俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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辺境伯領改革計画①

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 クソ親父は成果が出てるからか、不機嫌そうな顔はしているけど文句は言って来ない。
 この調子でどんどんセネーバとの交易を進めていき、辺境伯領の領民に獣人を慣れさせたい。

「……荒っぽい気質と言えば、漁師も結構荒っぽいよなあ。セネーバを恐れて離職した奴が多い分、残った奴らは特に気が強い奴らだし。領海についてきっちり取り決めしたうえで、多少融通を利かせられるようになれば、味方につけやすいかも?」

 養殖を始めるうえで、培った伝手はある。今までセネーバに苦渋を舐めさせられて来た分最初は反発するだろうが、上手く言いくるめて利益になることをわからせれば、恐らくは最終的には受け入れるはずだ。
 魔石を加工する二次産業でも、少しずつセネーバとの交易を求める声は出ている。傷だらけの三級品の魔石でも、加工の仕方次第では十分役立てることはできるし、仕入れ値が安いならそれに越したことはないという業者も少なくない。
 セネーバの特産の果実や野菜も、こちらで独占的に仕入れて売り出せば、リシス王国では辺境伯領特産扱いになる。セネーバとの交易に他領が及び腰の内に動けば、それだけうちの領は有利になるのだ。

「……さあて。ここからが俺の腕の見せ所だな」

 反発が全く起きないことは、あり得ない。
 だから今後は上手くヘイトを管理したうえで、許容範囲を見定めて少しずつ政策を進めなければならない。
 他領の反発も注意は必要だが、ネルドゥース辺境伯領は元々ある程度独立した統治を行っているので、一番意識すべきなのは領民達の心理状態だろう。
 WinWinな交易だけで、納得してくれれば良いが。

 非常に難しい状況かもしれないが、だからこそよけいに燃える自分がいる。
 最大の難関だと思われた二国間の交易の再開が達成され、成果と課題が目に見える状況にある。漠然とした目標に向けて、実るかもわからない試行錯誤をしてきた昔に比べたらずっといい。

「俺は魔法や剣以外でもチートだってこと、領民にもセネーバにも見せつけてやるよ」  

 アストルディアと対立しない状況でいる限り、女神の呪いは、失敗の言い訳にはできないのだから。



 少しずつ、確実にセネーバとの交易は辺境伯領内で盛んになっていき、それに伴って領内での景気もよくなっていった。
 領民は、現金なもんだ。どれだけ恐れていた獣人達との交易であったとしても、自分の生活が豊かになるとなったら喜んで飛びつく。 
 そして商売に関して鼻が効くセネーバの商人も、積極的に動き始めた。
 最近ではセネーバ王家とリシス王国の王家、そしてクソ親父の許可を取りつけた獣人が、辺境伯領で歩く姿を見かけるくらいだ。獣人に反発する領民が商人を傷つけて国際問題になることを恐れたが、アストルディア曰く、商人が他国に出向いて被害を受けた場合、セネーバでは完全に「自己責任」扱いらしい。
 まあ、来る商人はみな辺境伯領の民が恐れて手を出せないような屈強な種族の獣人だし、理不尽に領民を害すことがあれば、こちらの法で処罰できることは決まっている。獣人の商人が出入りして良いエリアが定められていることもあり、今の所はまだ大きな問題は起こっていない。

「ーーすご~い! 見たことがない魔道具がいっぱいある。ここが騎士さまが生まれ育ったところなんだぁ」

「そうだよ。アニカ。山一つ挟んだだけなのに、色々違って面白いだろう?」

「人間も、いっぱいいるねぇ。みんな騎士さまみたいに、やさしいの?」

「獣人と同じで、優しい人もいれば悪い人もいるよ。悪い人に捕まったら危ないから、俺からは離れないでね?」

 ある程度獣人との交易が広まった時期を見て、アニカをはじめとした孤児院の子ども達を、辺境伯領に招待してみたりもした。もちろん誘拐されたり、傷つけられたりしないように事前に万全の対策をしたうえで。
 辺境伯領の領民の多くは、獣人は皆屈強で力が強いと思いこんでいる。
 アニカ達のような獣人の存在を、皆に知らしめたかった。……何より、すごく可愛いし。
 
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