上 下
165 / 311

辺境伯領改革計画③

しおりを挟む
 俺の言葉にチルシアさんは、その可愛らしくも秀麗な顔を曇らせた。

「……そのような貴重な魔道具は、私よりも、エドワード様が信頼できる部下に預けるべきでは」

「申し訳ありません。チルシアさん。私の不手際で、私にはチルシアさんより武力に優れた、信頼できる部下がいないのです」  

 人間不信で積極的に味方を作ろうとしなかったツケを、今さらながら思い知らされる。
 WinWinの関係なら昔から信頼関係を築くことができたから、正義のヒーローアディマン時代に売った恩を使って、一般市民を味方にすることはできた。
 でも、残念ながら俺は、クソ親父の私兵はもちろん、王宮から派遣された兵にも、今まで大した恩は売れていない。
 だって、俺が化け物並のチート過ぎて、クソ怖がられてたしー? ある程度の年齢いったら、他の誰も着いて来れないのわかってたから、一人で鍛錬してたしー?
 クソ親父の私兵や、王宮から派遣された騎士が倒せないような魔物を討伐したことは何回かあるけど、そいつらが到着する前に倒してたから、寧ろ手柄横取りにしちゃった感じだしー?
 それを踏まえてなお、俺を個人的に畏怖し、崇拝している奴も少なくないとは思う。だけど、そいつらが求めている俺は【国境の守護者】としての俺であり、英雄としての俺で、セネーバとの講和を求める俺ではない。「絶対的強者」の偶像を求めてる奴らに、今さら色々働きかけたとしてもどうしようもない。……そうなるように仕向けた奴らがいるからな。
 つくづく留学前の自分の甘さと愚かさが悔やまれるぜ……今の俺なら、もう少し上手く立ち回れるのに。

「アストルディア殿下からの信頼を得て、派遣された貴方を私も信頼しています。どうか、我が領から子どもを害そうとする愚か者が出たとしても、転移の魔道具を使って未遂で済ませてください」

 たとえ襲撃が起こったとしても、傷害未遂で済ませられたなら何とでもなる。……いや、実際は死者が出たとしても何とでもなるのだ。交易の条件が悪くなるだけで。
 命は平等じゃない。アニカには口が裂けても言えないが、アニカ達草食獣人の孤児の身分は、セネーバにおいて最底辺に近い。……辺境伯領においてゼルさん達鉱夫の扱いが、そうであるように。
 最悪命が失われたとしても、所属する国の交易を優位にするぐらいの価値しかない、使い捨て可能な駒。それがゼルさんや、アニカ達の立場だ。だからこそ、全てを自己責任とされる商人以外に、二国間の行き来を許可された。
 言うならば、彼らは、彼女達は、二国における交易反対派の反応を見る為の試験紙であり、最悪の場合いつでも切り捨てられる存在なのだ。 
 それがわかっていて、俺はゼルさんや、アニカの孤児院に、国をまたぐことを要請した。必ず俺が安全を保証すると、そう説得して。
 俺は本当に、罪深い存在だ。……だからこそ、罪を重ねない為にも、絶対に彼らや彼女達を守りたい。それがただの自己正当化の為に過ぎなかったとしても。

「俺が離れることで、貴方達は襲撃を受ける可能性があります。けれどそれは同時に、子どもにも手を出すような外道な不穏分子を洗い出すことでもあります。利用していると、私のことを恨んでくれても構いません。貴方も子ども達も、必ず無事にセネーバに帰還してください」

 子ども達に聞こえないように耳元で囁いた言葉に、チルシアさんは驚いたように目を見開いた後、ひどく優しい笑みを浮かべた。

「貴方は驚くほどに正直な方ですね。為政者として、それが正しいのか正しくないのかは、私程度では判断がつきませんが、少なくとも私個人はとても好感を持ちました」

 そう言ってチルシアさんは、その場に片膝をついた。

「私はセネーバ王族に仕えているのではなく、アストルディア殿下個人に仕えております。殿下から貴方の命令は遵守するようにと命じられたので、貴方がどのような方でも忠実に従うつもりでしたが、気が変わりました。貴方がセネーバとリシス王国の未来について、どう考えているか教えてください」



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...