上 下
167 / 311

辺境伯領改革計画⑤

しおりを挟む
「……それは、貴方のお考えですか。それとも辺境伯領の総意ですか」

 総意なら、どれほど楽だったろう。残念ながら、まだ誰にも同意を得られていない、俺個人の独断だ。  

「私個人の考えです。ですが、最終的には必ず領民を説得して、従わせます。私には、その力があるので」

「……武力が高い、信頼できる部下はいないのに?」

「我が領における全ての兵力よりも、私の方が強いですから」

 話を聞いていた領民がざわめく姿を横目で見ながら、断言する。
 無理だとは思わない。俺は【国境の守護者】だ。対アストルディア以外では、最強の存在だと自負している。
 最悪力で押さえ付けてでも、領民達を従わせる。それが、彼らを守る為の最善の手段だと信じているから。

「なので、問題はセネーバの方です。セネーバが開戦を望むのならば、私は戦争を止めることはできないでしょう。けれど貴方の主は、私にセネーバ側からの開戦を止めると約束してくれた。あとはただ、貴方の主を信じるだけです」

 人を信じるのは、怖い。利害関係でつながっていない相手なら、特に。
 俺はリシス王国から戦争を仕掛けることのデメリットはいくらでもあげられるが、セネーバ側の視点で考えるも戦争を仕掛けることに利益がないとは口が裂けても言えない。
 だって彼らは戦争で、最終的に勝利することが運命づけられている。魔力の高い人間を従わせてより強い個体を産ませることができるメリットは、戦争の結果生じる犠牲よりも恐らく大きい。
 リシス王国を掌握できれば、現段階では潜在的ながら最大の敵国であるレンリネドとの関係も、優位に進めることができる。原作の舞台で、大陸の状況について詳しい説明はなかったが、リシス王国との戦争を足がかりにして、大陸全土をセネーバが統一していた可能性も十分あるのだ。
 戦争がはじまれば、リシス王国からすれば地獄だが、セネーバ国民からすればそうとは限らない。

 それでもアストルディアは、戦争を止めたいと言ってくれた。
 そして、俺はそんなアストルディアを信じると決めたのだ。

「私は世界中の誰よりも、貴方の主を信用しています。彼ならばきっと、セネーバとリシス王国の現状を何とかしてくれるはずだと。だから私はこの地で、できることを精一杯するだけです」

 一人で未来を変えるだなんて、もう言わない。
 アストルディアと二人で、新しい未来を作る。
 だからこそ俺は、アストルディアがいない今の状況で、セネーバと辺境伯領の未来についてはっきり言及はしない。未来はもう、俺一人の手の中にはないから。

 俺の言葉にチルシアさんは嬉しそうに笑って、頭を下げた。

「出過ぎた問いをしましたが……それでも、今日、この場で貴方の言葉を聞けて良かった。貴方は、主と肩を並べるのにふさわしい御方だと、確信できました」

 そう言ってチルシアさんは、片膝をついたまま俺の手を取り、手の甲にそっと口づけた。

「貴方が、我が主と志を同じくする限り、貴方にも私の忠誠を捧げることを誓いましょう。どうか、いつまでも変わらず、そのままの貴方でいてください」

 ……やべぇ。チルシアさんが、正当化イケメン過ぎて、背景に白百合が散ってキラキラしてる幻想が見える。
 小さい女の子が目撃したら、これ初恋泥棒しちゃうんじゃないかな……はっ! アニカが頬を赤らめてぽーっとこっちに見惚れてる! やだやだやだ、アニカの初恋持ってかないで! 

「……すごい。獣人の方も、エドワード様も、ものすごい美しいから絵になり過ぎる」

「私、獣人を性別構わず妊娠させる恐ろしい存在だと思ってたけど、あれならあり。というか、男女の恋愛にない、不思議なときめきを感じちゃった。性別を超過した愛、的な」

「エドワード様下手な女の人よりずっとお美しいから、
子ども産んでも全然気持ち悪いなんて思わないし。というか、獣人の赤ちゃん抱っこして聖母の微笑みを浮かべてるエドワード様を想像しただけで鼻血出そう」

「な、なんか、あの二人をモデルにした物語描きたくなってきた」

「じ、実は私は、あの二人をモデルにした絵を描きたい」

「え、出来上がったら見せて!」

「私も見たい!」

 チルシアさんのイケメンムーブの結果、唐突に我が領民の間に腐女子が爆誕してたのは、良いんだか、悪いんだか……。
 ごめんな。俺の番は、チルシアさんみたいに小柄でカッコ可愛い中性的美形じゃなく、超絶美形だけどデカゴツなアストルディアなんだ……腐女子の皆様のお口に合って、良さげなイメージを広めてくれると良いんだが。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

俺の伴侶はどこにいる〜ゼロから始める領地改革 家臣なしとか意味分からん〜

琴音
BL
俺はなんでも適当にこなせる器用貧乏なために、逆に何にも打ち込めず二十歳になった。成人後五年、その間に番も見つけられずとうとう父上静かにぶちギレ。ならばと城にいても楽しくないし?番はほっとくと適当にの未来しかない。そんな時に勝手に見合いをぶち込まれ、逃げた。が、間抜けな俺は騎獣から落ちたようで自分から城に帰還状態。 ならば兄弟は優秀、俺次男!未開の地と化した領地を復活させてみようじゃないか!やる気になったはいいが……… ゆるゆる〜の未来の大陸南の猫族の小国のお話です。全く別の話でエリオスが領地開発に奮闘します。世界も先に進み状況の変化も。番も探しつつ…… 世界はドナシアン王国建国より百年以上過ぎ、大陸はイアサント王国がまったりと支配する世界になっている。どの国もこの大陸の気質に合った獣人らしい生き方が出来る優しい世界で北から南の行き来も楽に出来る。農民すら才覚さえあれば商人にもなれるのだ。 気候は温暖で最南以外は砂漠もなく、過ごしやすく農家には適している。そして、この百年で獣人でも魅力を持つようになる。エリオス世代は魔力があるのが当たり前に過ごしている。 そんな世界に住むエリオスはどうやって領地を自分好みに開拓出来るのか。 ※この物語だけで楽しめるようになっています。よろしくお願いします。

巻き添えで異世界召喚されたおれは、最強騎士団に拾われる

こざかな
BL
【1章書籍化】 【2章書籍化】 【3章書籍化】 【コミカライズ1巻・2巻発売中】 ブラックな弊社から久しぶりに我が家のベッドに帰還したおれ――四ノ宮鷹人が目を覚ますと、そこは都会では考えられない木々が生い茂る森の中だった。途方にくれているところを奴隷狩りに捕まったおれは、貞操の危機()に瀕していたところを奴隷狩りの制圧に動いていた王国最強の騎士団に助けられた。見た目から異世界召喚された神子として王城に連れていかれるが、そこには同じ日本人がすでに神子として扱われていた。え、おれただの巻き添え? という、巻き添え召喚くらった主人公が最強騎士団の双翼を筆頭に身体も心も愛されちゃう、主人公総受けなBLになります!

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。 お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

処理中です...