俺は弱い……魔法は使えず、鍛えた剣の腕も亡き兄に届かない……俺では、辺境伯の民を守れない……お前じゃ、なければ」

「……本当、あんたは損な性格してるよ」

 親父の過去を知っているWじじい共にだって、きっと親父はこんな弱音こぼしていない。たとえ相手が過去の恩人であっても、自分の弱みを曝け出せるような男じゃないから。
 脳内お花畑の母にだって、言えなかったはずだ。困惑しながらも話を聞いてくれはするだろうが、恐らく話の内容を半分も理解できないだろうし。
 ずっとずっと、一人で抱えて来たのだ。一人で全部抱えて生きてきたのだ。
 いくら魔法が使えなくなったとは言え、闇魔法の暴走はまた別の話だ。闇属性持ちの親父が、力を暴走させることなく、これほど大きな闇を抱えて今まで生きてきたことは、素直に尊敬に値することだと思う。よほど、強靭な精神力の持ち主じゃなきゃ、無理だ。

「親父。俺さ……あんたのことがずっと大嫌いだったし、事情を知ってもそう簡単には気持ちは変えられないよ」

 仕方なかったのかもしれない。
 親父が俺にしていたDVは、原作エドワードが主人公にしたことに比べてずっとマシで。そう考えれば、俺なんかより、ずっと精神的に強い人間なんだろうとも思う。親父じゃなく、領主としては一応尊敬できるしな。
 でもだからって、こればかりは簡単に割り切れるもんでもないのだ。
 過去の痛みや苦しみは、どうしたって消せない。

「でも、あんただって、辺境伯領の民だ」

 頭を抱えて泣いていた親父の体を、優しく抱き締める。
 ……ここで、親父の体小さくなったと思えれば、もう少し庇護欲が湧くんだが、いかんせんガチムチなんだよなあ。アストルディアほどじゃないけど。

「だからーーあんたのことも俺が守ってやるよ。俺は、辺境伯領と、辺境伯領の民を守る【国境の守護者】だからな」

 驚いたように目を見開いた親父に、優しく微笑んだ。
 ……そういや、親父、人に触られたら拒絶反応出るみたいなこと言ってたけど、俺とのニアミスに関しては別にそういうのなかったよな。積極的に触れ合ったことはなんて、なかったけど。
 だから愛されてるなんては思わないけど、何てか、少しだけくすぐったい。
 【開口】の影響で薄ぼんやりしていた黒い瞳が、徐々に色を濃くなっていったのが見て取れたので、慌てて体を離して距離をおく。
 あーあ。これで、タイムリミットかあ。こんなしおらしい親父、もう見ることないんだろうな。まあ、必要な情報は引き出せたから、良いけど。
 目の色が本来の黒さに戻った瞬間、一瞬にして親父の顔が真っ赤に染まった。

「ーーっ!!! お前、俺に闇魔法を!!」

「だって、普通に聞いたら、絶対話してくれねぇじゃん」

「当たり前だ! それに、何だ、その口の聞き方は!」

「これが本来の話し方なんですー。人前ではちゃんと敬語使ってやるから、安心しろよ」

「っそれが、親に対する態度か!」

 完全にいつも通りに戻った親父に、少しだけ安心する。
 ……あー、やっぱり後遺症とかなさそう。結構ギリギリだったんだなあ。

「なあ、親父、気づいてる? 闇魔法使って精神操作したのに、あんたにも俺にも全然後遺症ないってこと」

「っ……」

 親父の顔がさらに、真っ赤になった。あはは、茹で蛸みてえ。

「今度からは、悩みがあれば、すぐに俺に言えよ。俺がちゃんと、あんたのこと守ってやるからさ」

「……いらんっ!」

「はいはい」

 これ以上虐めたら親父が憤死しそうだったので、それだけ言って部屋を後にした。

 闇魔法の使用で生じる後遺症は、かけられた相手の精神的抵抗が強ければ強いほど、大きくなる。
 互いにこれだけ後遺症がないのは……本当は親父も誰かに自分の闇を打ち明けて、すがりたかったからに他ならない。
 いや、もしかしたら、「誰かに」じゃなく、「俺に」かな。
 だとしたら、やっぱり……くすぐったいなあ。
 
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...