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辺境伯領改革計画⑤
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「……それは、貴方のお考えですか。それとも辺境伯領の総意ですか」
総意なら、どれほど楽だったろう。残念ながら、まだ誰にも同意を得られていない、俺個人の独断だ。
「私個人の考えです。ですが、最終的には必ず領民を説得して、従わせます。私には、その力があるので」
「……武力が高い、信頼できる部下はいないのに?」
「我が領における全ての兵力よりも、私の方が強いですから」
話を聞いていた領民がざわめく姿を横目で見ながら、断言する。
無理だとは思わない。俺は【国境の守護者】だ。対アストルディア以外では、最強の存在だと自負している。
最悪力で押さえ付けてでも、領民達を従わせる。それが、彼らを守る為の最善の手段だと信じているから。
「なので、問題はセネーバの方です。セネーバが開戦を望むのならば、私は戦争を止めることはできないでしょう。けれど貴方の主は、私にセネーバ側からの開戦を止めると約束してくれた。あとはただ、貴方の主を信じるだけです」
人を信じるのは、怖い。利害関係でつながっていない相手なら、特に。
俺はリシス王国から戦争を仕掛けることのデメリットはいくらでもあげられるが、セネーバ側の視点で考えるも戦争を仕掛けることに利益がないとは口が裂けても言えない。
だって彼らは戦争で、最終的に勝利することが運命づけられている。魔力の高い人間を従わせてより強い個体を産ませることができるメリットは、戦争の結果生じる犠牲よりも恐らく大きい。
リシス王国を掌握できれば、現段階では潜在的ながら最大の敵国であるレンリネドとの関係も、優位に進めることができる。原作の舞台で、大陸の状況について詳しい説明はなかったが、リシス王国との戦争を足がかりにして、大陸全土をセネーバが統一していた可能性も十分あるのだ。
戦争がはじまれば、リシス王国からすれば地獄だが、セネーバ国民からすればそうとは限らない。
それでもアストルディアは、戦争を止めたいと言ってくれた。
そして、俺はそんなアストルディアを信じると決めたのだ。
「私は世界中の誰よりも、貴方の主を信用しています。彼ならばきっと、セネーバとリシス王国の現状を何とかしてくれるはずだと。だから私はこの地で、できることを精一杯するだけです」
一人で未来を変えるだなんて、もう言わない。
アストルディアと二人で、新しい未来を作る。
だからこそ俺は、アストルディアがいない今の状況で、セネーバと辺境伯領の未来についてはっきり言及はしない。未来はもう、俺一人の手の中にはないから。
俺の言葉にチルシアさんは嬉しそうに笑って、頭を下げた。
「出過ぎた問いをしましたが……それでも、今日、この場で貴方の言葉を聞けて良かった。貴方は、主と肩を並べるのにふさわしい御方だと、確信できました」
そう言ってチルシアさんは、片膝をついたまま俺の手を取り、手の甲にそっと口づけた。
「貴方が、我が主と志を同じくする限り、貴方にも私の忠誠を捧げることを誓いましょう。どうか、いつまでも変わらず、そのままの貴方でいてください」
……やべぇ。チルシアさんが、正当化イケメン過ぎて、背景に白百合が散ってキラキラしてる幻想が見える。
小さい女の子が目撃したら、これ初恋泥棒しちゃうんじゃないかな……はっ! アニカが頬を赤らめてぽーっとこっちに見惚れてる! やだやだやだ、アニカの初恋持ってかないで!
「……すごい。獣人の方も、エドワード様も、ものすごい美しいから絵になり過ぎる」
「私、獣人を性別構わず妊娠させる恐ろしい存在だと思ってたけど、あれならあり。というか、男女の恋愛にない、不思議なときめきを感じちゃった。性別を超過した愛、的な」
「エドワード様下手な女の人よりずっとお美しいから、
子ども産んでも全然気持ち悪いなんて思わないし。というか、獣人の赤ちゃん抱っこして聖母の微笑みを浮かべてるエドワード様を想像しただけで鼻血出そう」
「な、なんか、あの二人をモデルにした物語描きたくなってきた」
「じ、実は私は、あの二人をモデルにした絵を描きたい」
「え、出来上がったら見せて!」
「私も見たい!」
チルシアさんのイケメンムーブの結果、唐突に我が領民の間に腐女子が爆誕してたのは、良いんだか、悪いんだか……。
ごめんな。俺の番は、チルシアさんみたいに小柄でカッコ可愛い中性的美形じゃなく、超絶美形だけどデカゴツなアストルディアなんだ……腐女子の皆様のお口に合って、良さげなイメージを広めてくれると良いんだが。
総意なら、どれほど楽だったろう。残念ながら、まだ誰にも同意を得られていない、俺個人の独断だ。
「私個人の考えです。ですが、最終的には必ず領民を説得して、従わせます。私には、その力があるので」
「……武力が高い、信頼できる部下はいないのに?」
「我が領における全ての兵力よりも、私の方が強いですから」
話を聞いていた領民がざわめく姿を横目で見ながら、断言する。
無理だとは思わない。俺は【国境の守護者】だ。対アストルディア以外では、最強の存在だと自負している。
最悪力で押さえ付けてでも、領民達を従わせる。それが、彼らを守る為の最善の手段だと信じているから。
「なので、問題はセネーバの方です。セネーバが開戦を望むのならば、私は戦争を止めることはできないでしょう。けれど貴方の主は、私にセネーバ側からの開戦を止めると約束してくれた。あとはただ、貴方の主を信じるだけです」
人を信じるのは、怖い。利害関係でつながっていない相手なら、特に。
俺はリシス王国から戦争を仕掛けることのデメリットはいくらでもあげられるが、セネーバ側の視点で考えるも戦争を仕掛けることに利益がないとは口が裂けても言えない。
だって彼らは戦争で、最終的に勝利することが運命づけられている。魔力の高い人間を従わせてより強い個体を産ませることができるメリットは、戦争の結果生じる犠牲よりも恐らく大きい。
リシス王国を掌握できれば、現段階では潜在的ながら最大の敵国であるレンリネドとの関係も、優位に進めることができる。原作の舞台で、大陸の状況について詳しい説明はなかったが、リシス王国との戦争を足がかりにして、大陸全土をセネーバが統一していた可能性も十分あるのだ。
戦争がはじまれば、リシス王国からすれば地獄だが、セネーバ国民からすればそうとは限らない。
それでもアストルディアは、戦争を止めたいと言ってくれた。
そして、俺はそんなアストルディアを信じると決めたのだ。
「私は世界中の誰よりも、貴方の主を信用しています。彼ならばきっと、セネーバとリシス王国の現状を何とかしてくれるはずだと。だから私はこの地で、できることを精一杯するだけです」
一人で未来を変えるだなんて、もう言わない。
アストルディアと二人で、新しい未来を作る。
だからこそ俺は、アストルディアがいない今の状況で、セネーバと辺境伯領の未来についてはっきり言及はしない。未来はもう、俺一人の手の中にはないから。
俺の言葉にチルシアさんは嬉しそうに笑って、頭を下げた。
「出過ぎた問いをしましたが……それでも、今日、この場で貴方の言葉を聞けて良かった。貴方は、主と肩を並べるのにふさわしい御方だと、確信できました」
そう言ってチルシアさんは、片膝をついたまま俺の手を取り、手の甲にそっと口づけた。
「貴方が、我が主と志を同じくする限り、貴方にも私の忠誠を捧げることを誓いましょう。どうか、いつまでも変わらず、そのままの貴方でいてください」
……やべぇ。チルシアさんが、正当化イケメン過ぎて、背景に白百合が散ってキラキラしてる幻想が見える。
小さい女の子が目撃したら、これ初恋泥棒しちゃうんじゃないかな……はっ! アニカが頬を赤らめてぽーっとこっちに見惚れてる! やだやだやだ、アニカの初恋持ってかないで!
「……すごい。獣人の方も、エドワード様も、ものすごい美しいから絵になり過ぎる」
「私、獣人を性別構わず妊娠させる恐ろしい存在だと思ってたけど、あれならあり。というか、男女の恋愛にない、不思議なときめきを感じちゃった。性別を超過した愛、的な」
「エドワード様下手な女の人よりずっとお美しいから、
子ども産んでも全然気持ち悪いなんて思わないし。というか、獣人の赤ちゃん抱っこして聖母の微笑みを浮かべてるエドワード様を想像しただけで鼻血出そう」
「な、なんか、あの二人をモデルにした物語描きたくなってきた」
「じ、実は私は、あの二人をモデルにした絵を描きたい」
「え、出来上がったら見せて!」
「私も見たい!」
チルシアさんのイケメンムーブの結果、唐突に我が領民の間に腐女子が爆誕してたのは、良いんだか、悪いんだか……。
ごめんな。俺の番は、チルシアさんみたいに小柄でカッコ可愛い中性的美形じゃなく、超絶美形だけどデカゴツなアストルディアなんだ……腐女子の皆様のお口に合って、良さげなイメージを広めてくれると良いんだが。
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